第百八十三話*《二十五日目》洗濯狂騒曲
本日は日曜日。そしてまだ朝の九時過ぎですが、すでにフィニメモにログインしています!
……といっても、珍しく私ひとり。
麻人さんは朝イチで上総さんに呼ばれたため、本家の上総さんの仕事場に行っている。
やはり昨日の説教の苦情?
言いすぎたとは思っていないし、文句があるのなら直接言ってくればいいのに。
それとも私と麻人さんを離して昨日の意趣返しのつもり?
上総さんは根暗、と。
不満に思いつつ、部屋を出た。向かう先は台所だ。
本日は日曜日。
だけど年中無休の洗浄屋には曜日は関係ない。
私も久しぶりに裏方を少し手伝おうかな。
そんなことを思いながら歩いていると、台所からオルとラウが出てきた。このふたりに会うのはとても久しぶりだ。
「おはよう」
「あ、ねーちゃん!」
ふたり同時に気がついてくれたけど、オルはぴょんと飛び上がると私へと一直線に飛んできて、抱きつかれた。
「ねーちゃん、会いたかったよ!」
「うん、私も」
オルを抱っこしていたらラウもやってきて、ひょいっと腕に乗ってきた。重たくてフラつくかと思っていたけど、問題なかった。
『リィナリティ、久しいでち』
「ラウも久しぶりね。今日はちょっとだけ時間があるから、お仕事を少し手伝ってもいい?」
『願ってもない申し込みで嬉しいでちが、キースはどうしたでち?』
「うん、ちょっとリアルで用事があって、いつ戻ってくるか分からないの」
『分かったでち。ちょうど良かったでち。いつもより量が多くて困っていたでち』
ナイスタイミングだったのね。
オルとラウを抱えて、一階へ。
そういえば模様替えをしてから一階に足を踏み入れるのは初めてかも。
一階にあいつがいるかもと思うとつい慎重になって階段の一番下まで降りた後、踊り場から見える範囲をいないことを確認してから、ふと疑問に思った。
「……一階の部屋配置、把握してなかった!」
部屋の配置はキースと相談しながらしたのだけど、最終的にどうなったのか、二階に気を取られすぎて確認をしていなかった。
「部屋の位置を変更したけど、不具合はない?」
「ないと思うよ?」
『洗い場と仕上げ室の間に窓をつけてもらったのが助かってるでち』
「楽になった?」
『なったでち!』
オルとラウが洗い場で洗って乾燥させた後、クイさんがいる仕上げ室へ持って行くには、一度、部屋を出なければならなかった。
忙しいときにはその行き来の時間がもったいないなと思っていたのだ。
だから部屋を行き来しやすくするためにドアを付けようかと思ったのだけど、そうすると仕上げ室の壁に沿って置かれているアイロン台を避けなければならない。しかもかなり広範囲でとなるのでかなり躊躇していた。
どうするのがよいか悩んでいたら、キースが窓を付ければいいとアドバイスをくれた。
なるほど、それなら室内のレイアウトを変えなくてもいける。
しかもアイロン台の高さに窓枠の下を合わせれば、窓を開けてそのまま置くことが出来る。かなりいい案だ。
ということで、窓を付けることになったのだけど、それも確認していない。一階の確認をした後、手伝おう。
「一階の様子を見て回ってきていい?」
「ぼくもついていく!」
『あたちも!』
ということなので、ふたりを抱えたまま地図を開いて確認することにした。
まずは今降りてきた階段。
二階は台所を挟むように設置したけれど、一階ってそこにはなにを配置した?
地図を見ると、台所を二階に移動させたために一階には休む場所がなくなってしまったので、新たに作った休憩室が階段に挟まれていた。
自分で配置したはずだけど、なかなかナイスじゃない。
休憩室を覗いてみると、壁に沿ってひとり掛けの柔らかそうな色とりどりなソファが何個か置かれていた。
奥には簡易キッチンもあるようだ。
内装のことまで気が回っていなかったけど、なかなかよい感じだ、よかった。
「ソファの色は好きな色なんだよ!」
そう言って、オルは私の腕の中から抜けて、ふよふよと飛んで水色のソファのところへ。
これは席は決まってて、それぞれが好きな色にしたということ?
「水色、いいね」
「でしょっ?」
オルは得意げな顔をして、それからまたふよふよと飛んで戻ってきて、私の腕の中におさまった。
「お店は……と」
休憩室の入口で室内が見える状態で右手側が店舗になっているようだ。左側に洗い場と仕上げ室がある。
「この配置だと、お店で預かった洗濯物を洗い場に運ぶのが大変じゃない?」
『それは少し思ったでちが、休憩室の場所を考えると、この配置しかないでち』
「仕上げ室の横に休憩室としたら……。お店から遠くなるのね」
『そうでち』
前のレイアウトってどうなってた?
