第百七十七話*《二十三日目》転職に必要なアイテムを集めよう!
『スキル検証』掲示板の主というフィーアの書き込みを読んだけれど、整然としているから読みやすいし、とても分かりやすい。
それで『心眼』について分かったのは、どうやらひたすらに『鑑定』をやっていけばいいようだ。
スキルの説明のどこにも書かれていないのだけど、スキルごとにスキル熟練度というものを実は裏で持っていて、スキルを使えば使うほど、強くなっていくのだという。
フィニメモではプレイヤーのレベルがあがると、スキルもスキルポイントを使用してレベルを上げることが出来る。
スキルはプレイヤーのレベルが上がればその度にスキルレベルを上げられるわけではなく、スキルごとにプレイヤーレベルに準じて上げられるレベルが決まっている。
とはいえ、スキルにまでレベルがあることが稀のような気がしないでもないけど、フィニメモのシステムはスキルにもレベルがある。
言葉で説明すると分かりにくいので、例えをあげる。
例えば、プレイヤーレベル五でファイヤーボールレベル一を覚えた。
ファイヤーボールを使って狩りをして、レベルが六になった。
では、ファイヤーボールをレベル二にすることが出来るのかというと、プレイヤーレベルが足りないため、ファイヤーボールはレベル一のままだ。
要するに、新規スキルを習得する条件にプレイヤーレベルがあり、習得したスキルのレベルを上げるためにはプレイヤーレベルも条件となる。
では、ファイヤーボールレベル一とファイヤーボールレベル二、どちらが強いかというと、通常のゲームであればレベル二が強い、となるのだけど、フィニメモではフィーアいわく、ではあるけど、スキルごとに裏で熟練度というものを持っていて、熟練度が高ければ高いほど、レベルが低くても強いというのだ。
フィーアの説は面白い。
もしそうであれば、洗濯屋の唯一の攻撃スキルである『乾燥』も熟練度が上がると今まで一発で倒せなかったモンスターも一撃で倒せるようになるということになる。
それならば『乾燥』しまくるのみっ!
「キースさん」
「なんだ?」
「『心眼』ですが、どうやら『鑑定』を使いまくると取得できるようなのですよ」
「ほう」
「そういえばキースさんって、息をするように『鑑定』を使ってますよね」
「息をするように……。まあ、なんというか、癖で確認しているな」
「癖……? え、もしかしなくても、現実でも『鑑定』が使えるとかっ?」
「んなわけあるか」
「あれ、違うんですか? リアルでも妙に鋭いから『鑑定』スキルみたいなのがあるのかと思ってました」
「『鑑定』ではないが、観察は常にしているな」
「なるほど?」
観察眼というか、そういうのが優れているのだろう。勘が鋭いってのは普段から常態を知っているからこそ気がつけるのだろうし、そうすると周りをよく見ている、ということに繋がっているのだろう。
さらには、キースの声と聞き方が厄介なのよね……。しかも本人が自覚しているからこそ、さりげなく使ってくるという。
あの声でさりげなくおねだりしているかのように言われたら、抗えないのよね。
まったくもって、厄介な。
「それでは、キースさん。レベル上げも大切ですけど、私の『鑑定』レベル上げをしましょう!」
「リィナ、待て。それもだが、大切なことを忘れていないか?」
「……にゃ?」
大切なこと、とは?
