第百五十二話*麻人さんと話すのは楽しいけど、ご褒美をねだらないでくださいっ!
夕飯は陽茉莉と楓真を含めて四人で食べた。
ふたりで食べるのもいいけど、やっぱりにぎやかなのがいいよね。
荒野ライオンの説明のスクリーンショットの見比べが出来なかったけど、それは明日することにした。
「キツネとオオカミってどんな感じなのですか?」
「オオカミがキツネを狙っていたんだが、俺たちに気がつくと、キツネがオオカミに狙われているのにもかかわらず、襲ってきたんだ」
「へー」
「オオカミはキツネを狙いつつ、あわよくば俺たちもという一挙両得をしようとしていたな」
麻人さんと楓真だけど、ゲーム内でも思ったのだけど、楓真がいる場合、麻人さんはしゃべらないで楓真がしゃべっている。
ずっと見ていたのだけど、どうやら麻人さんはめんどうくさがって楓真にしゃべるようにつついていた。
本人も言っていたけど、ほんと、サボれるのならサボる、なのね。
「で。麻人はどうしてしゃべらない?」
「……オレが説明するより、楓真が説明したほうが分かりやすい」
「莉那がいるからしゃべるのかと思ったら……」
「必要だと思ったらしゃべる」
「楓真がいないときはよくしゃべっていたよ?」
「だよなぁ。動画を見ていて、こいつってこんなにしゃべるんだ、と思ったくらいだからな。あと、やっぱり麻人が指揮を取った方がまとまるよな」
「そこは比較対象がないから分からないんだけど……」
麻人さん……というか、キースが指揮をしているのにしか参加したことがないので分からないけど、でも言われてみれば良い感じでみんながまとまって戦っていた……ような気がする。
「莉那が暴れているのさえ想定内なのか、上手くコントロールしていたし」
「ぅ」
「あれは偶然だ」
暴れてません、あれは通常です! 思ったように動いていただけです!
……って、端から見たら、私って暴れている人なの?
「私、別に暴れてない……よね?」
「あれを暴れてないと言い張るのか」
「麻人さん、暴れてないですよね?」
「……あれは明らかに暴れているな」
「えー、そんなことないですよ!」
暴れるって、もっとこう……なんていうの? うりゃーとかいいながら周りが止めるのに殴りかかるとか……。
…………そ、そっか。止められる前にと先制攻撃はしてました!
なるほど、暴れてますね!
「まあ、麻人だから莉那を手懐けるのは簡単だと思うけど、頑張れよ」
楓真はそんなことを言うと、陽茉莉を連れて戻っていった。
楓真、ひどい。
まるで私がいつもいつも暴れているかのように!
むしろ、麻人さんの方が……。
………………────。
麻人さんの方が大人しい……だとっ?
「莉那、そろそろ話し掛けてもいいか?」
「にゃっ?」
真正面に麻人さんがいて、驚いて飛び上がった。
「ひとり相談は終わったか?」
「な、なんですか、そのひとり相談って」
「ひとり反省会、か?」
「反省することは特にないですけど?」
それよりも、『ひとり』と頭につく言葉ばかり口にしているのだけど、楓真と仲良くなる前は本当にぼっちだったの?
