第百九十七話*《二十七日目》無双するのだ!
まずは、私たち有象無象チームと、ベルム血盟チームと分かれて陣営を作ることになった。
ここの広場はいろんな使い方が出来るみたいで、管理画面のボタンひとつで必要なものが出てくるという。
それってすごいよねっ!
今回はそれぞれの陣営をまず設置。
それから所属チームを一目で分かるようにするものとして腕章と、頭の上に腕章と同じ色の旗が表示されるようにした。
私たちは青、ベルム血盟は赤。
相手のHPをゼロにしたら自動で相手の腕章がとどめをさした人に渡り、頭上の旗が消えてフィールドから観客席に移動させられるようになっている。
これで攻撃資格がないのに攻撃してくる人はいなくなる。
団体戦だと個人戦よりも勝敗の決め方は色々とある。
今回みたいにどちらかの人員がゼロになるまでというのもあるけど、時間を決めて、それまでに陣地を守ったら勝ちとか、旗を取り合ったりと意外にもルールはたくさんある。
ちなみにあまり好きではなかったけど、オンラインゲームで対戦はそこそこやってきた。
得手不得手でいえば不得手だけど、今回はそうは言っていられない。
というかだ、今までの仕打ちに実は内心ではとても腸が煮えくりかえっているので、直接手を下せるから楽しみで仕方がない。
と言っても、どこまで通用するのか分からないけどね。
【それでは、始めるぞ】
そう言ってキースは開始ボタンを押した。
すると私たちの目の前でカウントダウンが始まった。
ゼロ、という声と共にベルム血盟の人たちが一気に押し寄せてきた。
『うう、いきなり……っ! 『アイロン充て』っ! 『アイロン補強』っ! 『癒しの雨』っ!』
全員にかけている余裕はなさそうなので、届く範囲でバフを掛けた。
ステルス状態にしていなかったため、バフが掛かった人たちはキラキラと眩しいくらいに光っている。
『え、なにこれ?』
『説明は後だ。ベルム血盟員をひとりでも多く倒してきてくれ』
『ラジャっ!』
私とキース以外はみんな走ってベルム血盟員を倒しに行った。
『ふふふ……。これまでの恨みを晴らすときっ!』
『あまり悔しがっていなさそうだったけど、そうではなかったのか』
『悔しいに決まってるじゃないですかっ!』
キースは私の返事に納得したのか、背負っていた弓を装備して、ここから狙えるベルム血盟員へスキルをしこたまお見舞いしていた。
私も負けませんよっ!
『『乾燥』っ!』
範囲を最大級にして『乾燥』を詠唱すると、思っていた以上にベルム血盟員がバタバタと倒れていた。
そして手元に予想以上の赤い腕章が届いた。
今、気がついたのだけど、視界の端に青と赤の旗が表示されていて、その横に数字がある。
どうやらこれが参加者の人数みたいなんだけど、気がついたのが今だったので、最初の数字は分からないけれど、私たち青チームは百人いないくらいで、ベルム血盟の赤チームは二百人と少しいるくらいだった。
って、どれだけ参加しているの、ベルム血盟。
参加者にかなり差があると思っていたけれど、倍以上、違うのね。
でも、負けませんよっ!
『不正をしているのではないかと言われるくらい、思っていた以上に威力があるな』
『ふふふ……。全員、《ピー》んでしまえっ!』
おっと、興奮し過ぎて思わず禁止ワードを口にしてしまったではないか!
『……リィナを怒らせたら怖い、と』
『そんなことないですよ?』
まだ少し猫をかぶっていたのだけど、剥がれてしまった。とはいえ、それでもまだまだ猫さんたちは私にひっついているけどね!
『ほらほら、キースさんも攻撃してください!』
『……分かった』
『乾燥』は洗濯屋の唯一の攻撃スキルなのだけど、連続で使えないのが欠点だ。
だけどこれだけ強いから、連発されても困るってのも分かる。
『『乾燥』っ!』
使えるようになったら即使用。『乾燥』を詠唱するごとにベルム血盟員の旗が視界から消えていく。
うむ、面白い。
私とキース以外の青チームもどうしていきなりベルム血盟員が倒れるのか分かってないからか、少しざわついている。だけどベルム血盟員はもっと訳が分からないようだ。
【おい、キース。なにかズルやってないか?】
案の定、トニトからクレームが入った。
【こちらでは持っているスキルを使用してしか攻撃していないぞ。そもそもどうやったら不正が出来るのか、こちらが聞きたいのだが?】
その質問がトニトのなにかを刺激したらしい。
地響きがするのではないかと思われるほどの低い声があたりに響いた。
【なるほど、サニがBANされたのは、おまえらお得意の不正のせいか】
不正とはいいますけど、そもそもシステムにないものは使用できないってのがゲームでの常識だと思うのですけど。
それともなに、使用できるけどゲーム内では禁止されているなにかでも使っていると言いたいの?
