第百五十話*《十七日目》横殴り上等? いえ、違いますっ!
ライオンって、メスが狩りをして仕留めた獲物をオスに貢ぐ、と前になにかで見かけたことがある。
てっきりオスが狩りをするものだと思っていたので、違っていただけではなく、メスが献身的なところにメスに対しては好感度が上がったけれど、オスにはガッカリしたと言っても過言ではなかった。
まさにそのとおりのようで、私たちのところに来たのはライオンのメスだった。
……………………。
ちょ、ちょっと待って?
ライオンのメスだけが来た、ということは。
「私たち、ライオンから見たら餌なのっ?」
「オレたちが狙われてる、というよりはリィナの首巻きの振りをしているフェリスとアイがターゲットなのかもな?」
「にゃにゃにゃっ? フェリスは美味しくないにゃあ。それに、フェリスは首巻きにゃあ」
「あたしも食べてもっ」
「あぁ、あとはオルドもか」
「ボクですかっ?」
しゃべる首巻きなんていないけどね!
水色の猫に黄色い犬と紅い鳥。
色とりどりだし、こちらの方が美味しそうだ。
「……なるほど、きみたちまとめてライオンに投げつけて、その隙に逃げるか」
「リィナ、やめてにゃあ! フェリスは美味しくないにゃあ!」
「あたしも美味しくないですっ!」
「オルドは……。焼き鳥」
「ひぃっ! なんでボクだけ料理になってるのですかっ!」
「猫や犬は食べないからねぇ」
「猫はともかく、犬を食べる国があるじゃないですかっ!」
「そなの?」
「あるのですよっ!」
犬って食べて美味しいのかしら?
「リィナリティさん、そんな目であたしを見ないでっ!」
「美味しいのかなぁって」
そんなことをしているうちに、メスライオンたちは距離を縮めてきた。
「相変わらず緊迫感がないな」
「生贄をだれにするか考えていただけです!」
「それで、どうするんだ?」
「どうすると聞かれても、猫と犬と鳥のすべてを生贄に」
「リィナ、冷たいにゃあ」
「ボクは骨しかないですっ!」
「鳥の骨は出汁が取れるよね?」
「ひぃっ!」
「あたしの肉は固いですからっ!」
「食べ応えがあっていいんじゃないかなぁ?」
「リィナがどこまで行っても情け容赦ないな」
「……そうか、やはりリィナはドがつくほど」
「キースさんっ!」
キースがヤバい発言をしそうだったので被せて止めた。
もうっ!
キース、アウトっ! てなるところだった!
「なぜ止める」
「アウト発言をしそうだったからです!」
「どうしてアウトだと判断した?」
「話の流れ的にですね」
「ドレミ、ドレス、ドーナツ、土管、道具、洞窟、ドイインタノン国立公園……ドから始まる単語は思っているよりたくさんあるぞ?」
「キースさん、そのツッコミ待ちと言わんばかりの単語は、どこから出てきたのですか」
「しりとりのために仕入れておいたネタだ」
しりとりって。
「フーマとしりとりするんですか?」
「しないな」
「それでは、だれと?」
「……ひとりで」
「…………。キースさん……」
「そんな憐れむような視線を向けてくるな。ひとりしりとり、なかなか楽しいぞ?」
「まさかキースさんがおひとりさまというか、こんなにもボッチだったとは思わず」
「冗談だ」
「いえそれ、今さら強がりで言わないでください」
メスライオンたちは私たちの様子を見て、今にも飛びかからんとしているのに、私たちは空気を読まないというか、相変わらずマイペースというか。
「動画を見て分かっていたが、おまえら緊迫感がなさ過ぎるぞ!」
「現実逃避です!」
「ゲームをしていても現実逃避って、おまえの現実はどこにあるっ?」
「私が知りたいですっ!」
フーマのツッコミは的確であるけれど、ライオンに狙われているのはなにも私とマリーだけではない。キースとフーマも獲物なのだっ!
