第百八十四話*《二十五日目》いきなり推理物ですかっ?
お昼の部です!
麻人さんはまだ帰ってきていなかったけど、メッセージが届いていて、夕飯までには帰る予定、とだけあった。
私からは『分かったにゃ』と返事しておいた。
ということで、朝に引き続き、お店の手伝いです!
洗い場に行くと、オルとラウがいた。
「また手伝ってもいい?」
『もちろんでち!』
朝と同じく私が『癒しの雨』と『洗浄の泡』、『乾燥』をオルとラウがする。
午前中だけでは白い物が終わらなくて、大物相手に格闘した。
それから色物。
薄い色からやって、徐々に濃い色に。
濃い色になると色落ちがあるのでドキドキだ。
ラスト一枚となった真っ赤なカーテンを濡らしたら一気に色が抜けて青ざめていたら、オルとラウが違う意味で青ざめた。
「ラウ、これ」
『ヤバいものでち! クイーンクェ、大変でち!』
ラウが大声でクイさんを呼んでいた。
私は慌てて洗い場から出たのだけど、そのとき、ふと錆の臭いが鼻をついた。
錆の臭い?
……え? これってまさか。
「オル。これって血」
「しーっ!」
オルが鼻の前で人差し指を立てたのだけど、かわいい! ……と和もうと思ったのだけど、それどころではない。
とそこへキースがログインしてきたというお知らせが。
ちなみにオルドとアイは私と一緒に洗い場にいる。フェリスとイロンは言わずもがなだ。
クイさんはラウに呼ばれてやってきたのだけど、そんなにあせっている様子はない。
「なんだい」
『クイーンクェ、大変でち! これを見るでち!』
洗い場には広げられた赤いカーテン。『癒しの雨』で濡らされて一部が色落ちしている。
赤いカーテンが色落ちしたということで、赤い水たまりができていた。
クイさんはそれを見て、険しい表情を浮かべた。
「このカーテン、どこのだい?」
クイさんの問いにオルはカーテンの端を確認していた。
「そんちょーさんのだよ」
「村長……」
「村長の……。ということは、トレース!」
クイさんはバタバタと慌てて部屋を出ていった。
たぶんいつも村長の屋敷から洗濯物を集荷しているのがトレースだから、もう少し詳しい話を知らないか確認するのだろう。
またトレース絡みか……。
そう思ってため息を吐いたところでキースがやってきた。
入って来るなり、異変に気がついたようだ。
「なにがあった?」
私は無言で洗い場の中を指さした。
キースは私の横まで来て、洗い場の中を見た。
「なんだこれは」
「洗うために濡らしたら、こんなことに」
「鉄臭いな」
「やっぱり臭いますよね」
洗い場の中を睨みつけるように見ているキース。
オルドがパタパタと羽ばたいてキースの肩に止まった。
「オルド」
「はい、なんでしょうか」
「これはカーテンで間違いないよな?」
「はい」
なんでオルドに確認しているの?
『鑑定』してみればよくない?
……鑑定か。してなかったからしてみよう。
『鑑定』結果は、と。
《世界樹の村の村長の屋敷内で使用されていた茶色の布。
ずいぶんと汚れているから、早く洗濯してほしいわ!》
……茶色の布?
後はなんで要望が説明欄にあるのか、相変わらず謎。
「布? これってカーテンではなくて布なの?」
「説明欄には布とあるな」
むむ?
カーテンだと思っていたのだけど、実は違っていた?
クイさんもカーテンって言ってたけど、むむ?
もう一度、洗い場の中にある布をよく見る。
カーテンだと思われていた布だけど、よく見ると赤っぽい茶色がベースになっている。レンガ色に近いといえば分かりやすいかも。
そして、斑にどす黒い赤が広範囲にわたっている。
これが仮に血であれば、血なまぐさい臭いがしそうなんだけど、乾いていたらしないのかしら?
