第百七話*《十日目》カウントダウンが終わるまでにやっちまえば問題なくね?
そういえばさっきからアラネア本体はまったく攻撃をしてこないのだけど、なんで?
「なんでアラネアは攻撃をしてこないのかしら?」
イソギンチャクのアネモネのときもだったけど、蜘蛛のアラネアも直接の攻撃をしてこない。
でも、災厄キノコは攻撃してきていたのよね。
……………………。
違いはどこに?
災厄キノコはたくさんのプレイヤーがいたけど、アネモネは私のみ、アラネアは私を含めた数人で、アラネアにはまだこちらからも直接な攻撃はしていない。
乾燥で攻撃してるじゃないの、と思うかもだけど、乾燥って直接攻撃というより、強烈なデバフに近いと思う。
システムが勝手に作った職とスキルなので、きちんと処理がなされていない可能性も。
となると、アネモネもアラネアも攻撃できないというより、攻撃する相手を特定できていない?
……あり得る。
激しくあり得る。
これってバグ利用になるのかしら?
ゲームマスターに聞きたいのだけど、今、あまり緊迫感はないけど、戦闘中。呼べば来てくれると思うけど、いや、むしろ喜び勇んで来ると思うけど! 水を差されるようでやよね。
となると、バグ利用と思われないためには、マリーにアラネアにヘイトを打ってもらうしかない。
……でもこれ、マリーがアラネアにヘイトを打った瞬間、攻撃してくるってことよね。
むむむ?
でも、一方的に攻撃をして勝つのは、なんか味気ない。
「マリーちゃん、アラネアにヘイト!」
「さっきからずっとディレイごとにしてますけど、反応がないのです」
む?
なにか他の要因が?
「リィナ、鑑定してみろ」
キースのアドバイスに従って、アラネアを鑑定してみる。
名前はアラネア。HPは半分に減っている。そして、さっき鑑定してなかったものが追加されていた。
なになに? 『デバフ・無抵抗』……反撃する意欲が著しく低下しています、だとっ?
「なに、このデバフ」
「見てのとおりだ」
さっき、私は乾燥は攻撃よりデバフだって思ったわよね?
まさかこのデバフ。
「私のせい?」
「どう考えてもそうだろう」
なるほど、それで攻撃されなかったのか!
……………………。
「これ、チートじゃね?」
「だな」
今まで乾燥を使ってきたけど、基本は一撃で仕留めていたから分からなかった。
とはいえ、反撃なしというのは、なんとも味気ない。
「ううむ」
もちろん、痛いのはやなので、攻撃を受けたいわけではない。
しかし、だ。
これはなんというか。
「システムさんがどこまでも過保護過ぎるっ!」
「我が持ち主はシステムに愛されている」
「くぅ、やはりシステムまでもがライバル……っ!」
いつもの光景で、ここまで来るとお約束になってしまっているけど、キース、残念すぎる。
「よぉーっし! システムさんの気が変わらないうちに、アラネアに乾燥しまくるぞっ☆」
分かってる、現実逃避だってこと。
いやしかし、ここはゲーム内だ。ゲーム内でも現実逃避って、私の現実はどこ?
それはともかく。
「『乾燥』っ!」
乾燥だけど、MPの使用量によって与えるダメージを変えられるんだけど、さすがに上限値が設定されている。
だから、上限値までMPを突っ込んでアラネアへ。
さすがに瀕死にはならないよね、と思ったら、四分の一までしか減らせられなかった。
いや、一撃でこれだから、充分すぎるというか、本当にチートだと思う。
だけどだ、見た目は変わってないけど、乾燥に対する抵抗値が上がったような気がするのよね。
とはいえ、鑑定してみると、相変わらず『デバフ・無抵抗』が掛かった状態で抵抗値が上昇しているわけではなさそうだ。他の要因か。
それでも、アラネアは攻撃を受けると蜘蛛を大量に呼び寄せる。私たちにしてみれば、その蜘蛛はMP回復のための餌でしかないのだけどね。
マリーたちは手慣れた手順で蜘蛛を倒すと、MPが回復する。
MPが回復したのでまたもや限界までMPを使って『乾燥』をかける。
すると、今度は残り四分の一の半分、つまり八分の一が削れた。
ということは、次は十六分の一ってこと?
