第百四十七話*《十七日目》クルクルぐるぐるループはいけません!
見た目は黄色い犬のAIのアイが加わったのですが。
な、なんだろう、このケモ率の高さ。
私の好みがひどく反映されているのですが!
いやしかし、AIまで出てくるとは思いませんでしたわ。
ちなみにAIとは、人工知能、artificial intelligenceの略だ。
AIは大きく分けると二種類あって、人間の脳と同じようなことをさせようとしている──いわゆるロボットなどに組み込んで人間の代わりをさせようとする──人たちと、プログラムなどに組み込んで、学習させたり、人間の変わりにデータの処理をしたりという使い方をしようとしている人に分かれている。
細かく分けると違うんだよ! と反論はあるだろうけど、大きく分けると、なので!
要するに、形を持っているかいないかで分けているのである!
……しかし、アイは黄色い犬の姿をしているのだけど、どうして黄色いのか、なんで犬なのか、疑問は尽きない。
しかもゲームに組み込まれたAIということは、形がないはずなのに、犬……。
なんで犬なのか。
「アイ、なんで犬なの?」
「あたしの背中に乗って、ディシュ・ガウデーレを走り回ってみたいと思わない?」
「思うけど。よりによって犬?」
「それなら聞くけど、馬に乗れるの?」
「ぅ」
「だから犬なの」
納得といえば納得なのだけど。
「それは二人乗りできるのか?」
とキースが聞く。
二人乗りって……。
「もちろんよ」
「それならいい」
え? それならいいって!
「リィナ、行くぞ」
「いや、ちょっ? あのっ、シェリとの約束……っ!」
「商店街まで試し乗りだっ!」
ぇ? 村の中で乗ってよいのっ?
よくないよね?
「村では駄目だと思います!」
「……ちっ」
「舌打ち、怖いですっ!」
どうにかいなして、ようやく台所へ。
……ログインしてからここまで来るのに、気のせいか長かったですね。
シェリとトレースが隣り合ってお茶をしているところだったのだけど、邪魔してしまった?
「ようやく来たか」
「いや、ちょっと部屋でトラブって」
「その黄色いのかっ!」
「目ざといな!」
トレースのくせに目ざとすぎ!
「わぁ、かわいいクーバースですね!」
「…………? クーバース?」
「はい」
「グレートピレニーズではなくて?」
「はい。毛が少し短いでしょう?」
言われてみれば。
「クーバースの毛は白ですけど、黄色いのは初めて見ました」
楽しそうなシェリだけど、ウサギの獣人なのに犬に詳しいって。
「シェリって、犬が好きなの?」
私の質問に、ネコ科のトレースがピクリと反応した。
「ぇ? 動物全般が好きです!」
なんというか、優等生な答えを聞かされた気分に。
そんな答えが聞きたいわけではなかったので、シェリに近寄ってこっそりと聞いてみる。
「で、一番好きな動物はなぁに?」
私の意図を瞬時に理解したらしいシェリは真っ赤な顔で視線を彷徨わせた後、チラリとトレースに視線が向いたような?
「ふふっ、ごちそうさま」
そういえば、さらに赤くなっていた。
うむ、かわゆす。
「では、商店街に行きましょうか!」
◇
二日ぶりの商店街である。
やはり入口に立つと、その異様さが際立つ。
「……この異様さはなんというか」
「改めてここに立ってみると、変な感じだな」
フェラムの意図は分かるのだけど、なにも十店舗ずつ左右に配置しなくても。
歩いても歩いても同じ店、はその場をループしている気分になる。
「ここ、面白いですよねっ!」
なぜかシェリがハイテンションだ。
「同じところをぐるぐるしてるみたいで!」
「ぉ、ぉぅ?」
それって面白いの?
「端まで行って、クルって回って戻ると、延々とループが続きます!」
「いやぁ、私は遠慮しておくわ」
「そうですか? 最初は少し不安な気持ちになりますけど、何度かクルクルしてたら、段々と楽しくなってきますよ?」
……こ、この子、ヤバくないっ? 大丈夫?
