第百五十六話*《十八日目》え? お義姉さんっ?
それにしても、ゲームをやっている感がだんだんとなくなってきているのは気のせいでしょうか。
「とにかく! この先には火に包まれた場所に行くことがあるだろうから、火を和らげる羽織りものをあげたいの」
サラが強引に会話に割り込んできたぞ。さすがはサラだ、大変に強気ですね。
でもまぁ、だれかが強制的に軌道修正をしないとぐだぐだのままなので、ナイスサラ! と言いたいところではある。
「火を和らげる……。あぁ、それは助かる」
「それで、紅髪とキースとフーマ、あとはだれ?」
私の名前、紅髪で固定ですか? ま、まあ、いいけど。
「いや、サラたちと関わったのはこの三人だ」
「あら、欲のないこと。せめてあなたの妹分くらいは確保しておきなさいよ」
そういって、サラはどこからか青い束を取り出した。
「待て。なんでオレに妹がいるのを知っている?」
「それは秘密よ」
さてはオルドかアイか?
と思ってオルドとアイを見ると、アイがあからさまに視線を逸らした。
「なるほど、アイのせいね」
「おまえかっ!」
「あたしはその、よかれと思ってなのだ!」
「白状したな?」
キースはアイをにらみつけ、おもむろに私を降ろした。
よ、ようやくこれで自由の身……っ!
なので慌ててキースと距離を取ろうとしたけど、首根っこをつかまれた!
「にゃあああっ!」
「逃げるな」
ぅぅぅ、苦手な首をつかまえるとはっ!
「さて、アイ?」
キースはアイのこれまた首をつかんだ。アイは特に嫌がってはいないようだ。
「な、なんなのだ」
「後でリィナとふたり、背中に乗せてもらおうか?」
「そ、そんなことでよいのか?」
「ああ、いいぞ」
むう?
キースはなにかを企んでいるの?
分からないけど、またもや脱線している!
「それで、だ」
「フーマと来たときはスムーズに話が進んでいたような気がするのだけど?」
「そこはフーマの手腕だ」
「ツッコミ役が不在だと話がなかなか進まないのね」
NPCがそんなことを言うとは、なんともシュール。
AIが搭載されているからこそなんだけど、AIもボケしかいないとぐだぐだになるということをここで学習した?
となると、今後、サラみたいなツッコミ役のNPCが増えてくるってことかしら?
「はい、クエストの報酬よ。四人分」
「ありがたくいただこう」
キースはサラから四着の羽織りものを受け取った。そこからひとつを抜いて、私に渡してくれた。
「ありがとうにゃあ。サラ、ありがとうね」
「別にお礼を言われる筋合いはないわ」
相変わらずのツンのみだ。
「ありがとうにゃあ……か。かわいすぎる」
先ほどキースにお礼を言ったのをなぜか反芻しているのですけど、やっぱり『にゃあ』を付けるのは危険なのかしら。
「キースさん、どうしますか?」
「……そうだな」
そういえば、フェラムは今日はお休みの日とアーウィスが言っていたような気がする。
「フェラムさん」
「はい」
「今日、お休みだったのでは?」
「……そうですよ」
「あの、もしかしなくても」
「久しぶりの休日っ! 家で惰眠を貪っていたらっ! 会社から緊急連絡といって入ってきたのがコレ、Deathよっ!」
あ、フェラムまでDeath使いになっているぞ!
「どうしてあなたは次から次へと絶対にあり得ないことばかりしでかすのですかっ!」
「絶対にあり得ないこと、とは?」
というか、フェラムまで私のせいにするとは、ひどすぎませんか?
「そもそもがっ! システムがこうして実態を持って現れたりっ! さらには! AIも呼び出しっ! なにがしたいのですかっ!」
「普通にフィニメモをプレイしたいのですが! させてくれないではないですかっ! どっちが悪いんですか!」
まったくもって、おかしいよ!