むむむ?
そうなると、いつまでもアラネアのHPはゼロにならないってことよね?
うーむ。
「リィナ?」
「あいにゃ?」
「なにを悩んでいる?」
「さっきからつぎ込める限界までMPを注入して乾燥をかけてるのですが、アラネアの残りHPの半分しか削れないのですよ」
私の悩みにキースは頭を抱えた。
「リィナ、今、しかと言ったな?」
「あいにゃ」
「ボス相手に必ず残量の半分が削れるなんて、あり得ないからな」
言われてみれば、そうかもしれない。
なんといいますか、感覚が狂ってるというか、おかしくなってるというか。
すべてはシステムさんのせいっ!
「──まぁ、リィナの言いたいことは分かる。残量が減ってくると、反比例して減る量が減り、どこまで行ってもゼロに出来ない」
「そうなのですよ!」
「ところで、リィナ」
「はいな」
「乾燥はつぎ込めるMPをマックスまで宛がわなかった場合、どうなる?」
「……………………?」
はて、どうなるのでしょうか?
「うーん?」
「おい、まさか毎回、マックスまで」
「いえ、さすがにそこまで考えなしではないですよ」
そもそもが普段はゲージが出て、最適量のMPをほぼ自動で割り振られるので、そんなに考えることなくスキルが使える。
これはドゥオとともにゴブリン相手にいろいろと試してゲージが出るようになったおかげだ。
とはいえ、そもそもがこの乾燥というスキル、クセが強すぎる。
取得当初はどうやって使うのかさっぱり分からないし、洗濯屋という職なので、衣服に使うものと思うじゃない。
それがまさか、戦闘でも使えるなんて。
まぁ、ユニーク職で、プレイヤーでは私しか使えないのですけどね!
……うん。
となると、ボスの場合はどうなるのだろうか。
あれ?
MPを限界のマックスまで注ぎ込めば、必ず残量に対して半分にしてくれるって、イソギンチャクのアネモネにもだったのかしら?
試してないから、
「分からないですっ!」
「分からないのなら、試せ」
「そ、そうですね」
至言です。
ということで、アラネアに再度、乾燥を……。
ゲージが出て、MPは? と言わんばかりにアラネアのHPとは別にMP用のゲージが現れる。
そこにMPを注ぐイメージをすると、青いゲージが増えていく。
ちなみに、だいたいのRPGにはHPゲージとMPゲージが表示されていると思うけど、お約束のようにHPは赤で表示されることが多い。あれってつまり、血の色、ということなのかしら?
MPは青が多いけど、黄色や緑、なんてこともある。
フィニメモはHPは赤、MPは青だ。
それで、MPゲージにMPを注入していくのだけど、半分ほどにしてみた。
今回は手動で行ったけど、雑魚敵に対しては自動にしていると、一撃で倒せる量が自動的にセットされる。
とここで、いつもの。
「『乾燥』っ!」
これで乾燥が発動するのである。
雑魚敵は自動なので、単体か範囲かを選んで詠唱すれば、スキルが発動する。
まぁ、これはゲージを認識できるまでは手動でしか発動しなかったのですけどね!
さて、今回のMP半分の場合は……と?
「な、なんだってぇ!」
おいいい! なんで残量の半分以上が削れてるのっ!
MPマックスって一体。
「リィナ、よく見てみろ」
「ぅぅ、なにか違いがありますか?」
「デバフのカウントダウンが始まったぞ」
「にゃ、にゃんだって?」
無抵抗が切れたら、反撃を喰らうってことよねっ?
さっきと今と、なにが違う?
まさか使用MP量の差?
「MPの注ぎこめるマックスだと、追加効果としてデバフが付け加えられるの?」
「それか、別の要因ということはないか?」
うーむ、相変わらずスキルの説明は簡潔なままだ。
ということは、まだ知らない効果やら使い方がある可能性があるってことか。
「分かりませんっ!」
「乾燥はリィナしか使えないのか?」
「プレイヤーではそうですね」
「NPCだと使える人がいるのか」
「クイさんがそうです」
詳しくはクイさんに聞いてみよう。
それよりも、だ。今はアラネアの無抵抗のカウントダウンだ。
……ん?
デバフが切れる前に倒してしまえば問題なくね?




