第百四十二話*《十五日目》アップルの「A」とお茶屋さん
※前半の検証結果はでっち上げなので信じないでください。
フェラムは意味深に溜めて、それから口を開いた。
「どこのお店が一番売れたのかと言いますと、結論から申しまして、一番手前のお店でした」
「ま、まぁ、予想どおり?」
「そうですか?」
「商店街に入ってすぐに目的とするお店があれば、そこで買いますよね? ……観光地だとまた話は変わるかもですけど」
「そうですね。さらに一番手前のお店で買い物をした人たちは、大半が商店街から離脱してます」
私とキースはフェラムの話を聞きながら、本当に全部のお店のラインナップと金額が一緒なのか、特に打ち合わせはしていないけど、手分けをして確認している。
私は入って左側を、キースは右側を確認中だ。
右も左もきっちりと十店舗、合計で二十店舗、調べた。
「うむ」
メニューを一店舗ずつスクリーンショットに撮ったのだけど、ぱっと見はすべて一緒に見えるため、指でカウントしていくのがいいのではと指を入れて撮った。
うん、これで区別がつくね!
キースはどうしたのかと思ったら、やはり同じ考えに至っていた。
そうして撮ったスクリーンショットを見比べて出した結論はというと。
「同じに見せかけて、金額設定が違っていたり、並んでいる品物が違ったりしているな」
「オープンしたては全部、一緒にしていましたよ」
「まぁ、ここにいるのが普通のNPCなら、時間が経っても最初に設定されたままだっただろうな」
「AI搭載だから、NPCがそれぞれ考えて、金額設定を変えたり、ラインナップも他店と差をつけたりしたと?」
「そうだろうな」
それはそれですごいし、恐ろしい。
「それで、リィナ」
「あいにゃ」
「なにも買わないのか?」
「んにゃ? ここに売っているもので私に必要なものってなんですか?」
「た、体力回復用の薬草……」
キースは言いよどんでいる。私がキースの立場でも、同じだったと思う。
「『癒しの雨』があるので、不要にゃ」
「MP回復薬……はここにはないな」
「MPも『癒しの雨』で回復しますにゃ」
「状態異常も回復できるし、怖いもの敵なし、だな!」
「にゃはははは」
ただし、状態異常の睡眠、気絶・失神はどうすることも出来ない。かかってしまうと身動きできなくなるため、解除が出来ない。
ただ、『アイロン補強』にデバフ耐性があるので、前よりは掛かりにくくなっている……はず!
「そうだ! クイさんに教えてもらった茶葉を売っているお店を探そう!」
「探すまでもなく、見つけたが」
「な、なんだってええええ! お店を探す(そしてもれなく迷子からのぉ、素敵な出会いっ!)楽しみが……」
「リィナ、本音がだだ漏れしてるぞ」
「おっと」
半分はわざとなんですけどね!
「それではリィナ。お店を見つけてくれないか」
「え、キースさん。見つけたんですよね?」
「見つけたというか、場所を特定しただけだ。まだ目視で確認はしていない」
ふむ、なるほど?
「それでは……と」
クイさんから教えてもらった情報を思い出す。
──世界樹の村の商店街に入って、道を真っ直ぐに進むことリンゴ二十個分。
……教えてもらったときも思わずツッコミを入れたけど、なんでリンゴ二十個分なのっ?
そもそもリンゴって品種によっても大きさ、重さ、長さが違うと思うのですよ!
しかもフィニメモでリンゴというと、どれくらいの大きさなの?
「リンゴの大きさは」
「そんなの、適当だ。調べたら、十から十五センチメートルというから、最大値、最小値、平均値、どれか好きなので測るといい。ちなみに、重さは二百から四百グラムらしいぞ」
「ぉ、ぉぅ」
はて、リンゴの大きさだけど、そんなアバウトでいいの?
ということで、計算が簡単な十センチメートルを採用。
十×二十=二百!
おお、二百!
二百センチメートルは……二メートル……?