「……巡り巡ってオレのせいか。なるほど、分かった、リィナ。お詫びに結婚してやろう」
「キースさん、なに言ってるんですかっ! それのどこがお詫びなんですかっ! というより、とっくの昔に結婚させられてますけどっ!」
「あぁ、知っている。知っていて言っている。どちらにしても、リィナはオレとの結婚は避けられないと分かればいい」
「あー、はいはい。ひとり身の目の前でイチャつかないでもらえますかね?」
フェラムがやさぐれているぞ!
「仕事命でも、休みの日も構ってあげなくても、料理が壊滅的に下手でも! 仕事が忙しすぎて家のことをしなくてもっ! それでもいいって言ってくれる人……」
う、うん。
そういう人、いないわけではないけど、とっても難しいのではないかしら。
「上総は……っと。藍野になると働けなくなるんだよな。それなら、すすめられないな」
「キースさん、それもですけど、フェラムさんがお義姉さんになってもいいのですか?」
「……オレは別に構わないが」
「紹介します?」
「フェラムはどうなんだ?」
「な、なんの話ですか?」
「フェラムさんの理想に合致する人がいるのですが」
「紹介してくださいっ!」
手を握られて、迫り来るフェラムはなんというか、とてつもなく怖い……っ!
「是非是非っ! 是非ともっ! 顔も見た目もこだわりはありませんっ! 仕事しかない私で良ければ……っ!」
こ、怖い。
「分かった。……ということは。ログアウト、するか」
「予定より早いですけど?」
「問題ない。あぁ、フェラム」
「なんでしょうか!」
「今日は休みなんだよな?」
「はい」
「連絡先を教えてくれ。上総から直接、連絡させる」
「……ぇ? ちょ、ちょっと待って? 理想の人ってまさか?」
「さあな?」
それからフェラムは疑心暗鬼な感じのまま、キースに連絡先を教えていた。
「さて、と。サラ、世話になったな」
そ、そうだった!
すっかり忘れていたけど、私たち、水源を守っている村に来ていたんだった!
「一度だけではなく、二度も助けられたわね」
「一度目はオレとフーマだが、二度目はリィナだ」
「それは分かっているわよ。それでもあなたと縁がなければ、今、私はここにこうしていられなかった」
「なるほど」
「だからっ!」
サラは真っ赤になると、拳を握った。
ん、なにするの?
「ぁ、ありが……とぅ」
気合いを入れたにしては小さな声だったけれど、私たちの耳にはしっかり届いていた。
な、なるほど。
ツンツンしかない子がちょっとでもデレると、破壊力半端ないのね。
「サラからの報酬はしっかりもらったぞ」
キースはそう言うと、当たり前のようにまたもや私を横抱きにして、そのままスタスタと村を後にした。
フェラムは気がついたらいなくなっていた。
無言のまま、キースに抱えられて村を出て、しばらく歩いているとコルが口を開いた。
「どこに行くの?」
「どこって、洗浄屋に帰るために入口を探してるのよ」
「なんでそんなまだるっこしいことをしてるの?」
「なんでって。そうしないと帰れないから」
コルはシステムの中心と言っていたけど、仕様を把握してないの?
「あー……。うん、これでよし、と」
「?」
「空間を歪めればどこにでも行けると言ってたなの」
「……ぇ?」
「これでどこからでも帰れるなの!」
「帰れるなの! ではなくてっ!」
「いいの、いいの。気にしたら負けなのね」
その一言でとても負けたかのような気分になったけど、たぶん考えたら駄目なヤツだ。
「スキルが増えてるなの!」
「スキル……」
コルに言われたとおり、スキルを見ると『帰還』というのが増えていた。
半信半疑でスキル名を口にしてみる。
「『帰還』」
すると私たちの足元が光り、なにやら魔法陣のようなものが描かれた。
今、私は初めて魔法を使っている……っ?
なんだかものすごく興奮するのですがっ!
『乾燥』などは魔法ではないのかと言われると、あれがどこに属するのか分からないのでなんともいえない。
でも、この『帰還』は分かりやすく足元に魔法陣らしきものが現れたのですよっ! 興奮する!
「おぉ、魔法だ!」
嬉しくてはしゃいでいるとキースが抱きしめてきた。
「はしゃぐリィナがかわいすぎて辛い……!」
いちいちそう言うキースが私は辛いです!




