第二百十三話*《三十二日目》そうだ、ダンジョンに行こう!
お昼は黙々と、ひたすら黙々とニール荒野で狩りをした。
【花の種の欠片】は予想以上にたくさん出たのだけど、狩りをしながらある程度たまったら交換出来たため、助かった。
手元に交換NPCがいるってとっても楽ですね!
『リィナ』
『はいにゃ?』
『少し早いが、キリがいいからこの辺りで一度止めて、ログアウトしよう』
『そうですね』
周りのモンスターを倒して、それから荷物も片付けて、と。
それにしても、アイロン台は使い勝手が良すぎる。
フォリウムとフロースをアイロン台に乗せて、【花の種の欠片】が貯まったらフォリウムの前に置けば変換して隣にいるフロースに渡してくれる。
アイロン台なんてアイロンを掛ける以外に用途がないと思ったけれど、使い方次第では便利かも。
ただ、足が細いから重たいモノは乗せられないけど。
『帰還』で洗浄屋に戻り、部屋に戻るのが面倒だから扉の前でログアウトした。
良い子は真似したら駄目Deathよっ☆
夕飯を食べて、寝る準備をしてからログイン。
ニール荒野に行って狩りをしていたのだけど、さすがに飽きてきた。
『飽きたでござる!』
『……新シリーズか?』
『にゃ?』
『……それは後で堪能するとして。そうだな、オレも飽きてきたところだ』
なにを堪能するのか、それはツッコんではいけないことなのだろうからスルーして。
『迷宮に挑戦してみるか?』
『ダンジョンっ!』
『他にも人がいるが、探索している人もいれば、ダンジョンの一室に隠って狩りをしている人もいる』
『ほほぅ』
『通路にもモンスターがいたり、いきなり沸いたりするから、気を抜けないぞ』
『あれ? ダンジョンのモンスターはアクティブなのですか?』
『アクティブ、ノンアクティブと混ざっている』
『それでは、真後ろにこっそり沸かれて、いきなり殴られてビックリすることもあるってことですね』
『そうだな』
『では、壁を背にして……』
『壁から沸いてくるのもいるぞ』
『ひぃっ!』
それは怖いっ!
『フィールドでの狩りに比べると難易度がぐんと上がるが、飽きることはなさそうだぞ』
ま、まぁ、フィールドでの狩りでは気を配るところは少ないから、それを思えばダンジョンは終始、気を抜けないし、周りを気にしながら狩らなければ、気がついたら囲まれていた、なんてことになりかねない。
でも、だからって挑戦しないのはもったいない!
そしてなにより、フィールドで狩るのは飽きたのですよっ!
『えと、ダンジョンは初めてなので、簡単なところから……』
『たぶんすぐに飽きるぞ』
『ぅ~……』
だからといって、いきなり難しいところに行くのはそれはそれで怖い。
『まぁ、リィナなら上限で行っても余裕だろう』
『いきなりDeathか!』
『死ぬ覚悟はあるようだな』
『痛いのはやDeathっ!』
『オレも周りは警戒するが、弓は意外と狭い場所だと取り回しが難しいことがあるからな。……二連続で殺しにかかるのは初めてだな』
『相変わらずマメですね』
結局、レベル三十五のダンジョンに挑むことになった。
ちなみにダンジョンのレベルは五刻みになっているようだ。
ダンジョンはレベル二十からあるという。
レベルによる入場制限はないのでレベルが低くても入ることはできるけれど、レベルのペナルティでよほど装備が整っていなければ厳しいらしい。
『装備……』
マリーが作ってくれた装備が快適だからあまり考えていなかったのだけど、今の私の装備はレベル相応なのだろうか。
『私の装備は整ってるのでしょうか』
『今まで問題なく来ているから、相応だと思うぞ』
そして、初の迷宮に挑むことになった。
◇
初めて降り立ったダンジョンは、岩を掘ったかのような、想像するまさしく『ザ・ダンジョン』といったところだった。
他にもプレイヤーがいるかと思ったのだけど、タイミング的にここには私たちだけのようだ。奥に進むときっと会うのだろう。
『ここは第四ダンジョンで、フローライトと呼ばれている』
