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ゲームのレア職業を当てましたが、「洗濯屋」ってなにをするんですか?  作者: 倉永さな
《十日目》土曜日 *AIのない世界

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第百九話*《十日目》糸だらけ

 『乾燥』を『浄化』と言い間違えたリィナリティDeathっ!


 語感もなにもかも似てないふたつを言い間違えた私って、一体。


 しかも私は言い間違えと思っているけど、本能的になにかを感じてそう口にしたはずだというキース。

 本能的にって、私を野生動物みたいな言い方をしないでほしいです!


「それよりだ。アラネアはどうなっている?」


 それよりって!


 ……いえ、まぁ、私のことよりアラネアですけどね!


 アラネアを見ると、蜘蛛の腕が頭を抱えていたけれど、複数本あった腕がポロリと落ちて二本になり、その腕が徐々に人間のものに変わった。

 蜘蛛の腕! 落ちたよ! 超ホラーだよ!

 それだけでもびっくりだけど、まだ頭と腕以外は蜘蛛である。気持ちが悪い。

 だけど、人間の女性の頭がポロリと取れた!

 うぎゃあ! ホラー! 超絶ホラーだよ!

 と叫びそうになったのだけど、それは頭だけではなく、人間の胴体が現れ、足が……と身体がにゅるりといった感じでアラネアからこぼれ落ち、地面にボテッと落ちた。さすがに痛そうだ。


 駆け寄って助けてあげるべきなのか、アラネアだったのだからなにかされる可能性を考えて近寄らないのがいいのか。

 悩んでいると、地面に落ちた女性の頭に青いマーカーがあることに気がついた。

 ということは、NPC?


「お姉さまっ!」


 マリーが慌てて走ってきたけど、あれ、蜘蛛は?


「お兄さま、お姉さまをそのまましっかり捕まえていてくださいね」

「言われなくてもそうする」


 周りを見ると、すっかり蜘蛛はいなくなっていて、残っているのはアラネアの抜け殻。


 抜け殻?

 え、なにこれ、着ぐるみなのっ?


「伊勢、甲斐」

「はっ」

「とどめを刺したいのですが、たぶんこれ、お姉さましかダメージを与えられないと思いますの」

「私?」

「はい。伊勢と甲斐があの抜け殻が動かないようにしますので、お姉さまはスキルでトドメを」


 伊勢と甲斐は懐から縄らしきものを取り出すと、アラネアの抜け殻に投げつけた。それは抜け殻全体を覆った。ふたりは縄の両端を地面に縫いつけた。


「お姉さま、お願いします!」


 なにこの至れり尽くせりなの。

 みんな、私に対して過保護過ぎません?


 それでは、今度こそ『乾燥』を!


【このスキルは現在、使用できません】


 とシステムメッセージが。


「え?」

「どうした?」

「……『乾燥』が使えない」


 MPは満タンだし、さすがに使えるようになっているはずなのに、MPを注ぎ込もうとしたら、使えないって。


「では、違うスキルだろう」


 さっきと同じ『浄化』?


【このスキルは現在、使用できません】


 む?

 となると?


 ちがうような気がするけど、『癒しの雨』?


【このスキルは現在、使用できません】


 おおおいっ!

 使えないって!


「ことごとくスキルが使えない」

「試してないスキルはあとなんだ?」

「身体強化系と、『アイロン台召喚』と『アイロン仕上げ』?」


 ふたつのスキル名を口にすると、イロンが二回ほど光った。


「イロン?」

「今のどちらかを使えばよい」


 どちらか?

 この場合、『アイロン台召喚』はないと思うのよね。

 ──となると。

 イロンをつかみ、アラネアに向かって詠唱する。


「『アイロン仕上げ』っ!」


 すると。


 イロンが淡い光を発すると、私の手からスルリと抜け、アラネアへと飛んでいく。

 そしてイロンはアラネアの真上へと到着した。

 そのままイロンが待機してるんだけど、あれ、もう一度、詠唱?


「『アイロン仕上げ』」


 詠唱すると、イロンが紅く光り、アラネアの身体に向かって光が注がれた。キラキラ輝く光のシャワーのようだ。

 それはとても綺麗で、思わず見とれていた。


 イロンから注がれていた光が止まると、抜け殻が暴れ出した。

 うきゃあ!


 と思ったけど、伊勢と甲斐が網で止めていてくれたので、網の中で暴れている。しっかりと端を地面に埋めてくれているから大丈夫だと思うけど、ものすごい勢いで暴れているのですけど。あれが外れたら……。

 だ、駄目よ、リィナ。それ、布石してるから!


