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ゲームのレア職業を当てましたが、「洗濯屋」ってなにをするんですか?  作者: 倉永さな
《十一日目》日曜日

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第百十七話*結婚祝いの宴・前編

 ログアウトして身体を起こそうとしたらですね!

 ガシッと腕を掴まれた。


「うぎゃ!」

「すまない、オレだ」

「な、なんですか、麻人さん! せめて身体を起こしてヘルメットを取るまで……って!」


 謝るくらいなら、少しの間でも待ってくれればいいのに。

 あ、でも、短時間だったけどフィニメモ内で色々とあやしかったから仕方がない?


 麻人さんは私のヘルメットをもどかしそうに、だけど乱暴にならないように慎重に外すと、抱き寄せてきた。

 いや、まぁ、想定内といえばそうなんだけど、でも、なんだかいつもと様子が違う?


「どうしたんですか?」

「……気持ちが溢れすぎて、自分でもどうすればいいのか分からない」


 そう言って、きつくすがるように抱きしめてきた。

 私も麻人さんの身体に腕を回して、なだめるように背中を撫でる。


「んと。たぶんそういうときはですね、ベッドの端から端をゴロゴロすると治まりますよ」

「この間、莉那はそれをやっていたが、こんな気持ちだったのか?」

「えーっと。違いますけど。なんというかですね、麻

人さんのそのあふれんばかりの気持ちってのは、ジッとしているから辛いというか……」


 説明しにくいけど、言わんとしていることは分かる。分かりすぎる!


「莉那を抱きしめたら落ち着くかと思ったんだが」

「が?」

「ますますこう、なんというか。ざわざわが強くなった」


 そういうときはどうすればいいのでしょうかね?


「だが、不快ではない」


 さらに強く抱きしめられたので、さすがに苦しい。


「麻人さん、苦しいです」

「こうして抱きしめられるのは、オレだけの特権、だな」


 かなりご機嫌になったようで、ようやく離された。


「それにしても」

「あいにゃ?」

「フェリスにかなり気に入られたな」

「それですが」

「うん?」

「なんでゲーム内でだけ、モテモテなんでしょうか」

「リアルでもモテモテだろうが」

「……ぇ? いやいや、それはないですよ」

「……知らぬは本人のみ、か」


 思い返しても、モテていた覚えがまったくない。


「周りが牽制しあっていたからだれも声を掛けなかったようだな。まぁ、空気読めないくんは本当に空気が読めなかったから、行動に出ていたのだろうな」

「いや、あれは」

「『好きな子に意地悪する』亜種だな。まぁ、悪手だったがな」


 言われてみても、どうにも納得がいかない。


「……となると、麻人さんは抜け駆けなんですか?」

「そう言われても不思議はないかもな」

「いくらその人たちの間で牽制しあっていても、私が選べばそれで終わりですよね?」

「まぁな。強引に選ばせた自覚はある」


 本当に()なら選ばなかったから、誘導してくれたおかげで悩まず選べたのだと思う。


「早いか遅いかの差でしかありませんから」

「…………っ! それなら、オレが強引にしなくても」

「時間はかかったかもですけど、選んでましたよ」


 その一言に、麻人さんはまたもや私の身体をギュウギュウときつく抱きしめてきた。


「あ、麻人さんっ! 苦しいっ!」

「オレを選んでくれて、ありがとう……!」

「えと? は、はい?」


 麻人さんなら選ばれないってことなさそうだけど。

 ……って、選ぶのは私かっ!


 私が選ぶなんて、なんというか、おこがましい。

 でも。

 いくらモテても本当に好きな人に選ばれなければ意味がないと思う。

 だからモテるってのも考えようだよね。


 そんな感じでVR室でいちゃいちゃしていたら、本家から連絡が来たらしい。早く来るようにとのこと。なんで? と思っていたら、なんでも着付けを頼んでいるというのだ。着付けの人を呼んだってどれだけ本格的なの。


 車で本家に行くと、すぐに着付けをしてもらうための部屋に案内された。そこは畳張りで、かなり広い。そしてそこにはそれはもう、とても豪華な白無垢が用意されていた。

 なんでもこの白無垢、藍野家代々に伝わる由緒正しい着物らしく、本来は当主の伴侶か藍野家の女子が着る物らしいのだけど、上総さんの強い要望で、今回、着ることになったらしい。

 藍野家の女子といえば陽茉莉なんだけど、陽茉莉もこれを私に着てほしいと言ったという。


 大変にうれしく、名誉なことなのですが。

 いいのかしら?


 まさかとは思うけど、上総さんは予言の仕事があるから麻人さんに当主の仕事をしてほしいなんて言わないわよね?

 まあ、仕事がクビになったから、やれと言われそうだけど。

 すっかり忘れていたけど、私はどうなるのかしらね?