いやいや、そんなことはしていませんよ。
むしろ私は被害者だと思うのですよね。
……というのはともかくとして。
『サニってだれ?』
疑問に思ってキースを見ると、げんなりした表情をしていた。
『リィナのローブを引っ張ったヤツがいただろう?』
『…………?』
しばらく悩んで、ようやく思い出した。
『あぁ、あのときの!』
『もう忘れているのかよっ!』
『取るに足らない出来事と認識して、忘却の川に流しました』
【サニがBANされた?】
【そうだ! おまえらふたりに遭った数時間後にいきなり俺たちの前から姿が消えた!】
【ログアウトする時間だったとか?】
【狩りをしてたんだぞ! ログアウト時間を聞いていて、直前まで笑いながら狩りをしていたんだぞ!】
と言われましても。
気まぐれに飽きて勝手にログアウトしたっていう考えにはならないんだろうか。
どうにも私の中ではそういう認識の人なのですけど。
【サニは確かに気まぐれなところがあるが、さすがに周りになにも言わないでいきなりログアウトするようなヤツではない! 現に今回、サニはいきなりログアウト状態になったから慌ててログインしようとしたら、『規約違反をしたためアカウントは削除されました』って出て、ログインできなかったと泣きながら連絡してきたんだぞ】
そのあたりの真相を知っていそうなのは、やはりオルド?
オルドに視線を向けると、パタパタと飛んできて耳元で囁かれた。
『その件につきましては、前からマークしてまして、何度か警告しています。そして今回の件で累積ポイントが貯まったため、措置を取らせていただきました』
『要するに自業自得?』
『Deathっ!』
サニとはまったく面識がなかったところでいきなりローブを引っ張られた。
サニの様子からこれが初めてではなさそうだった。分かっていてやりました、って表情をしていたものね。……偏見かもだけど。
私たちはまさかローブを引っ張れるなんて思っていなかった。
そもそもがローブなどプレイヤーが身につけている物が引っ張れたとしても、プレイヤーに害を与えることができるってことで禁止事項になっているはず。たとえ明文化されていなくても、それは運営側が設定ミスをしていることでできるだけなのでバグ利用となる。
なのでそれがバグだと分かっていようが分かっていまいが、やってはいけないことをやっているってことで、ペナルティポイントとなるのは明白だ。
といっても、運営の対応はちょっと性急だったとは思うけれどね。
それか、とんでもないほどの害意があってメンテナンスまで待てなかったか、だ。
【違反ポイント累積BANじゃないか】
【違反? サニがいつ違反した?】
え……?
それ、本気で言ってるの?
【トニト、おまえそれ、本気でそう思って言ってるのか?】
【むしろなにを持ってサニが違反したと判断された?】
あ、これ、あかんやつや。
自分が世界の中心で、自分がルールだと本気で考えている人だ。
私は相手をするのが馬鹿らしくなったため、キースに任せて淡々と『乾燥』を詠唱してベルム血盟員を削っていくことにした。
【現実世界もここも、俺が世界の軸だ】
ぉ、ぉぅ。
本気で思っている人だった……!
【……なるほど】
さすがのキースも絶句しているぞ、と。
それにしても、本当の本気でそう思っている人っているのね。
そんな話をしている横で『乾燥』を掛けまくっていると、いつの間にかベルム血盟員は数えるほどしか残っていなかった。
視界の隅に映っている人数はこちらは先ほどとほぼ変わらず、ベルム血盟は五十人ほどに減っていた。
『乾燥』恐るべし……!
『形勢逆転だな』
キースもベルム血盟員がかなり減ったことが分かったようだった。
『サシャ、単体で相手ができる強そうなヤツから倒していってくれ』
『りょーかい』
『ももすけとケンタムは隠れているヤツらを探して対処してくれ』
『おう』
『フィーアは一度、こちらに戻ってきてほしい』
『……よく分からないけれど、いいよ』
相手がまばらになってきたため、まとめて『乾燥』を掛けるのが難しくなってきた。
後はやはり残っているってことは、それだけレベルが高くよい装備をしているってことで、『乾燥』が効きにくい。
さて、久しぶりに『乾燥・解』の出番なのかしら?