「なんというか、激しく憐れんでいる視線を感じるのだが」
「ぼっちだったのかなと思うと、悲しくて」
「悪かったな」
それにしても、なんでこんなにもぼっちなのでしょうか。
「オレも好きでひとりだったわけではないからな?」
「それでは、どうしてですか?」
「……それが分かっていれば対処が出来たのだろうが、なんというか、気がついたら外れているというか」
クラスに一人は必ずいるのよね、そういう子。周りとテンポが遅れてるというか、合わないというか。
独特の空気感があって、私はそういう子は平気というとなにか違うかもだけど、別に苦手とはしてなかったから、積極的に拾いにいっていた。
拾ってあげる、というと上から目線っぽいけれど、フォローしてあげなければ外れてしまうのだから、そうならないように声を掛けていた。
それは男女関係なくやっていたけど、長じるにつれて妙な勘違いをする男子がいたため、それからは男子に対してのフォローはしないことにした。
麻人さんと同じクラスだったら、きっとフォローをしていただろうし、勘違いはしないと思うから気が楽だったかもしれない。
「だれもフォローをしてくれなかったのですか?」
「してくれようとしていた。のだが、女子の圧がすごくてな」
「あぁ……」
言われて、どうして孤立していたのか、察してしまった。
麻人さんはきちんと回りを見ているけれど、基本的にはおっとりしている性格だから、ちょっとだけテンポが遅い。
そこにさらに見た目の良さが加わって、女子の牽制やら圧力やらがあって孤立してしまった、と。
なんとも不憫な。
「……ということは、昔は麻人さんが藍野であろうとなかろうと関係なかったと?」
「そうだな。送り迎えはあったが、それ以外は周りと同じことをしていた。特別待遇なんてなかったな」
藍野ということでこういった状況になったわけではなかったということだけど、はて、上総さんはどうだったのだろうか。
「上総さんも同じような状況だったの?」
「いや、上総の場合は……同じ歳のお付きがいた。学校もクラスも一緒で、上総のお世話をしていた」
「そうなんだ」
だけど今はそのお付きって人は見かけないけど?
「ちなみに今はいない。詳しくは聞かされてないんだが、その人とトラブルがあって、それがキッカケになって上総は未来が視えるようになって、今に至るらしいんだ」
「そうなんだ?」
よほどなことがあったのだろうなとは思うけど、内容まで探るのはさすがにそれはねぇ?
「上総の場合は、付き人がかなり束縛するような性格で、なにかと命令をしてきていたようなんだよな。オレと話すのもかなり嫌がられていた。……だからその期間は疎遠になっていた」
「……二人とも、辛かったね」
そんなことしか言えなくて、唇を噛んだ。
別に慰めの言葉が欲しいわけではないだろうし、うーん?
「でも、頑張ったよね、うん」
そうだ、頑張ったんだよ。
上総さんと麻人さんが話しているのを何度か見たけど、仲が良さそうだった。
「頑張った、か」
麻人さんはそう呟くと、しばし目を閉じてうつむいた。それから顔を上げると、私をジッと見てきた。
あ、なんかヤバい?
「それでは、ご褒美をもらわないとな、莉那?」
「え、私っ?」
麻人さんの表情が急に甘くなったのだけど、こ、これって……!
墓穴を掘ったっ?
「ぁ、麻人さんっ?」
「なんだ?」
「えーっと?」
「莉那が寝落ちするほどのご褒美をもらうからな」
ひぃ! 勘弁してくださいっ!
「手加減を要求しますっ!」
「それなら、風呂も一緒だな」
それ、絶対手加減なしコースじゃないですかっ!
「あのっ、それぞれで入ったほうがゆっくり出来るかとっ」
「オレは莉那と一緒のほうがゆっくり出来るぞ」
「なんでですかっ!」
「別々で入ったら、莉那が溺れてないかって心配しなくて済むからな」
「溺れませんって!」
「湯船に浸かってそのまま寝たりしたら、溺れるよな?」
「ぅ」
それ、今ならやりかねない!
「楓真から聞いたが、何回か風呂場で寝てたことがあるそうだな?」
あるけど!
あの時、楓真に見つけられて……。
……………………。
ちょ、ちょっと待って?
まったく気にしてなかったけど、楓真が見つけてくれたってことは、楓真に裸を見られたってことで……。
「なずこさんが引き上げたらしいぞ?」
「そういえば、そうでした」
助けてくれたのは母だけど、見つけたのは楓真だ。
裸を楓真に見られたのではないか疑惑はあるけど、そこはまぁ、溺れかけていたのを見つけてくれたのであえて追求するのは止めておこう。
「ということで、オレと一緒に入ること」
「ぇ、決定なのですかっ?」
「決定だ」