悩んでいると、クイさんがトレースとともに洗い場に入ってきた。
「なんかこの部屋、えらく臭いな。それで、ひどい汚れがついてるというのは?」
「洗い場の中にあるよ」
トレースは顔をしかめながら私たちと同じように洗い場の中を覗いた。
「なんだこれ?」
「見てのとおり、茶色いはずの布」
「これが村長の屋敷で受け取った中に紛れていたと?」
「うん。なにか気になったこと、ない?」
私の質問に、トレースは腕を組んで悩んでいた。
「……うーん。いつも大量のコースターとテーブルクロス、それとナフキンが定番だな。今回もいつものやつだった。……んだけど」
「だけど?」
そう言って、トレースはなにか考え込んでいた。
「いつもはまとめて袋に入ってるんだが、今回はそれとは別で黒いビニール袋に入ったものを渡されたな」
「もしかして、その中に入っていたのがこれ?」
「かもしれないな」
それからまた、うーんと唸っていた。
「だけどなぁ、こんなに臭いのに、受け取ったときに気がつかなかったのがおかしいんだよな」
「受け取ったときは黒いビニール袋に入っていたのよね?」
「そうだったはず」
「ビニール袋で臭いが遮断されていたのでは?」
「そうなのか?」
「トレースさん?」
「なんだ?」
トレースが天然だって知ってたけど!
……ツッコミを入れるのが面倒になってきたわ。スルーしよう、うん。
「受け取ったときに臭いに気がつかなかったのよね?」
「あぁ」
となると、このカーテン? 布? は臭いがあるのが分かっていたから、それを隠すためにビニール袋に入れられていた、と。
では、だれがビニール袋に入れたのか。
「トレース、いつもだれから荷物を受け取っているの?」
「前はシェリだったんだが、今は決まってない」
むー?
「そういえば」
「ん?」
「いつもの袋だけ最初に受け取って帰ろうとしたら呼び止められて、追加でビニール袋を渡されたな」
「ぬぬっ?」
そいつが怪しい?
うーん、でもなぁ。
「リィナ、どうした?」
「だれが犯人なのか、考えていました」
「村長の屋敷にいる人たち、全員を把握しているのか?」
「してませんけど?」
「それで推理できると思ったのか!」
「……どうなんですかね? そもそも、あそこでだれが働いているのか把握してませんし」
「……………………」
お、呆れてる?
まあ、そうよね。容疑者も被害者もまだ把握できてないのだから、いないのと同じですもの。
「この赤いのがいくら鉄臭くても、血液だと断定できてないよな?」
「カーテン? を『鑑定』したのですが、汚れているとしか出てないです」
「赤い液体は?」
「あ。まだしてないです」
赤い液体を『鑑定』してみたのだけど。
《赤い液体。正体はさて、なんでしょう?》
「キースさん」
「……同じことを思っている」
「今までも散々ふざけてると思いましたけど、今回が一番ひどくないですかっ?」
「かなりふざけているが、『鑑定』の結果はオレたちが持っている情報を元に、その都度、書き換えられている可能性があるな」
「そんなに凝った設定がされていると思います?」
「されていないとも言えないよな」
それって悪魔の証明というやつじゃない?
「むー……」
「村長の屋敷に行って、確認するのが手っ取り早いと思うが、どうだ?」
「……それしかないですね。それより、キースさん」
「なんだ?」
「もう用事は終わったのですか?」
「終わってないが、上総の予定の時間が来たから、終わりになった」
「それでは、夕飯まで遊べるということですね!」
遊べるのはいいのだけど、なんでまた村長の屋敷が絡んでくるの……。
「にしても、またあそこに行くのぉ?」
「どうした?」
「キースさんは村長の屋敷に行ったことは?」
「ある。前に一度、一緒に行っただろう。その前に、フーマとも行った」
「そ、そういえば一緒に行きましたね……。働いている人たちはともかく、村長の態度が、すごくその、なんと言いますか」
「あぁ、悪いな。だが、あんなあからさまな態度しか取れないヤツに感情を抱くのは時間が惜しい」
「……そう言われて、すぐに割り切れないですよ」
「では、この布の問題は放置しておくか?」
「うー。気になる」
「では、行くしかないな」
ということで、行くことになりました……。




