第二百三話*《二十九日目》イベント《花束を集めて》が開始したぞ!
このご時世に鯖が倒れるなんて珍しすぎるのだけど、今はそれが解消されて、問題なくログインできた。
一気に海外からも接続されたとしても、その程度でって思う。うーん、なにかがおかしい。
「リィナ?」
毎度ながら抱きしめられていることを意識の外に追い出したくてそんなことを考えていたのだけど、考えても分からないことだ。
「鯖が倒れるほど殺到したことへの疑問を考えてました」
「そこはオレも不思議に思っている」
フィニメモは今はまだ日本でしかサービスされてない。
のだけど。
来月から海外でもサービスが始まるらしいから、わざわざ規約違反をしてまで繋げることにあまり意味がないような気がする。
先行してレベル上げなんてしても、鯖が違うわけだから引き継がれるわけもなく意味がない。
「海外から接続があったのは間違いないだろう」
来月から海外でもサービス開始、という情報は数日前に発表されたから、それ以前に待ちきれなくて規約違反を犯してまで繋ごうとした人がいたかもだ。
いたとしても海外から繋いでいれば弾いただろうし、偽装しているのも弾いているはず。
なんでも海外からはログイン画面にすら到達できないらしい。
「ものすごく単純だが、プログラム側のどこかを弄ってループ設定にして暴走させた可能性が高いな」
「ループ設定にしていても、暴走する前にストップが掛かるはずでは?」
「強制ループをさせていたか、それさえもストップさせられるから負荷が掛かることを多重ループさせていたか」
「悪意しか感じないのですけど」
「調べたらだれが仕込んだか分かるのにな」
そういえば、そうだった。
いくら自分が仕込んだバグを自分で修正しても、履歴を調べたらだれがやったか分かるのに。
「……意味がまったく分からないです」
「《ピー》としか思えないな。……おっと、禁止ワードだったか」
そう言って、キースは苦笑していた。
「さて、経験値稼ぎついでにイベントもやるとするか」
なんて言ったのか気になるけれど、どうせここで発言しても伏せられるのだ。気にしない、気にしない、と。
「あいにゃ」
◇
今日も今日とてニール荒野に来ました。
が。
『……予想以上に混んでいるな』
『普段はこんなに人がいないのに、どこから沸いてきたのでしょうかね?』
うーん、イベントだから?
ルールを見たらあまり美味しいイベントに思えないんだけど……。
って、このイベント、そういえば最終的に花が咲いたらそれに応じてなにかアイテムと交換してもらえるのよね?
『ん~?』
景品一覧を見た。
体力回復剤といった消耗品から見た目だけのアクセサリ、なにに使うのか分からないもの、スキルを覚えられるスクロール、よい景品になると武器や防具とある。
『どうした?』
『ぇ……。いやいやいやいや、当たらないでしょうっ!』
『花と交換して得られる最終的なアイテム、か』
『属性別の武器一本あるいは防具セット(頭、上下、手足)なんて、当たります?』
『確率が書かれていたが、まず、そこの景品の箱が当たる確率が一%。百回交換して一個あるくらいの確率だ。思っているほど入手不可能ではないな』
だからこんなに混んでいると?
『しかしこれ、二重、三重抽選だな』
『へっ?』
『一番良い景品が入っている箱がゲットできても、必ずしも目当てのものが入っているとは限らない』
『そういうの、よかったんですっけ?』
『現実でのお金を使っての課金だとやっては駄目だが、ゲーム内のイベントなどだとそこは制限はない』
『ぬぁんとっ!』
そんな話を聞いたら、萎えまくりなのですけど。
『もっと端に行くか』
『……あいにゃ』
すっかりやる気をなくした私を見て、キースは苦笑して頭をポンポンと撫でてきた。
『イベントはついでだと思えばいい』
『……にゃ』
それならばいいか。
人がいない端でキースとふたり、いつものように狩りを始めた。
いつもだと周りに人がいないことをいいことにやりたい放題で狩りをしているので、今回のように周りを気にしながら狩りをするのが正直、辛い。
いえ、当たり前のことなんですけどね。分かっていても、辛いのですよ!
