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刻の乙女と天の華  作者: 稲葉千紗
2018-12-22

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7/9

駆け込み寺には駆け込めない

「拾ってきた場所に捨てて来い」


 その人は、あたし見るなり鋭い眼差しで睨んできた。

 あきらとよく似た美人顔が、とても怖い事になっている。


「どう見ても触ったらダメなやつだろ。こんなに絡みついた呪とか俺でも見たことないぞ」

「で、でも真言まことちゃん、植物達が力になってあげてっていうんだよ。きっと何か事情が……」

「事情があろうがなんだろうが関係ない。下手にかかわるな、祟られるぞ」


 当事者であるあたしを置いてきぼりにして、目の前で二人が言い争いを始めてし合った。

 聞き耳をたてるまでもなく聞こえてくる内容によると、どうやらあたしは大変な危険物らしい。

 取り扱い要注意どころか、触るな、近寄るな、自然と朽ちるに任せておけ、レベルの。


「あたしは手のつけられない怨霊に憑かれた人形か何かか」

「むしろそれよりタチが悪い。人形は火にくべれば浄化できるけど、あんたでそれをやったら俺らが捕まる。打つ手なしってやつだ」

「真言ちゃん!」


 思わずぼやいたら、呪いの人形よりも厄介な存在になってしまった。

 自覚はあるので、その後に続いた「でもこの時代の人間じゃないなら燃やして水に流せば何とか……」という物騒な言葉は聞かなかった事にしよう。

 でないと狐との勝負がどうこう以前に川を渡る破目になる。

 晶はいったいどうしてこの人を呼んだんだ。


「ごめんね風花。真言ちゃんは私なんかよりもすごく頼りになるいい子なんだよ。こんな事言ってるけど、絶対にどうにかしてくれるから!」

「ちょっと待てこの平和ボケ、無責任な事言うな」

「大丈夫、真言ちゃんなら出来る!」

「何を根拠に!?」


「私の優秀な弟に出来ない事なんてあるはずがない」


 大真面目な顔して言い切る姉を前に、弟が言葉を失った。心なしか耳が赤い。

 どうやらこの勝負はブラコン……いや、晶の勝ちらしい。


「人の気も知らずに……」


 うなだれる美少年の姿はなんとも哀愁を誘う。

 ぜひとも強く生きてほしいと応援したくなった。


「と、言うことで。この子が真言ちゃん。私の自慢の弟で神霊関連の専門家」


 ひと段落ついたところで、晶は改めてあたしに「彼」を紹介してくれた。


 津守つもり真言。

 まっすぐな黒髪を晶と同じ赤い組紐をでひとつにくくっている、晶にも負けない美人さんだ。

 髪の長さは晶よりも短くて、肩につくかつかないかくらい。

 おかげでサイドの髪が流れてて、なんというかこう、たぶん好きな人はとても好きな髪型だと思う。


 かっこいいというより美しい顔立ちの彼は、なんと晶の双子の弟だそうだ。

 どうりでそっくりなはずである。

 うんと小さな頃に養子に出されたけれど、姉弟の仲は今でも良好。連絡も頻繁に取り合っているらしい。

 おそらく、晶の凛とした雰囲気とか、女性らしさが少し足りない言葉遣いは彼の影響もあるのだろう。

 似合っているから特に問題は感じない。


「俺の専門は浄化。今は津守の家で神和かんなぎしてて、それなりに力はある方だけど……でも、あんたに憑いてるヤツはどうにも出来ないと思う」


 津守といえば古くから続く神官の名家だ。

 つまり、神霊関係のトラブルにあったら相談するところである。

 その駆け込み寺に、受け入れを拒否された。


「うん、知ってた」


 あたしに出来るのは、死んだ魚の目で強がって見せるだけ。

 神様がかかわっている事で津守に解決できないなら、安倍であるあたしにどうにか出来る筈がない。

 これが妖怪なら力技でねじ伏せるのにと考えて、対象となる相手を思い出す。


 ……こっちがねじ伏せられて終わるね。いやでも死なばもろともって言うし……?


「とりあえず、ご機嫌を損ねないよう、遊びとやらにはまじめに参加したほうがいいと思う」


 祟られたらシャレにならないし、と真言がアドバイスをくれるついでに逃げ道を塞いでいく。

 あたしは優しいから君の「巻き込まれるのはゴメンだ」という呟きは忘れてあげなくもない。

 たしかに、オモチャと認定されるよりはブラックリスト入りの方がまだ可能性がある。誤差の範囲内だけど。


「じゃあ空狐のお名前探し隊を結成しよう! 隊長は風花で、副隊長が私。そんでもって招神しょうしん係が真言ちゃん!」

「ちょっと待て。どうしてそこで俺の名前がごく自然に呼ばれるの。そんでもってなんで神様呼ぶことが決まってるの」

「真言ちゃんだから」


 キラキラと輝く乙女の眼差しを向ける晶と虚ろな眼の真言の姿に、この姉弟の力関係を見た。


「あのね風花、真言ちゃんの招神ってすごいんだよ。私は見えない方なんだけど、それでもキラキラ光って見えるんだ」


 気が付いたら結成されていた突貫工事部隊。

 その方向性が、隊長に意見を仰ぐ事も、隊員の言葉を聞き入れる事もなく決まっていく。

 あれ、これあたしが一番の当事者であってる?


「落ち着け! この、暴走娘!」

「待って真言ちゃん、髪の毛つかむのやめてー!」


 頭上にはてなを浮かべて、首をひねっている間に隊員が下剋上した。

 シリアスな雰囲気はもうかけらも残っていなかった。


「晶、性格変わってない……?」

「……こっちが素なんだよ。お前も気をつけろ、どこ行くかわかんねぇから」


 ふむ。危険物扱いしたあたしの素朴な疑問にも、きっちり答えてくれるあたり真言は案外優しいのかもしれない。


双子……すきです。

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シリーズ作品「実りの神子と恋の花」本編完結しております。
すべてのベースとなるお話です。読まなくても大丈夫ですが、読んでおくとニヤニヤできます。

実りの神子と恋の花
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