第百三十六話*《十四日目》やらかし三人組
仕事を終えて、もろもろなことを済ませて、フィニメモにログインっ☆
イロンが飛び出し、フェリスが首に。
オルドを肩に乗せたキースに手を繋がれて、台所へ。
「こんばんは」
台所にはクイさんだけだった。
いつもよりは早い時間のはずだけど、みんな、寝ちゃった?
「あぁ、リィナ。いいところに来たね」
「ん?」
「オルとラウは寝てるけど、あたし以外の全員がリィナのために狩りに出掛けているよ」
「な、なぬぅ?」
「一緒に狩りをすれば、ズルではなくなるな」
「ぅ、はい」
そ、そうだ!
ズルって言われないように一緒に狩りをした、という既成事実を作らなければ。
って、なんと申しますか。
あー、あれと一緒だと思えばいいのよね。
パソコンでするMMORPGと!
MMORPGはマクロを使った自動狩りが主流だ。
なんだけど、一時期、マクロを使って放置狩りをしてレベルを上げなければ遊べないのはおかしいという意見が大多数になり、マクロ狩りは淘汰され、代わりにゲームのタイトルによるけど、狩りポイントなるものが導入された。これを消費して疑似戦闘が行われ、経験値、アイテムドロップ、お金をゲットできるというシステムだ。しかも普通に狩りをするよりかは経験値などが増えるという嬉しい追加効果があり、これが瞬く間にほぼすべてのタイトルで導入された。
狩りポイントを使って疑似戦闘をしている間はそのキャラクターで遊べないため、学生や社会人は家から出る前に仕掛けて、帰ってきたら戦闘が終わっているように時間を計算してセットしていく、ということをするようになった。ちなみに、その間はパソコンをつけていなくてもいい、という特典もついた。
そのため、平日の昼から狩りをしているのは廃人さまとなり、廃人なのに変なプライドが働いて、レッテルを貼られたくない廃人さんたちまでこのシステムを使うようになり、そうしてMMORPGは廃れていった……のですよ。
そもそもなんのために狩りをしていたのか? いや、そもそもなんのためにゲームをしていた? となり、それはゲーム業界の存在自体を揺るがす事態にまで発展してしまったという、とんでもな展開になったのです。
いくらなんでもこれはマズい、とゲーム業界が一丸になって、MMORPGのあり方が見直されて、馬鹿みたいに狩りに時間をかけないとレベルが上がらないということが少しでも回避されるよう、経験値テーブルの見直し、一レベル上がるのに狩り時間の上限などがゲーム業界内で定められた。
そもそも高レベルになるとひとつレベルが上がるのに、マクロ狩りをして、二十四時間、三百六十五日かけても、一年以上かかることがあるとか、それはおかしすぎる。やりすぎだと思うのですよ。
そして、狩りポイントだけど、こちらは形を変えて、ログアウトしている間に狩りで得た取得経験値を元に、追加で得られる形になった。ただし、週に五時間分だけだ。
週にプラス五時間分までという制限はあるものの、課金すれば追加で経験値を得ることが出来る。
と、長々と説明をしたわけですが。
私がログアウトしている間にドゥオたちが狩りをして得た経験値をなぜか受け取れているというのは、このシステムのおかげ、ということにしておこう、うん。
フィニメモはレベル上げに必要な経験値が鬼のように必要なわけではないため、今のところはこのシステムは導入されていない。
そもそもがVRなので、ずっーとログインしっぱなしは無理だと思うのですよ。
廃人さんは二十四時間戦っているけど、食事とトイレはさすがにログアウト……してるよね? してると思いたい!
クイさんにドゥオたちが狩りをしている場所を聞いて、応接室から狩場へ移動した。
着いたのは、草一本も生えていない荒野。
地図を開いてどの辺りか確認する。
アラネアの森を抜けた先にニールの村というのがある。そしてその横に広がるここがニール荒野と呼ばれている場所のようだ。
「懐かしいな、ニール荒野」
キースが当たり前のように着いてきているけど、私の狩りを見て楽しいのだろうか。
「ところでキースさん」
「なんだ?」
「私に着いてきてもやることないと思うのですが、楽しいですか?」
「楽しいぞ。リィナの後ろから見ていると、オレとは違った視点で見てるのが分かって、新鮮な気持ちになる」
そ、そういうものなの?
なんとも複雑な気分なんですが。
「さて、どこにいる?」
ニール荒野だけど、夜にもかかわらず、狩りをしているプレイヤーがちらほら見える。
とはいえ、ここはニールの村から一番遠く、少し移動すると次のエリアに入ってしまう。
こんな端っこで物好きな、と思っていたのだけど、どうにもプレイヤーの動きが変なのだ。
周りのモンスターをかき集めて、ドッカンとやっている、というのはよくある効率厨というのは分かる。
こんな端にいるのは、他のプレイヤーの邪魔にならないようにという配慮なのだろう。
それだけだったらそんなに目を引かなかっただろう。
プレイヤーはソロの人が何人かいるのかと思っていたのだけど、そうではなくて、どうやらパーティを組んでいるようなのだ。
なんで分かったのかというと、通常狩場なのにあのボス戦で使う討伐戦利品ボックスが出ていたからだ。
ボス以上との戦闘に入ると自動的にでてくるボックスだけど、通常のモンスター狩りでも出すことは可能だ。
ただ、通常の狩りで出す場面は限りなく限られている。
特定のドロップ品を狙っていて、パーティ全員で平等に分けたいとき、一度、ここにプールさせて、後から均等に分ける、などで使う。
はて、ここで手に入るドロップ品でそんなに均等に分けたいものが出るのだろうか?
疑問に思っていると、キースが声を上げた。
「あれ、ウーヌスじゃないか?」
「なぬっ?」
「あっちはトレースで、奥にいるのがドゥオか」
ま、まさか。
あんな変な狩り方をしてるのは、やらかし三人組っ?
「近寄ってみよう」
「ぉ、ぉぅ」
近寄ると、向こうもこちらに気がついた。
「リィナ」
「こんばんは?」
「パーティに入る」
「あ、はい」
「オレは入れなくていいからな」
「知ってる」
パーティに入ると、ドゥオ、ウーヌス、トレースとやはりいた。
『なんでドロップ品ボックス出してるの?』
『リィナにあげるために』
『ぉ、ぉぅ。ありがとう?』
『お礼は要らない』
この三人だと分かった瞬間になんでドロップ品ボックスを出しているのかなんとなく察してしまったけど、予想どおりだった!
「リィナ」
「あいにゃ?」
「頼むから、またボスかレイドボスを出すようなことはするなよ?」
「そう言われても、私も狙って出しているわけではないですし」
「まぁ、だいたいがオレが目を離した隙に出してるしな」
「では、キースさんが私を見張っていればよいのですよ」
「ほう?」
キースは楽しそうに口角を上げて、私を見た。
「いいだろう、見ていてやるよ」
あれ?
いつもと一緒と言えばそうなのだけど、違うといえば違う?
キースは私の後ろには立つと、ガシッと肩をつかんできた。
「よし、いいぞ」
う、うん?
いつもと一緒……?
「特別にアドバイスもしてやろう」
ぎゃあ!
耳元で囁かないでください……っ!
首をすくめたら、キースはさらに楽しそうに笑った。
くっそぅ。
こうなったら、ボスでもレイドボスでも、なんなら同時に沸かせてみせるっ!
ってあれ?
それって駄目なんじゃね?




