第百三十一話*《十二日目》寝落ち五秒前!
クラーケのHP残量もゲージで目視できるくらいになっていた。
みんな、かなり頑張った!
いえ、まだ終わってないのですけどね?
クラーケも最後の足掻きと言わんばかりに攻撃が激しくなってきたけど、足掻きもむなしく、HPは0になり、地に臥した。
それでもまだ足掻いていて、脚をバタバタさせていたけど、トドメをさされ、完全に停止した。
それから少しして、クラーケは空気に溶けるように消えていった。
それから討伐戦利品ボックスにクラーケからのドロップがチャリンチャリンと音を立てて入った。
中を覗いてみると、武器、防具、アクセサリなど主に現物品と言われるものがたくさん入っていた。
『おー、なかなかのドロップ』
とはフーマ。
『それで、これがドロップ品ボックスなのか』
『うん。便利だよね』
『リィナリティさんはすでにご使用になられたのですか?』
『はい。アラネアの森のアラネアを倒して』
その一言に、フェラムたちが固まった。
あれ?
『アラネアを……倒した、だと?』
『はい』
フェラムたちは円陣を組むと、なにやら話をしはじめた。
それを横目で見つつ、キースと一緒に戦利品を見ていく。
『武器はそれなりに強そうだな。防具は……あぁ、これら全部でセット効果がある防具か』
セット効果とはなにかというと、防具には単体では特に効果がないものが多いけれど、その代わりに、全部揃えて装備すると特定の効果が発揮されるものを指していう。
『防具はセットで買い取ってもらおう』
キースはドロップ品をすべて確認して、それからレイド討伐掲示板にお品書きとして書き込まれるのを許可した。
そうなのですよ!
掲示板ですが、この間のメンテナンスで追加された機能なのです!
ドロップ品ボックスに入ったアイテムをシステムが読み取り、一覧を作成して連合主に掲示板に登録していいかどうかと聞かれるようだ。
この掲示板だけど、参加者にドロップ品をリスト化して公開するためのもの、というのが主な使い方だ。
さらには公開範囲を設定できるので、全プレイヤー向けにすれば、レイドを討伐してなにが手に入るのかということを知らせることもできる。
これで持ち逃げ連合主だとか、オークションに出し忘れたということはなくなる。後は横から来て持ち去られる危険もない。
ということで。
このお品書きを元にして、オークションをしてすべてが競り落とされ、オークションでのお金とクラーケからのドロップ金と合わせて、参加者に配付された。
それにしても。
バフをかけて回ったわけですが、話題になってないような気がするのは気のせい?
大騒ぎされるのも困るけど、話題にも上らないのはそれはそれで淋しい。
ワガママかもしれないけどね!
それとも、実は掛かっていなかった、とか?
やはり早いところ、心眼をゲットしなければ。
『月曜日早々から夜更かしか』
『思ったより時間が経ってましたね』
そんなことを話しながらオセアニの村に帰ろうとしたのですけどね?
『リィナリティさん、待ってください!』
『にゃ?』
『アラネアのことを詳しく教えてください!』
『え……と。あ、明日でもいいですか? もう遅いですし。皆さんも一度、休憩を入れた方が……』
『あぁ、もうこんな時間ですか! 分かりました、明日、リィナリティさんがログインしたらすぐに洗浄屋に伺います! それでは、私たちはこれで失礼いたします!』
そう言って、フェラムたちは消えていった。
ちなみに、フェラムは分配金を辞退していた。
もらっても困るのかもしれない。
そしてようやくオセアニの村に着き、洗浄屋に繋がる扉を探して、そこから戻り、ログアウト。
◇
ログアウトしてきました。
時間はすでに日付が変わってます!
寝る準備をしてからログインしているとはいえ、いや、だからこそ? 寝室に移動して寝る、というのが面倒に……。
実家にいたときはすぐ横にベッドがあったから楽だったけど、広いってのも、時と場合によっては不便なのね。
なんて思っていたのですが。
「早くそこから出る」
「ぅ……。はい」
そうだった、麻人さんもいた。
もしひとりだったら、ここでそのまま寝ていたかも!