 そんなことを考えながら化粧をしてもらい、着付けをしてもらった。

 部屋が広いので麻人さんも紋付き袴を着付けてもらっている。背が高いから袴の調整に手間取っているみたい。

 私の着付けが終わっても麻人さんはまだ終わってないところをみると、相当苦戦しているようだ。

 袴を穿いてない状態だと着流しっぽくて、ものすごく色っぽく見えて目に毒なんですけど。

 ようやく調整できたようで、袴を穿いていた。


「待たせた……な。…………っ!」


 私の顔を見て、麻人さんは真っ赤になっていた。

 なぜか分からなくて首を傾げると、さらに赤くなっていた。


「麻人さん?」

「……綺麗過ぎて、びっくりした」


 鏡を見て、馬子にも衣装だなとは思ったけど、そんなに固まるほどなの?


 それを言うなら、麻人さんだっていつもと違っている。

 それにしても、いい男ってのはなにを着ても格好いいのね。


 そして、写真を撮るというのでついていくと、中庭に連れて来られた。

 とても整えられた日本庭園で、確かにここならとても映える。

 三ヶ所ほどで写真を撮ってもらい、また移動して、上総さんのお仕事部屋に。


「お疲れさま」


 そう言って微笑む上総さんを見て、だれかに似ているとその人物を脳内に浮かべそうになってしまったので、拒否するように首を振った。

 あ、危ない、危ない。


「うん、やはり僕が見立てたとおりだ」

「?」

「莉那はなずこさんにとてもよく似ているね」

「そんなに似てますか?」


 前に伊勢にメイクをしてもらったときにそれは思った。

 今日は着物用なのもあってメイクをお願いしたのだけど、母の面影があった。


「ここだけの話だけど、父はなずこさんのことが好きで、結婚する気でいたみたいなんだ」

「そ、そうなんですか」


 幼なじみという話だったから、不思議はない。


「だから莉那にその白無垢を着てもらったのは、親孝行のつもりなんだ」


 なるほど、そういう意図もあったのか。


「麻人」

「なんだ?」

「父はなにも言わないけど、明月院(めいげついん)家の血を入れることができて、とても喜んでいるよ」

「明月院?」

「あぁ、なずこさんの旧姓だよ」


 母の実家には年に一度、行くか行かないかだけど、母に輪を掛けた不思議ちゃん一家だ。

 母の名が「なずこ」と変わっているのも、母が不思議な人なのも、明月院家に生まれたからだ。

 それを考慮すると、私と楓真はそこそこまともに育ったなと思う。


「それと、正式な打診は改めてするけど、麻人、莉那と一緒に当主の仕事をしてほしいんだけど、どうだ?」


 や、やはりそう来るかっ!


「それは上総の仕事ではないのか?」

「本来ならね。でも、最近は情勢が目まぐるしく変わるせいで、未来がくるくると変わって、そっちに手を取られて当主の仕事が滞っているんだ」

「……と言う話なんだが、莉那は仕事、どうする? まぁ、かなりの確率で辞めてほしいって言われると思うが」

「麻人さん的には、私がこのまま仕事を続けることについて、どう思いますか?」

「あまり歓迎ではないが、会社的にはともかくとして、部署的には莉那に辞められると大変に困ると思うから、引き継ぎの間だけはやむなし、だな」


 それってどのみち、辞めるってことか。


「むぅ」


 と、そこで思い出した。


「上総さん」

「なんだい?」

「もし、私が会社を辞めなかった場合、会社がなくなるってことは?」


 私の質問に、上総さんは私の頭上をジッと見つめていた。

 その光景はなんとも不思議で、犬や猫がなにもない空間をジッと見つめているのと似ていた。

 え、まさか犬や猫って未来が視えるの?


 しばらく上総さんはそうやっていたけど、力なく首を振った。


「どうしてか、莉那ひとりだと未来が視えないんだ」

「へっ?」

「たまにいるんだ、未来が視えない人。麻人とセットだと視える……というより、麻人の未来、なんだろうな、これ」


 そう言って、上総さんはしばらくなにか考えていたけど、結論を出したのか、顔を上げた。

 その表情は麻人さんと似通っていて、やはり兄弟なのだと安心した。


「だから、どうなるのか分からない。分からないけど、莉那も早いところ、あの会社から離れることを推奨するよ」


 むぅ。

 別にあの会社に思い入れがあるとか、名残惜しいとかそういった感情はないのだけど、私はあの会社が将来、どうなるのか知っている。

 もちろん、私が残ったところでその未来が覆るなんて思ってないけど、少しでも延命できれば、なんて思っている。


 末永く続くではなくて、延命と思っている時点でどうなのかって話だけど、そう願ったところで覆るとは思えないのだ。

 それに、その未来はAIがなんらかの思惑、あるいは実験的ななにかがあってやろうとしているのなら、私がどうこうして足掻いても、覆ることはないだろう。


「とりあえず、明日のお達しを受けてから今後の身の振り方を考えます」

「うん、そうだね。それでいいと思うよ」


 そう言って、上総さんは柔らかに笑った。

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