第二百十二話*《三十二日目》懲りてないらしい
VR MMO RPGである『フィニス・メモリア』の正式サービスが始まって、一ヶ月が経ちました。
MMORPGはいくつかプレイしたことがあるけれど、VRは初めてだったのでドキドキとわくわくで始めたのだけど、最初から驚きの連続だった。
最近は落ち着いてきたのか面白いことに出会わないのだけど、キースが転職して狩り場が変わったら、なにか楽しいことが起こるだろうか。
あるのかないのかはともかく、新しい狩り場はとても楽しみだ。
それはともかく。
オンラインゲームって、良くも悪くもダラダラと続くのよね。
それはストーリーがあってもなくても変わらなくて、とにかくサービスを続けるために運営はありとあらゆる努力をしている……らしい。
そのひとつがイベント。
イベントの時期はプレイヤーが活発になるし、普段、あまりログインしてこない人もイベントのために来たりするから、接続者も増加する。
今日は日曜日だから、昨日に引き続いてログインするのに時間がかかった。
昨日は昨日でイベントアイテムをかなり稼いだけれど、夜は飽きてお散歩をした。
小高い丘から世界樹の村を見下ろして。
夜の美しい景色を見て、気分転換をすることができた。
「今日は朝一番で美味しいダンジョンに行ってきましょう!」
「そうだな」
一日に一時間しか行けないけれど、とっても美味しいダンジョンへ。
ここは難易度は高くないし、楽だし、なによりも経験値もお金もドロップも美味しい!
フィールドでもこれくらいならいいのに……。
おしゃべりをしながら狩りをして、ダンジョンが終わってさて、次はどうしようかと思っていたら、上総さんから招集がかかった。
くそぉ。
って仕方がないので、ログアウト。
◇
本家へ行くと、上総さんが玄関ホールで待っていた。
ここで待っているなんて、珍しくない?
「早かったね、助かったよ」
そうして、私たちの先を歩き出した。
どこに行くのかわからないけれど、これは着いてくるようにということ?
麻人さんと顔を見合わせて、上総さんに着いていくことにした。
本家というだけあり、とっても広い。
「急に呼び出してすまないね」
上総さんが謝っている……っ?
「いつも急だが、今日は上総でも予想していないほどの急だったのか?」
「いや、心春に怒られて……」
なんというか、完全に尻に敷かれている状態?
「心春は、僕のことを一人の人間として見てくれている」
「そうだな。よかったな、心春さんを選んで」
「あぁ、そう思うよ」
心春さんと上総さんは上手くいっているようでよかった。
……それはともかく、上総さんの用件は?
「それで、オレたちを呼んだのはどうしてだ?」
「あぁ、そうだった。昨日の騒ぎなんだが、進展があったから伝えておこうと思って呼んだんだ」
昨日の件……?
フィニメモ内でのことをゲーム外に持ち込んで騒いでいた人の話?
「今日も先ほどまで大騒ぎしていたんだ」
「……懲りてないのね」
「警察が来て、対応してくれたんじゃないのか?」
「してくれたよ。だけど、今日来ていたのは、同じ団体だけど違う人たちだった」
「どれだけいるの……」
「今回は無駄に権力を持っている人たちが集まっているようでね。至急、その団体と関係者を洗い出してもらっているよ」
「なんというか、息抜きでゲームをしているのに、どうしてこうもなんか変なしがらみが……」
「莉那ちゃんが言うとおりだね。そのせいで僕も仕事が思うように進まなくてかなりイラついているよ」
これって結局、だれが悪いの?
いや、明らかにベルム血盟が悪いんだけど!
「心春のところにも猛抗議が来ているようで、かなり弱っているんだよ」
この様子だと、今までも自分たちが気に入らないことがあると、粘着気味に抗議して言い分を通してきた可能性が高いかも。
「今までも何度かこういうことはあったんだよ」
「え、そうなんですか?」
「うん。だけどね、今回はさすがにいろんなところに迷惑をかけまくっているから。──切ろうと思っているんだよね」
そういった上総さんの笑顔は、心春さんも言っていたけれど、『魔王さま』という言葉がぴったりだ。
「経過を知らせておこうと思ってね。ゲームの中で因縁をつけてくるかもしれないから」
「…………」
な、なんというか、現実と仮想現実を混ぜないでほしい。
混ぜるな危険!