「どうして『心眼』の話になった?」
「……ぅー? あぁ、転職!」
「そうだ」
「でも、洗濯屋の転職条件は判明していませんよ?」
「リィナはそうだが、オレのことを忘れるな?」
「ぁ」
「……なるほど、こういうところはフーマとは違うんだな」
「フーマは私と違って気が利きますからっ!」
「フーマに甘やかされてきたな」
「ぅ」
それを言われてしまうと否定できない。
よく考えたら楓真も私に甘いのよね。
とはいえ、仕事だと大丈夫だったと思います! ……たぶん。
「オレは今までずっと弓を使って戦ってきたから、弓系の転職先が出ている」
「今までに取ってきた行動によって転職先が出ると言われていますが、やはりそうなのですね」
「あぁ。大きく分けると、攻撃特化か、攻撃・防御のバランス型かになるな」
「攻撃特化一択ですよね?」
「……そうなるよな」
そう言って、キースはなぜだか分からないけれど、険しい表情になった。
「なにか気になることでも?」
「攻撃特化にすると決めたのはいいのだが、こちらは二択になっている」
「違いは?」
「範囲攻撃しかないパーティ型か、ソロも出来るようになのか、範囲と単体型だ」
うーむ、と思わず唸ってしまう。
「……パーティ型と言いますけど、範囲のみだとボス戦やレイドボス戦だと不利というか、場合によっては迷惑になりません?」
「なるほど、むしろ逆なのか」
「逆?」
「単体攻撃があるのは、ボス戦なども想定してなのかもしれないな」
「単体攻撃がある職がパーティ型ってことですか?」
「……かもしれない。あとは防御もあるのだが……。こちらがソロ向けになるんだろうか」
キースは出てきているという一覧を睨みつけていた。
「どれにするかはともかくとして、転職するには指定されているアイテムを集めなければならない」
「アイテム、ですか?」
「そうだ。今、提示されている転職なんだが、すべてに共通するアイテムがひとつあって、他は職ごとに違う」
「もしかして」
「リィナ、察しがいいな」
「にゃ?」
「かなり大変になるが、提示されている職、すべてのアイテムを集めようと思う」
「キースさんって収集癖があったんですね」
「いや、そういうわけではなくて、だな」
違う?
……ということは、どれにするか決めてアイテムを集めたけれど、いざ転職となったときに気が変わってまた集め直しになるよりはいいってこと?
「転職するにはレベル四十にする必要がある。それまでにもう少し時間があるから情報を集めて、どの職が適切か判断したとき、アイテムが足りなかったら二度手間になるだろう?」
「やっぱりそうなんですね」
「あとはニール荒野での狩りに飽きた、というのもある」
「ひたすら経験値を稼ぐためだけに狩りをするって確かに飽きますよね」
「いくら好きな相手と二人っきりでいられるとなっても、話すことなく黙々と淡々と狩りをしているだけだからな」
思ってもいなかったことを言われて、自分の顔が熱を持ったのがよくわかった。
臆面もなくそういうことを言えるなんて、この人、私のことを殺しにかかってるのっ?
「顔、真っ赤。かわいすぎる」
「も、もう! だれのせいで……っ!」
「オレ」
そういって、キースは笑った。
くぅ、私がキースの笑顔に弱いことを知っていて、さらに追い打ちを掛けてくるとはっ!
「さて、このままここでぐだぐだしてても問題ないんだが、そうと決まればまずは職共通のアイテムを取りに行くか」
よかった、ログアウト、って言われなくて。
「あいにゃ!」
元気よく手を挙げて返事をしたら、挙げた手を掴まれて、いつもより強く手を握られた。
「キースさん?」
「……そういう不意打ちでのかわいいこと、禁止」
「はいっ?」
「アイテム集めをする気になったのに、今、思いっきり折られそうになった」
「…………」
残念が服を着て歩いている……!
「十七時を目処に、それまでに集められるだけ集めてこよう」
「御意!」
にゃ、を使ったら気が変わったなんて言われそうだったので、久しぶりに使ってみた。
「……それもいい!」
要するになんでもいいんじゃね? と思ったけれど、あえて突っ込みを入れなかった。
どこになにを取りに行くのか分からないので、キースにすべて任せて、私は補助することにした。
部屋を出て──そう、驚きなのですけどまだフィニメモの自室だったのですよ!──、台所を覗いたけれどだれもいなかったため、そのまま扉に向かった。
キースが鍵を開けて扉を開けたのだけど……。
見覚えがあるような、ないような場所に出たのだった。




