第二百四話*《二十九日目》【花の種】ゲット!
【花の種の欠片】から【花の種】にしてくれるイベントNPCと勘違いして捕まえてしまった緑髪のエルフのウィリデとともに世界樹の村をくまなく探してみた。
しかし、見つからない。
『いませんね』
『……どうもイベント告知の説明が怪しい』
そうなのよねぇ、【花の種の欠片】を【花の種】にしてくれるフォリウムと、【花の種】から【なにかの花】にしてくれるフロースふたりとも、探してくださいと書いてあるのだ。
『もしかして』
ゲーム内のイベント告知を見て思ったことがある。
『私たちはすでに発見しているけれど、認識していない可能性は?』
『どういうことだ?』
『フォリウムは種にしてくれて、フロースは花にしてくれるんですよね?』
『そうだな、そう書かれている』
『だれも一言もそのNPCが人型をしている、とは書いていません』
『……確かにそうだな』
『花壇にいたり……。いるし』
まさかのまさか、赤い三角が花壇の花の間から見え隠れしている。
こうやって発見すると、あらびっくり。
あちこちの花壇で赤い三角がユラユラ揺れていた。
……ちょっとホラーな様子なんだけどね!
『これ、全体にお知らせしたほうが?』
『いいかもな』
ということで全体にお知らせをしようとしたけれど、キースに止められた。
『オレがやる』
『にゃ?』
『他のヤツらにリィナのかわいい声は聞かせられない』
『…………』
ナニソレ。
【今回のイベント参加者に告ぐ。花壇を見ろ】
ぉ、ぉぅ。
大変に簡潔で分かりやすいお知らせですね!
【ぉ、キースじゃん。生きてた~?】
とかなんとか、色んな人からツッコミが入っていた。
声でだれか一発で分かるってのもすごいよね。
『人気ものですね』
『フーマのおかげ、だな』
そんなこんなで少しだけ対応に時間を取られたけど、フォリウムはたくさんいるのでケンカにはなっていないようだ。
『私たちも交換してもらいましょう』
周りを見るとチラホラとプレイヤーはいるけれど交換してもらうことに夢中のようだ。
「こんにちは」
花壇の端っこにいるフォリウムに声を掛けると、目つきが悪くてかなりやさぐれた感じだった。
そして初めて近くでフォリウムを見たのだけど。
「……巨大な種っ?」
なんと、ヒマワリの種のシマシマがなくなった形の十五センチくらいの高さのしずく型の種? が花壇の土の上に立っていた。
「……なによ、なんか文句あるの?」
「ぁ……えと、いえ特には」
「それなら、早く【花の種の欠片】を全部ちょうだい」
「全部?」
「そう、全部。多ければ多いほど、種がたくさん出来るわ」
フォリウムに言われるがまま【花の種の欠片】をすべて渡した。
「な、なにこの量!」
「いっぱいドロップしたよ?」
「そ、そうなのね。……では」
そう言って、フォリウムは大きく口? を開けると【花の種の欠片】をすべて……え? 飲み込んだっ?
「もぐもぐ……ごっくん。この味はニール荒野ね」
「……はい」
あまりの出来事に固まってしまった。
え? 食べちゃった? これでは種がゲット出来なくないっ?
