第二百二話*どこまで行ってもいまだに問題を作り出す天才
本日はメンテナンス日。
ということなので、午前中はまったりしてました。
「莉那」
「はいにゃ?」
「フィニメモの公式ページを見たか?」
「今日ですか?」
「そうだ」
「見てないです」
「見てからログインすることを推奨する」
ん?
なにか大きな変更でもあった?
と思って見にいくと。
「……イベント?」
「そうだ」
「《花束を集めて》? ……なになに、モンスターを倒すと、一定の確率でイベントアイテム【花の種の欠片】がドロップします。これを集めて、イベントNPCであるフォリウムを探して渡してください?」
「さらには、【花の種の欠片】を【花の種】にしてもらって──ちなみに、変換は一定の確率で失敗するようだ──、次はイベントNPCのフロースを探して植えてもらって花にする、と」
「な、なにそれ、面倒っ!」
「言うと思った。同感だが」
手が込んでるイベントと言えば聞こえはいいけど、種の欠片から種にしてもらうのに失敗するって。
というかだ、なぜ、素直に種をドロップにしないの?
「どうして欠片のドロップなんでしょうか」
「うーん? たぶんだが、種のドロップにすると数が出てしまうからではないか?」
「そこはほら、ドロップ率の調整をすれば……」
「そんな細かなことをする運営だと思っているのか?」
「細かいことですか?」
「オレは細かいというより当たり前のことだと思っているが、運営からすると違うかもしれないだろう?」
「……確かに?」
さらに詳しいことを知っておこうとイベント内容が書かれているページを見た。
種になったらNPCフロースに渡すと植えてくれて、その結果のアイテムと交換してくれるらしい。
ちなみに、植えても発芽しない場合もあるし、発芽しても枯れる時もある。さらには花が咲かないってときもあるとか。
「……なんというか、イベントをする気があるのですかね?」
「さあ?」
しかも、種の欠片、種はトレード不可だという。
「種の欠片と種のトレード不可はまあ、納得だな」
「きっと転職アイテムの件で学んだのでしょう」
「イベントアイテムに関してはトレード出来てもよいような気もするが、イベント自体が初めてだから、試しのような気もしないでもない」
「βテストではなかったのですか?」
「そんな余裕はなかったな」
「なるほど」
初めてのイベントだからちょっとだけ凝ってるのかしら?
「イベントが始まっているから、混雑してログインに時間が掛かるかもな」
「では、そろそろログインします?」
「そうだな」
ということで、ログインしようとしたら、麻人さんと私に同時に連絡が入った。
「にゃ?」
誰からかと思ったら、心春さんだった。
「はい」
『麻人さん、莉那さんっ!』
「どうしました?」
なんだか切羽詰まった声の心春さんに心配になって問いかけると、
『サーバが倒れましたっ!』
「ぉ、ぉぅ?」
えーっと?
鯖が倒れた?
「そもそも鯖は横向きですし」
「莉那、落ち着け。それは魚の鯖だ。心春の言っているのはサーバだ」
鯖ではなくて、サーバ?
「ぇ? 鯖が倒れたっ?」
「倒れたって、どういうことだ?」
前に一度、ログイン規制がされたことがあったけど、今回はそれをしてなかったの?
「ログイン規制は?」
『される前に、その』
「ぉぅ」
「ミラーはないのか?」
『ありますけど、そちらに切り替わるときにブッツリ逝ったようでして』
「そんなに簡単に駄目になるものでした?」
『いいえ。一万人が同時接続しても耐えられるように設計されていますし、テストもしました』
えーっと?
ということは、一万人以上の人が一斉に接続しようとした?
『……もう、なんというか。トラブルだらけで泣きそう』
泣きたくなるのは分かる。
「もう指示はしたのか?」
『しましたよ。して、一段落したので連絡しました』
というより、だ。
「上総さんに連絡は?」
『しましたけど、繋がりませんでした』
やっぱりお仕事中なのかしら?