「そうそう、オレも最初は今のリィナみたいに引いたんだが、やってみたら楽しかったぞ!」
だ、駄目だ、このふたり。危なすぎる!
「リィナ」
横に立っているキースが私の心情を察してくれたのか、肩を叩いてきた。
「こいつらはこれで幸せなんだ。いいってことにしよう」
「ぉ、ぉぅ」
な、なんというか、危ないふたりだったのね。
「そ、それでは気を取り直して。この奥にある素材と材料を売っているお店に行きましょうか」
油断したらクルクル回って行ったり来たりをしそうなふたりの首根っこをつかんで引きずって抜けて、ようやく着きましたよ、素材と材料を売っている地帯!
初期村だから素材に関してはたいしたものは売ってないかもだけど、どんなものが売られているのか、値段はどれくらいなのかを知っておきたいので、覗いてみることに。
素材は武器、防具などの制作に使用するのだけど、お店に売っているものは基本素材のみだ。だからそれ以外のレアなものとなると、モンスターを倒したときに得られるドロップ品や採取などで得られたもの、となる。
「リィナ、なにか作るのか?」
「いえ。なにが売られているかという興味です」
「ふむ」
お店の外観は手前の道具屋とあまり変わらない。間口を広く取るために道に面しているところは壁がない。
とそこで気がついたことがあった。
「ドアを開けて店内に入る造りではないのですね」
「そうだな。あれ、地味に面倒なんだよな」
「分かります! こういうお店ってリピートして使いますから、扉を開け閉めして、ゲームによりますけどロードしたりして、面倒ですよね」
「ロードするって……。どんだけ昔のゲームの話をしてるんだ」
「え、ないですか、そういうゲーム」
「オレはそれほどたくさんはしてないが、ないな」
となると、相当古いゲームなのか?
「うちにはなぜかたくさんのゲームが転がってるのですよね」
「楓真も言っていたな。レトロすぎるゲームがあって、ハードがまだ動いているのが奇跡だと言っていた」
「あー……。なるほど、それなら私が言っているのはレトロゲームですね」
「オレはそんな古いゲームをしたことがないが、今のだとロード画面なんて見たことないぞ」
フィニメモは昔風に言えば「オープンワールド」なので、途切れないのである。だからロードタイムなんてものはなく、裏で常に読み込みをしている。
ドアを開けて、中に入ろうとしたら、中の様子が見えていて、ドアの内側に入ったら、そのまま続いている。現実世界と変わらないので、錯覚する人がいても仕方ない。
だけど、ドアの開け閉めはキースが言っていたとおり、地味に面倒! なのである。
「フェラムさんってもしかして、面倒くさがり屋?」
「面倒がりというより、効率厨な匂いがする」
「効率……。だから手前のいかれた配列なんですね」
「そうかもしれない」
考察はこんなところにして。
「さて! お店の中を見ますか!」
ドアを開ける必要がないし、店内に目を向ければ様子がすぐに分かる。
「……………………」
店内を見ると、見覚えのある制服を着た人たちがいた。
「リィナ見守り隊」
「キースさん、あの人たちはそんなのではないですよ!」
「キースさん、分かってますね! 当たりです」
「当たりなんかいっ!」
今日も三人で来ているのだけど、くすんだ赤色のチュニックに、同じ色のワイドパンツ。三人が同じものを着ているので、制服なのだろう。
「この服はリィナリティさん見守り隊の制服なのです!」
「これが着られたら、エリートの仲間入りなのです!」
「ぉ、ぉぅ」
なんで私の見張りがエリート扱いになるの。
「リィナリティさんのプレイを邪魔せず、しかもいかにやらかしをさせるのか、が命題なのです!」
「それ、バラしていいのっ?」
「バラすもなにも、周知の事実です!」
運営っていったい……。