接続している人数を思えば、今まで他のプレイヤーと被らなかったのが奇跡だと思う。
それでもそこそこの速度で狩りができていた。
イベントアイテムなんだけど、どうやら直接インベントリに入るようだ。
『思っている以上にイベントアイテムが来るな』
『そうですね。……種にするときにどれくらいの確率で成功するのかわかりませんけど、このドロップの様子を見ていると、確率は低そうではないですか?』
『それはオレも薄々感じている』
一体倒すと欠片は必ずひとつドロップしている。どちらか片方に、あるいは両方に来ているので、すでに相当数の欠片を持っている。
『端で遠慮しながら狩りをしてこの数だから……』
『某血盟のように使ってますしながら狩り場を占領しているようなら、恐ろしい数をゲットできそうですね』
『一度、キリがよいところで交換をしてみないか?』
『そうですね。思っている以上に交換に時間がかかる可能性もありますし』
モンスターがいなくなって、すっきりとした視界になったところで、私たちは一度、『帰還』で洗浄屋へ戻ることにした。
洗浄屋の扉の前に着いたので、再度、イベントNPCがいるところに行くために鍵を開けて扉を開こうとしたのだけど。
──そのオーダーは受け付けられません。
と初めて拒否されてしまった。
「ふむ、イベントNPCを探して交換してもらいましょうと書かれていただけある。どこへでもつないでくれるはずの扉も拒否なのか」
「まー、そもそもが思ったところにすぐにいけるこの扉がチートですからね」
一度、見つけたら次からはつないでくれるのかどうかはわからないけれど、地道に探すしかないようだ。
「交換の前に探すのに時間がかかりそうだな」
「きっと人が群れているところがイベントNPCがいるところですよ!」
「なるほど、それはあるな」
ということなので、世界樹の村の北口に送ってもらうことにした。
どうして北口かというと、なんとなくで特に意味はない。
北口に近い裏路地に私たちは出て、それから周りを見回した。
さすがにいきなりいるはずは……。
「あ」
不自然なくらい建物の角からこちらをうかがうように見ているNPCと目があった。
服は壁に隠れているから見えないけれど、髪の毛は長い緑色の女性だ。耳は髪で隠れているからわからないけれど、エルフのような気がする。
「もしかしなくても、フォリウム?」
「ち、ちが」
「いません、と」
今にも逃げだしそうなフォリウムを私とキースで挟んで捕まえた。
うむ、息ぴったりだ。
「さて、【花の種の欠片】を【花の種】にしてもらいましょうか?」
「だ、だからわたしは違います!」
壁の向こうからこちらに出てきたNPCは深緑色の質素なワンピースを着ていた。年は三十代くらい? あ、エルフだったら見た目年齢と実年齢が違うから見た目がそれくらい。
「違うんですか?」
「あのね! イベントNPCだったら目立つように赤い三角なの! ほら、わたしのを見てよ!」
言われて頭の上を見たら、青かった。
「たまたまここに材料を調達に来ただけなのに、なぜかいろんな人に追いかけられているのよ!」
「……見た目がいかにもなので、つい」
「ほんっとまったく!」
とぷりぷりと怒っているのだけど、緑の髪に緑の服を着ているエルフだと思ったら、イベントNPCだと勘違いしても仕方がないよねぇ?
「まったく、なんでイベントNPCが固定の場所にいないのよ! とっても迷惑だわ!」
「それなら、直接文句を言いましょう!」
「えええっ?」
驚いているNPCが逃げ出す前にキースがリーダーでパーティを組み、名前は知らないけれどNPCもパーティへ。
『名前がわからなくてもパーティに誘えるもんなんだな』
『そうなんですね。……それにしても、素直に応じるのですね』
緑髪のNPCエルフ──名前はウィリデというようだ──は思いっきり不機嫌な表情で私たちを見た。
『名前がわからないと誘えないですよ!』
『だが、なぜかメンバーになっている』
『うー……。納得いきませんが、仕方がありません。ささ、フォリウムを探しにいきますよ!』
ウィリデに促されて、私たちはフォリウムを探すために世界樹の村を走り回ることになった。