『フローライトって石の名前ですよね?』
『あぁ。今のところ第一から第十までのダンジョンがあり、そこは難易度ごとにモース硬度の指標となっている石の名前が付いている』
『へー』
『それと、掘るとそれぞれのダンジョンの名前の付いた石が出てくるらしい』
『ってことは、ここはフローライト?』
『そうみたいだな』
『えっ? じゃあ、一番難易度の高いダンジョンだとダイヤモンドも?』
『出るんじゃないか? とはいえ、入ってすぐのこのセーフエリアにはない。戦闘区域にのみあるという。後はまあ、レア度の高い石はやはりいくら石があるといっても、なかなか遭遇することは出来ないみたいだな』
それは残念。
デジタルデータとはいえ、ダイヤモンドを掘ってみたかったなぁ。
『ダンジョン内のマップはあるが、この辺りのレベルになるとそれなりに複雑な構造になってくるから、マッピングが大切になってくる』
『マッピングは頼みました!』
『もとよりそのつもりだ』
キースが前で、私がそのあと、オルドは少し上から警戒、アイがしんがりという形で進むことになった。
『移動する前に、バフを掛けます!』
『頼む』
いつもの三点セットを掛けたのだけど、移動するから『癒しの雨』の雲はミニチュアで、それぞれの頭の少し上に浮いている。
『それでは、行くか』
いつもは横並びで手を繋いで移動するのだけど、列になっているので手を繋げない。
それが実は心細いということに気がついたらけれど、それを誤魔化すようにイロンをギュッと胸元で強く握った。
『……ダンジョンだと手を繋げないのか』
選択を失敗したかのような苦い声に、ちょっとだけ笑った。
『リィナ、心細くないか?』
『だ、大丈夫ですよ!』
『わたしが痛いほど握っているので、大丈夫ですよ』
『それはそれぞれ大丈夫という状況なのか?』
『平気ですっ!』
『わたしは少し痛いですが、我慢できない痛さではないです』
『イロン、ごめんね。もう少し緩めるね』
イロンを握る手から少し力を抜いた。
強がりだと分かっていたけど、それより今はどちらかというとダンジョンの探検を楽しみたかった。
『離れてないでくっついてくれてもいいからな』
『歩きにくいですから』
キースは前を向いて歩き始めた。私の歩行速度に合わせて歩いてくれているようだ。
こういう気遣いに気がつくと、なんというか、ますます好きになるというか。
基本はキースのペースなのに、ところどころでこうやって気遣ってくれていて、なんだかそれで胸が一杯になった。
……なんていう思いに耽ることもなく、いきなりモンスターが現れた。
出てきたのはカタツムリに似た、身体はぬめっとしていて紫色で、殻が緑というすごいカラーリングで、正直、気持ちが悪い。
『リィナ』
『はいにゃ! 『乾燥』っ!』
私の気持ちを反映した『乾燥』は、いつもより効きがよくて、音を立ててまるで蒸発するかのように煙を上げて一瞬にして消えた。
『なに今の消え方』
『すごい消え方をしたな』
『まさかここ、あんなのばかり出てくるなんてこと』
『どうだろうな。オレもここは初めてだ』
初見同士ってことですか、そうですか。
キースの背中越しに前を見ると、通路にはヌメヌメとあの変なカタツムリが蠢いていた。
『うわぁ』
『これは初っ端から心を挫いてくる光景だな』
『キースさんはダンジョンには?』
『行ったことあるぞ。ここではなくて、レベル二十だが』
『そこのモンスターは?』
『ファンシーな見た目なのが多かったが、見た目と違ってかなり凶暴だったな』
『へー』
『ふわふわのかわいらしいウサギだと思ったら、とんでもなく長い牙で攻撃してきたから、ギャップに驚いたな』
『……そう思うと、あの見た目なら躊躇なく戦える?』
『ニール荒野のウサギ相手にも容赦がなかっただろうが』
『あー……』
最初はかわいくて無理、と思っていたけれど、爪と牙で攻撃してくることを知ってからは、容赦なかったな……。
『とにかく、アレらを倒して、前に進むぞ』
『はいにゃ!』