思い出そうとしたけれど、そもそもが前のときの地図が頭に入っていなかったので、比較できない。
「ねーちゃん、今のだと前より静かだからこれでいいよ!」
「不便じゃない?」
「大丈夫! 取りに行くのは気分転換になるし、ウーヌスが手が空いたら持ってきてくれることが多いよ」
「そうなのね。やりにくかったら、こっちのがいいよってのがあったら教えてね」
「うん!」
とりあえずはこれで問題ないみたいだから、このままで、と。
あれ? 応接室はどこに?
地図を見ると、カウンターの後ろに応接室があった。
カウンターの後ろからも入れるし、休憩室からも入れるようになっていた。
お茶を出す場合、休憩室にある簡易キッチンで用意出来るみたいだから、いいのではないでしょうか。
「うん、いい感じになってるのね」
『そうでち!』
確認が終わったので、洗い場へ。
前の洗い場より広くて設備も新しくなっているように見えた。
「前より使いやすくなったよ!」
とはオル。
使いやすくなったのならよかった。
で、どこが変わったのだろうかと洗い場を見てみると、前はタイル貼りの平らな床だったのが、今は前よりかなり小さなタイルになっていて、しかもひとつひとつがデコボコしていた。
『前はたまにシーツがタイルに張り付いて取りにくくて困ることがあったでちよ』
「そうだったのね」
シーツなど大物は広げて洗うのだけど、ぴったり床にくっつくことがあるのかもしれないというのは良く分かった。
「それでは、始めますか!」
洗い場には山となっている洗濯物があった。
オルとラウはまず色物と白い物を分けていた。
『先に白い物から洗うでち』
白い物はやはり量が多い。一度に洗うことが出来ないので、汚れが軽い物、大きさで分ける。
汚れが軽くて小さいものから洗っていく。
私の担当は『癒しの雨』と『洗浄の泡』。『乾燥』はラウとオルが手分けしてやるとなった。
まずは大量にある白いコースター。
「『癒しの雨』っ!」
最初なのと洗濯で使うのが久しぶりすぎて気合が入りすぎたかもしれない。
本来であれば戦闘のときとは違って雲が現れないで布を適切に濡らすだけなのだけど、小さな雲が現れて布を容赦なく濡らしていく。
「わーっ! そんなに濡らさなくていいから! ストップ、ストップっ!」
しっとりと濡れるくらいでいいのに、洗い場に水が溜まるほどの勢いで水が出てきて慌てて止めた。
「……ごめんなさい、加減を間違った」
「だいじょぶ、だいじょぶ! ラウなんてこの間……ぷぷぷ」
『クァットゥオル! その話はふたりの内緒だと言ったでち!』
「そうだったね、ごめんねぇ」
そう言いながらも、オルはそのときのことを思い出したのか、お腹を抱えて笑っていた。
楽しそうでなにより?
「これくらいの水なら問題ないから洗浄をお願い」
「あいあいさー」
今度は慎重に『洗浄の泡』を詠唱した。
問題なくもこもこと泡が沸き出してきた。
「……思っていたより汚れているのね」
「うん。でもこれで濯げば、綺麗になるよ」
濯ごうともう一度、『癒しの雨』を詠唱したときに問題が起こった。
洗い場の中にはたくさんのコースターが入っているのだけど、一部のコースターが気のせいか動いたように見えた。
「……ん?」
何度か瞬いてから改めてコースターを見たけれど、『癒しの雨』を受けているから動いているように見えただけ?
今回は水が少しだけど溜まっているから、それで動いたように見えた……?
「違う! コースターが動いてるっ!」
「え?」
『やらかしでち!』
久しぶりにやらかしという単語を聞いた!
いや、そうではなくて!
私は慌てて『鑑定』をしてみた。
「白いコースター *
飲食店などで飲み物の器の下に置かれるもの。
普段はジッと耐えてるけど、ついに堪忍袋の緒が切れちゃったNe☆」
相変わらず説明がおかしい。
それで、*がついているということは。
「特殊効果が付いた?」
『さすがリィナリティでち!』
あっちゃー。
「これ、どうしよう?」
『問題ないでち。『アイロン仕上げ』で特殊効果を消してもらうでち』
「な、なるほど?」
オルとラウが『乾燥』をかけてくれた。
そのあと、動きまくるコースターを追いかけ回して回収して、クイさんにアイロンをお願いしたのだけど、ひとりだと大変だったので私もアイロン掛けを手伝いました。
……それにしても『癒しの雨』は油断すると怖いNe☆