「だけど、なんでそんな連中がここを出入りできているんだ?」
「世代交代したせいだよ」
「世代交代をした場合、ここの出入りの可否の審査はしないのか?」
「しているよ。交代してすぐは問題なかったからそのまま継続。でも、最近になって問題を起こすようになってきてね……」
「なにか原因でも?」
「原因は……そうだね……。彼らは『赤の結社』と名乗っていて、複数の団体からなっている」
「『赤の結社』……」
な、なにその赤の魔術師を彷彿とさせる名前。
「彼らは昔からあるとされている『秘密結社ごっこ』がしたいみたいだね」
「秘密結社……。そんなものが存在しているのですか?」
「さぁ。してるともしていないとも言えるね。でも、莉那ちゃんは秘密結社より稀なものを知っているよね」
「……へっ?」
なんだか間抜けな返事になってしまったけど、そんなもの、知らないのですが!
「藍野のことを知っているじゃないか」
「あ」
「秘密結社は極端な話、星の数ほどあるけれど、藍野はここひとつだからね」
確かに言われるとおりなんだけど、なんでだろう、レア感が薄いのは。
「でも、藍野は知られてしまったから、珍しくなくなってしまったよね」
知られたから珍しくなくなるって、それとこれは別もののような気がしないでもない。
それはともかくっ!
「麻人、なにが起こるか分からないから、特に莉那ちゃんのことをいつもより気に掛けて」
「あぁ、分かった」
◇
お昼を食べた後はまたもやフィニメモDeathよっ!
上総さんは気をつけるようにと言っていたけれど、なにをどう気をつければ良いのやら。
よく創作モノで「気をつけて」はもっぱらフラグだし、今回のこの出来事もなにかのフラグとしか思えない。
痛かったり、辛かったりするのはやだけど、ちょっと変わった出来事くらいならいいかな?
……明らかにレベル上げに飽きてきているのがよく分かる。
最近は特に事件がなくて刺激がないからかも。
……いや、ないことなかった。
でも、ベルム血盟のことは、私の中ではすっかりカウント外になっている。
何故ならっ!
上総さんに全部押し付けて、すでに終わっているモノと思っているからだ。
そうでなくても面白くない出来事だから、やっぱりカウント外だ。
「飽きたとはいえ、ニール荒野だな」
「狩り出来る場所があればいいですね」
「そうだな」
それにしても、こんなに地図は広いのに、どうして狭い範囲に狩り場を固めているのだろうか。
実は高レベル狩り場はまだ未実装とか?
……あり得る。
「そいえば、レベルの上限って未だに六十なのですか?」
「だと思うんだが。上限が上がったという話は聞かないな」
ということは、だ。
「今、暴れまくっているベルム血盟の人たち、レベル上限に達していて、暇なのでは?」
「……なるほど。それはありえるな」
ゲーム内でやることがないのなら、ログインしてこなくてもよいような気がする。
それか、ログインしてくるのなら、生産をやるとか、行ったことのない場所を探索してみるとか。
やることはたくさんあると思うのだけど、なんで人の邪魔をするのだろうか。
……あぁ、そうか。
自分たちが有利にゲームを進めたいから邪魔をしているのか。
それはそれであまり褒められたものではないけれど、ありかなしかで言えば、なし寄りのあり、か。
ただ、規約を守っていればなにをしてもいいってことではない。
規約はグレーでも守っていて、マナーは無視、というのはやはり反発される。
今はそれで俺TUEEEが出来ているかもだけど、長い目で見たら自分たちが不利になるのは明らかだ。
「ベルム血盟って子どもばかりなんですかね?」
「一応、VRゲームは十八歳以上という規定があるが……。年齢だけ食っていて、中身が子どもなのかもしれないな」
「なるほど……」
十八歳っていうと高校三年生って場合もあるから、中にはまだ社会を知らないような人もいるのかもだけど。
ほんと、色んな人がいるものだな、と改めて思える事件(?)でした。