「ぐ……ぎ、ぎ、ぎぎぃ」


 さっきまでアラネアは喋っていたけど、今は言葉になっていない。

 というより、喋っていた人は地面に落ちて倒れたまま。


 あれ? あの人を救助しないと、アラネアが暴れているのに巻き込まれない?

 と思っていると、伊勢と甲斐が気がついて、ふたりが引っ張って遠ざけてくれていた。


「ぐぎゃああああ!」


 アラネアは最期の叫びといわんばかりに声の限り叫び──動きを止めた。

 ふぅ。


「まだだ」


 キースが後ろから注意喚起をしてきた。

 え、まだなの?


 アラネアの上にいたイロンがふわふわと私のところへ舞い降りてきた。


 イロンが定位置についた途端。


 アラネアの抜け殻が紅く光り──。

 光を放った。


 眩しくて慌てて目を閉じて、手で顔を覆った。


 それはすぐに落ち着いたので、慎重に目を覆っていた手を除け、アラネアがいたところを見たのだけど。


「……なに、これ?」


 アラネアを覆っていた網の中になにか良く分からない束が山のように積まれている。アラネアがいたところがその謎の束に置き換わった、と言えばいいだろうか。

 恐る恐る近寄って、その束をひとつ、手に取ってみた。


「……糸?」

「糸、ですね」


 糸といっても、市販のしつけ糸みたいな感じで束ねられている。それが……何百個? 千単位あるかも。ってくらいある。


「これ、とりあえずマリーちゃんに全部ね」

「え?」

「だって私たち、これもらっても、ねぇ?」


 伊勢と甲斐に視線を向けると、激しく頷かれた。


「参加者全員一致で!」

「その、いいのですか?」

「よい! これでまた、防具を作ってほしいのです!」


 使い道のない糸? をマリーに押し付けることが成功した。


「それでは、他の戦利品は三人で分けてください」

「四個あるものはひとつずつにするからね!」


 と宣言して、共有ボックスに自動で入っているドロップ品の確認をすることにした。


 ゲームによるかもだけど、フィニメモではパーティ編成のときにドロップ品をどうするかというのが提示される。

 それはランダムだったり、順番にだったり、拾った人だったりとそれぞれだ。争いにならないのはランダムか順番に、になる。そのため、だいたいはこのどちらかになる。

 だけどボスやレイドなどは強力な武器や防具がドロップすることがあるし、レアな品も落ちることがある。だいたいは主催者か連合主があらかじめ拾った人にしておき、主催者か連合主が拾ってまとめてオークションをしていく。


 というのがメンテ前までのドロップ品事情だった。


 ところがだ、正式サービスが始まってから高レベル帯で行ったボスだかレイドだかで、持ち逃げ事件が発生しまくったらしいのだ。

 運営が調べたところ、どうやらリアルの犯罪組織だかが関わっていて、ゲーム外でリアルマネーでそのアイテムが取引されていたようなのだ。

 もちろん、売った側も買った側もBANされたらしいのだけど、ゲームシステムの穴を突かれた形になったため、ボスとレイド戦の場合、自動で共有ボックスというものが作られて、そこにドロップ品が一度、プールされる形を取るようにしたようなのだ。

 ちなみに、主催者や連合主がカウントし忘れたり、意図的にドロップ品をちょろまかしたりということがβテストのときにもあり、プレイヤーが運営に改善を求めていたという経緯もあったため、実装されるのは早かったようだ。


 ということでですね。

 倒すと自動的にドロップ品が共有ボックスに入っているのですよ。

 でもなぜか、糸は入ってなかった。

 多すぎて入らなかった? いや、そんな物理的なサイズって共有ボックスに関係あるのだろうか。


 まぁ、いいや。


 それで、ですが。

 えとですね。

 アラネアからのドロップ品は先ほどの大量の糸と……。


「これも……糸?」

「でござるな」


 こっちは先ほどの糸よりグレードが上がってるみたいだけど、やはり大量にある。


「これもマリーちゃん行きで」

「よいでござる」

「同意」


 ということで、マリーを選択して、と。


「きゃっ!」


 マリーが驚いているけど、まあ、数は分からないけど、びっくりする量であるのは確かだ。


 ──で、結局のところ。


 防具作成用の素材の大量ドロップだったため、ほとんどがマリー行きになったのでした。


 な、なんかこれ、ある意味、嫌がらせよね。

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― 新着の感想 ―
[一言] そうか……、洗濯屋の使命って、そういう事だったのか ……多分アラネアは核になった女性の邪念に惹かれた魔物に寄生されてか、女性自身の邪念が凝り固まって生まれた魔物だったんだ
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