「阿鼻叫喚なウィスパーがたくさん来ていたのはコレか」
キースは私の少し後ろで様子を見ていたようだ。
「オレのも渡そうか?」
「ぐうぇっぷ。お腹いっぱい、破裂……するうぅぅ」
そういうと、フォリウムはプルプル震えたかと思ったら、ぎゅいんと音を立てて大きくなった。
「なっ?」
何度かぎゅいぎゅいと音がして大きくなった……と思ったら、ぷるぷると震え、ぱぁーんと音を立てて弾けた。
「ぅきゃぁっ!」
キースは無言で私の腕を掴むと腕の中に入れてかばってくれた。
キースの腕の中でフォリウムを見守ろうとしたのだけど、白い光を放っているためにまったく見えない。
しかしその光も少しずつおさまってきて……。
「にゃ?」
フォリウムの姿が消え、その代わりに【花の種】が山盛りに花壇に落ちていた。
「これ?」
「【花の種】だろうな」
手で触れると、すべてがインベントリへと移動した。
「欠片に比べて、四分の一くらいになってますね」
「思ったより変換効率が悪いな」
そんなことを話していると、下からキュイキュイと聞こえてきた。
「ん……にゃ?」
種はすべて片付けたはずなのにひとつ残っていて、キュイキュイ言いながらぴょんぴょんと飛んでいる。頭の上だと思われるところに赤い三角がついている。
「フォリウム?」
「キュイキュイっ!」
なにかしゃべっているようなのだけど、声が小さすぎて聞こえない。
なのでキースの腕の中から抜けてしゃがみこんだ。
「もう! なんなのよ! せっかくあそこまで大きくなれたのにっ! あんたのせいでこんなに小っちゃくなったじゃない!」
近づいてようやくなにを言っているのかが分かった。
「一度にたくさん取り込んだからじゃないの? 欲張りはよくないわよ」
「ぐぅ。……あんたが一気に渡すからじゃないのっ!」
「全部出すように言ったのはあなたでしょ」
フォリウムはさらになにか言おうとしていたけれど、キースがつまみ上げたことで大人しくなった。
「それ以上、リィナになにか言うようなら、ここにいる鳥の餌にするぞ」
「え? ボクですか? そんな喋るモノを食べたら、お腹の中でも喋ってそうで嫌ですよ」
オルドの嫌そうな言葉に、その様子を浮かべておかしくなった。
「オルドのお腹からキュイキュイ聞こえてるって考えたら、むちゃくちゃおかしいんですけど」
「リィナリティさん、失礼ですね」
「生きたまま丸呑み……。そう聞くとすごくない?」
「それをいったら、鳥は基本、丸呑みだな」
「そうなの? ……あ、くちばしはあるけど、歯はないのか。……って、なんの話っ?」
どうも毎回、話がそれまくって脱線する。
「とにかく! フォリウム、身体を小さくしてまで交換してくれて、ありがと」
「え、それだけなのっ?」
「それでは、今度はオレのを交換してくれないか」
「…………。またたくさん……あるのね」
「あぁ、リィナと一緒に狩りをして得たから、だいたい変わらないだろう」
小さくなったフォリウムはさすがに一度に全部は飲み込めないようだ。三分の一ずつ飲み込み、結果は合わせて四分の一くらいになっていた。
元よりは小さいけれど、かなり大きさを取り戻したフォリウムは安堵したようにため息をついていた。
種がため息をつく……。
いや、それより動いたり、欠片を食べたり、喋ったりするのがおかしい。
いやいや、ここはゲームの中。
不思議ではあるけど、おかしくはない。
「変換されたら元の四分の一になる、と」
「そうですね」
「しかも【花の種】とあるが、なんの花なのか分からないのか」
「植えて咲いてからのお楽しみ、ということ?」
「だな」
咲く花の種類は公式サイトのイベントページに書いてあった。その花からなにが出るかも。
「本当に花から武器、防具が出るんですかね?」
「どうだろうな。こんな面倒なことをしないで、種を植えてアイテムが出るようにすればよかったのにな」
「言われてみれば」
どうにも今回のイベントは面倒くささが先立ってしまい、意図が分からない。
「まずはフロースを探すか」
「探すまでもなく花壇にいるのでは?」
フォリウムがいるより少し奥に視線を向けると、一見すると雑草にしか見えない草が生えている。だけどその天辺にはフォリウムと同じ赤い三角が見えていた。
「あなたがフロース?」
「そうかもしれないし、そうではないかもしれないわ」
「……どうしてNPCはこんなにもひねくれた性格のヤツばかりなの?」
「設定した人物がひねくれているのだろう」
「あー……、そういうこと?」
AIが搭載されたからかと思っていたけど、素の状態がひねくれてなければそちらの方向に進化をしないか。
「あなたがフロースという前提で話を進めるわ。【花の種】を持ってきたから、花を咲かせて欲しいの」
「花が必ず咲くと思っている愚か者よ! 真実を知るがよい!」
フロースは葉っぱの先を私に向けてきた。
かなり生意気な態度ではあるけど、愛嬌があってかわいらしい。笑いそうになるのを我慢するのが大変だ。
「……リィナリティさん、こんな態度を取るNPC、つついて食べてもいいですか?」
「オルド、それはしなくても大丈夫よ」
「どうしてですか」
「あれを食べたらお腹を壊すわよ」
「……お腹は大丈夫だと思いますが、ボクはあんなにひねくれたくないですから、止めておきます」
オルドのそのひと言に吹き出してしまった。
せっかく笑いそうになるのを我慢していたのにっ!
お腹を抱えて笑いが治まるまで時間が掛かってとても大変だった。