「入口から二メートル……?」
「十五センチメートルにしても、三メートルだ」
「えと? 入口から二メートル……と」
「三メートルだとこの辺り、だな」
「お互いが腕を伸ばしたら届く?」
「届くな?」
お互いが腕を伸ばせば、当たる。一メートルって思っているより近い?
「ここだとフェラムさんプロデュースのいかれた配列なお店なんですけど」
「リィナリティさん?」
「ぁ、はいにゃ?」
「く……っ。そ、その返事で誤魔化されるとでも……!」
あれ? なんでフェラムまで残念な人に?
「くぅ。……ごほん。いかれた配列、とはっ?」
「同じ店を何個も並べるなんて、どう考えても……以下略」
「ぅ」
フェラムを黙らせたので、お茶屋さんを探す旅を再開する。
「リンゴ二十個分……。って、あれ? ここの店舗、左右合わせて二十あります?」
「あるな」
「なんでリンゴ二十個分?」
「看板を見てみろ」
キースの言葉に、店舗の看板を見る。
「……うん、リンゴ、ですね」
「店舗名がまさか」
「アップル?」
「そうなのです! やはり最初に覚える単語はapple! なのですよ!」
いつの間にか復活したフェラムがそう主張している。
う、うん。
アルファベットの最初は「A」から始まるし、「アップルのA」と言いますし。
「だからリンゴ二十個分?」
「としか思えないよな」
ということで、道具屋? を抜ける。
しかし、歩いても歩いても同じ店が続くので、どこか変なところに迷い込んでしまったかと途中から不安になってきた。そこまで考えてのこの配列ならば、フェラム、恐ろしい子! である。
真相は、そこまで考えていないような気がする。偶然にもそうなっただけ、だろう。
「そ、それにしても」
フェラムは最後尾で私たちについてきている。
「実際に歩いてみると、なんというか、不安になる配列ですね」
私はキースと思わず顔を見合わせて、それからフェラムに視線を向けて……。
「おまえが言うなっ!」
「だからいかれた配列だと!」
無自覚って怖い。
……とりあえず、無事に通り抜けた。
のだけど。
「ま、まさか次も」
「いえ、さすがにそんな愚かなことはしていませんよ」
「さっきの店舗が愚かなことであると認めるのですね」
「そんなことは思っていません。同じことをするような愚かなことはしていない、という意味です」
えー、あの同じお店を十店舗も繋げて配置するのは愚かではないと?
「次は、ですね! 武器と防具のお店です!」
「……………………? あれ? お茶屋さんは?」
「クイさんに教えてもらった行き方はなんだったか?」
「えーっと? バナナと亀が出会う?」
またなんで、バナナと唐突に亀?
「武器屋の看板がバナナで、防具屋が亀……か」
「バナナは剣で、亀は盾です!」
フェラムの解説を聞いて、そろそろツッコミを止めようかと思うのですが。
薄々感じていたのだけど、フェラムは無自覚で、天然。
これ、部下が苦労するヤツだ。
「どうしてオレの周りはこうも天然が多いのだ」
「それは! キースさんも天然だからです! って! 私は天然ではないですよ?」
「リィナが代表格だからな」
「ぇ? そんなことはないですよ!」
私は決して天然ではないっ!
「それで、だ」
キースが不自然なくらい話題を変えた。
「バナナと亀が出会う、ということは、だ」
「ことは?」
「武器屋と防具屋の間の道を通り抜けた先にあるとみた!」
「なるほどぉ」
クイさんに教えてもらったお茶屋さんへの行き方はこのふたつの言葉だった。だからそうなのだろう。
そんな単純な子どもだましみたいな謎解きでいいのっ?
とはいえ、武器屋と防具屋の建物の間に隙間があり、小さいけれど看板がついていて、ティーポットが描かれている。
ここで間違いないのだろう。
「すみませーん」
通路に声を掛けると、奥からカタカタという音が聞こえてきた。
ぇ、な、なにっ?
なにか分からないけれど、またもや急なホラー展開ですかっ?