「わっ、私よりそっちのふたりが食べ応えがあると思うのですよっ!」
「おいっ! なにオレたちまで巻き込むっ!」
「巻き込んでませんよ。だってすでにキースさんとフーマはターゲットにされてますからっ!」
「そうだった! キース、すっかり忘れていたが、この狩場、俺たちは適正レベルだっ!」
「なっ、なんだってーっ! ……って、オレは分かっていたがなっ!」
キース、ノリがいいな。
「フーマ、ここは仕方がない。リィナ、マリーチームとどちらが多く倒せるか、競おうではないかっ!」
あれ? そういう展開になるの?
「いいだろう、受けて立つっ!」
「って、なんでフーマが好戦的なの?」
「ふっ……」
良く分からないけど、勝負することになったようだ。
「マリーちゃん、いくわよっ!」
「御意っ!」
マリーはいきなり『テンプテーション』をぶっ放していた。
ぉ、ぉぅ。
そして次にはヘイト。
私は慌てて『癒しの雨』と『アイロン充て』と『アイロン補強』を使った。
マリーの『テンプテーション』に反応して、周りにいるメスライオンだけではなく、どこかで休んでいたらしいオスライオンまで呼んでしまったようだ。
私は範囲を決めて、
「『乾燥』っ!」
荒野ウサギの経験を踏まえて、MPを多めにしてスキルを使ったのだけど、一撃では倒せない。
ううむ、さすがにこの辺りからは一撃で倒すのは難しいか。
むしろ今まで一撃で倒せていたのがおかしいのか。
キースとフーマの様子が気になったのでチラリと見ると、背中合わせになってメスライオンたちを相手していた。
うむ、なかなか映える戦い方をしているな。
私とマリーの場合だと、背中合わせで戦うメリットは残念ながらなにひとつない。
とはいえ、タンクとバッファー兼アタッカーという組み合わせは悪くない。
今はふたりで戦っているので、がら空きになりがちな後ろを気にしつつ、ライオンたちに『乾燥』をかけていく。
「『乾燥』っ!」
うーむ、やはり一撃は無理?
どうにも引っかかりを覚えて、『鑑定』をしてみた。
【荒野ライオン】
荒れ果てた乾燥した大地に住むライオンです。
そのため、乾燥に耐性があります。
また、魔法抵抗力が若干ですがあります。
毛が見た目とは違って柔らかいため、人気があります。
獰猛で群れで行動します。攻撃してくるのはメスライオンです。
ぉ、ぉぅ。
なにその、ピンポイントな耐性。
というかだ、ニール荒野のモンスターって全般に耐性持ちってことよね?
それなら荒野ウサギも一撃で倒せなかったというのも納得。
「ぐぬぬ、ここも私が苦手とするエリアなのか」
「そうなのですか?」
「ライオンを鑑定したら、乾燥に耐性があるって出たのよね」
マリーも鑑定して、それから首を傾げた。
「そんな説明、ありませんわ?」
「なぬ?」
とりあえず、お互いスクリーンショットを撮っておいて、あとで見比べることにした。
「『乾燥』っ!」
どちらにしても一撃で倒せないのなら、もっと範囲を広げればいいんじゃね? と半ばヤケ気味に範囲を広げると、キースとフーマの狩場にまで侵入していたようだ。
「おい、横殴りするなっ」
「あれ? そんなつもりは。ごめんなさい」
も、もうちょっと遠慮して範囲を指定しないといけない、と。
ちなみに横殴りというのは、ソロだと自分が、パーティだとメンバーが戦っているモンスターに自分以外、あるいはパーティメンバー以外がちょっかいをかける……要するに割り込んできて横合いから手を出すことをいう。
なぜこれが嫌われるかというと、MMORPGではモンスターにダメージを与えた割合によって経験値、お金が手に入り、ドロップ品はよりダメージを与えた人にルート権があるという設定がされていることが多い。
そのため、ソロであろうとパーティであろうと、だれかが殴っているモンスターに横殴りをするのはマナー違反となる。
これを無視してやみくもに殴っていると、もちろん、ケンカになる。
ケンカをふっかけているのならいざ知らず、そうでなければトラブルを避けるために避けなければならない行為である。
ゲームタイトルによっては横殴りなんて気にしないというのもあるけれど、基本は横殴りはNG行為である。
ということで、範囲狩りをする人は、周りを気にしながらしなければ嫌われるのDeathっ!