危ない、危ない。
「眠そうだな」
「寝落ち五秒前です」
「ベッドまで頑張ってくれ」
麻人さんに手を引かれ、自室……って?
「麻人さん?」
「オレの部屋で」
「あの、激しく眠いのですけど?」
「知っている。なにもしない」
本当に? と思いつつも、促されるまま麻人さんの部屋へ。
部屋に入ってすぐに部屋の主を無視してベッドに潜り込んだ。
「お休みなさい」
そのまま記憶がない。
◇
だれかに呼ばれたような気がして、顔を上げた。
「リィナリティさん」
あれ? ここってフィニメモ内なの?
周りは真っ白で、なにもない。上を見ても下を見ても真っ白だ。
「ここはフィニス・メモリアと現実を結ぶ場所。今日はあなたにお願い……、うん、お願い、ですね。があって来ました」
どこから声が聞こえてくるのか分からないけど、硬質で特徴的な声でお願いがあると言われたけど。
「あのぉ。まず、あなたはどなたなのですか?」
「そう、ですね。あえて名乗れば……秩序、でしょうか」
「オルドさん?」
「さん、はいりません。オルド、で」
「それでは、オルドは私になんのお願いを?」
「ディシュ・ガウデーレでの、あなたの旅に同行させていただけないでしょうか」
オルドの申し出に、しばし固まった。
「……え?」
「駄目、でしょうか」
「同行って。いやいやいやいや、そもそもあなた、名前はともかく、というか、だれっ?」
いきなり同行していいかって聞かれて、どこのだれか分からないのに、はいどうぞ、なんて言えません!
「だれ、と言われても、Deathね」
「殺されたっ!」
「リィナリティさんの真似をしただけなんですが」
「真似……?」
ぇ、なんで知ってるのっ?
「姿が見えないから警戒されているようでしたら……。そう、ですね。このあたりなんかどうですか?」
オルドはそう言って、いきなり目の前に羽が紅くて、瞳が黒い鳥が現れた。私の肩にちょうど止まれるサイズだけど、尾が長い。
「鳥だと身軽に動き回れますし、上空から偵察もできて、いるととても便利だと思うのですよ」
「なにその、いたらとても便利ですよ作戦っ!」
「同行をお願いするのですから、役に立たないと、ですよね?」
「ですよねって、同意を求めないでくださいっ!」
なんだというの、この紅い鳥っ!
「あとは……同行者として認めていただけませんと、これ以上は明かせないのです」
「うーん……。却下!」
「えぇっ? なんでですかっ!」
「なんでも、なにも! いきなり人の夢に出てきて……。って、あれ、これって夢、なのか。……いや、なんで人の夢に出てきてるの?」
「最近のリィナリティさんは疲れ切って夢も見ないほどの深い眠りに就いてまして。本当はもっと早い段階でコンタクトを取ろうとしたのですよ?」
「深い眠りって。それはすべてキースさんが悪いんですっ!」
「キースさんって、あの藍色の髪のエルフ、ですよね。あの人はなんですか?」
「なんですかって、オルドがなにを求めているのか分からないけど、中身は一応は人間?」
たまに不思議ちゃんになるけど、私と変わらない人間のはず。
なんかいろいろ謎はあるけどね!
「ふむ。あと、リィナリティさんの伴侶なるものみたいですが、伴侶とは?」
「共に生きる人? 特に配偶者のことを言う、かな?」
「配偶者……ですか。いわゆる番というものですね」
「そ、そうね」
間違ってないけど、なんかこう、番って言われると獣的というか。
オルドは鳥だから番でいいかもだけど!
「分かりました。妥協して、キースさんの肩で我慢します」
「ぇ? 勝手に着いてくること決定なのっ?」
「駄目と言われても着いていきますよ。逃げてもどこまでも追いかけますし」
「ストーカーっ?」
「追撃者と呼んでください」
それ、ストーカーとどう違いがあるの?
「とにかく、着いていきますから!」
オルドの一方的な宣言を最後に、私の意識は遠ざかった。