「もう一度、上総に連絡しろ」
『はい、分かりました』
今、ログインしようとしても鯖が倒れているのなら出来ない。
さて、どうしよう。
「上総のところに行こう」
「え? なんでですか?」
「小春も行くからだ」
「……あいにゃ?」
なんだか良く分からないけれど、とりあえず行ってみよう。
◇
上総さんの仕事場、要するに本家に来ました。
麻人さんの予想どおりに心春さんも来てました。
「よく来てくれたね」
そう言って、上総さんは人払いをしてくれた。
「さて、と」
上総さんは私たちを見て、それから麻人さんの頭の上あたりをジッと見た。
「小春」
「は、はいっ!」
「海外からの接続は?」
「……あ!」
「身元を偽装しているアカウントは弾くように」
「は、はい」
「これで解決、だね」
あれ?
「え、日本国内からしか駄目なのでは?」
「はい、そうなんですけど、……ミルムが」
ん?
どうしてここにミルムの名前が?
「今日からイベントをするというのは実は正式サービスをする前から決まっていたんです」
ま、まあ、そうじゃないと開発が間に合わないよね。だから納得。
「なので、ミルムもこのことは知っていまして」
「タイミング的に知っているな。いや、開発の一員として知っていないとおかしいのか」
「はい」
「どうも前から不満を持っていたようでして……」
「……トロイの木馬を仕掛けていた、ということか?」
「トロイの木馬?」
「詳細はかなり省くが、大きな木馬を作ってその中に兵を隠して、敵軍の陣営に木馬を送りつけて、そこで中から出て敵を倒していく、ということを昔にやったらしくてな。
害がなさそうなものの中に害意の塊を隠しておいて、タイミングを見はからって内部から破壊していくってことを総じて『トロイの木馬』というようになったわけだ」
「それは……気がつきにくいですね」
「どうもミルムはわざと時間差でそういったものを仕込んでいたようでして、今までも何度か小さなトラブルはあったのです」
うーむ、ミルムはなにをしたかったのか。
「……もしかして」
私の呟きに、三人の視線が一斉に向いたのが分かった。
「にゃっ?」
「莉那、気にせず続きを話して」
「……はいにゃ」
とても緊張するけど、息を吸ってから口を開いた。
「自分がコントロールできるトラブルをわざと起こして、それを自分で解決して、こんなに優秀なんですよアピールをしようとしていた、とか?」
場が怖いくらいの静寂に包まれた。
ぁ、妄想が過ぎた?
「……なるほど」
「それで分かりました」
心春さんの表情は昏く沈んでいた。
「基本はAIが仕様に基づいて設計していたのですが、やたらにバグが多くて不思議だったのです。……ミルムのそれまでの言動を思い出すと、それが真実であるかと思います」
かなり前だけど、楓真が言っていた話とつながってくるのか。
「では、人間が手を加えないほうがトラブルが起きにくいシステムになるってことですか?」
「そうとも限らないのです。仕様どおりに設計されているのか、細かいところは使用するうえで快適に使えるのか……といったことは、やはり人間が実際に操作したりして、確認しなければなりません」
「任せっぱなしにはさすがにしたらまずいと」
「そうです」
なんというか、まだたくさんの仕込みがありそうな気がするんだけど。
「以前、徹底的にミルムが手を加えたと思われるところを探して修正をしたのですけど、今回のはどうも別の人が書いたプログラムに紛れさせていたみたいです」
「……なんでしょう。そんなに憎かったのでしょうか?」
「今回のを見ると、いわゆるマッチ&ポンプだな。自分を認めさせるためにやったのだろう」
トラブルになったのはAIにプログラムを書かせたからだ、って言いたかった?
「今回のことで、また人が辞めていきそうです……」
「まさかサービス早々、裏の人たちがいなくなるせいで終わってしまう危機?」
「……それ、冗談ではなくてありえそうです」
そんな話をしていたら、鯖が復活したと心春さんに連絡が入った。
私たちをそれを聞いて家に戻ってログインすることにした。




