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刻の乙女と天の華  作者: 稲葉千紗
2018-12-21

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3/9

優雅で胡散臭いお茶席

「うちは神職の家系でもなんでもないんだけどね、知識だけは伝わってるの。たぶんご先祖様にそういう人がいたんだと思う」


 蔵の方に古い巻物が保存してあるから、気になるなら後で見てみるといいかも。

 あきらと名乗った彼女は、右手につけた赤い石のブレスレットに触れながらそう言った。



 あたしは今、大きなお屋敷の立派な日本庭園を一望できる品の良い客間で、たぶんものすごくお高い緑茶をいただいている。

 優雅な雰囲気が漂う中、女二人で向き合って、けれど口にする話題はなかなかに胡散臭い。

 どうしてこうなった。


「なんで自分はここにいるんだろう、って顔してるね」


 よほど顔に出ていたのだろう。晶が笑った。


「いや、だって」


 あたしは言葉につまる。どう言えば良いのかわからなかった。


「まぁ、気持ちはわからなくはないけどね。拉致みたいに連れてきて申し訳なかったとは思ってる。でも、目立ってたから」


 早く何とかしないと、と思われていたらしい。心外だ。


「そんなに? あんまり突飛な事はしてないと思うんだけど」

「そうだね。服装だけでもかなり目立つよ」


 あたしには同じに見えるけど、晶にとっては違うらしい。

 指摘されたあたしは、自分と晶の服を見比べてみる。よくわからなかった。


「……そんなに変な服着てる?」

「ファッションショーにいそうな感じかな」


 それは、なんというか、とても前衛的という理解であっているのだろうか。

 問えば、晶は苦笑する。


「夏祭りに着ていくような浴衣で平安時代に現れたようなものって言えばわかる? それでいて、北山あたりでずっと平伏してるの」


 目立つとかそういう次元ですらなかった。

 衣は重ねて着るもので、貴族女性は基本的に出歩かないとされている時代にそんな事したら、狂人認定されるレベルだ。1000年って怖い。


「あの神社、一応管理してる人がいるから、通報される前に連れ出さなきゃって、焦っちゃって」

「ううん。こっちこそ自覚無くてごめん。帰ることに夢中になっちゃって……確かに周りが見えて無かったかも」


 あたしは、焦っていた。

 なにせ1000年も飛んだのだ。しかも異界への扉が閉ざされている時代である。

 どうすればいいのかもわからなくて、土地神を探すことにしか考えていなかった。


 まさか自分の行動が通報されるレベルだとは……晶に出会わなければ、今頃は留置所にいたかもしれない。


 そこまで考えて、ふと気づく。


「晶は、なんであたしを回収できたの?」


 晶は、とてもタイミングよく現れた。

 彼女はどうやって、あたしがあそこにいると知ったのだろう。


「……私ね、耳が良いの」


 素直な疑問をぶつければ、晶は少し困ったように眉根を寄せた。


「視る力は全然ないんだけどね、声だけは聞く事が出来て……それでね、あなたの事は植物達が教えてくれた」


 時空の歪み、現れた未来の娘。

 彼女は元の時代に帰りたがっていて、けれどその方法がわからない。

 ものすごく目立つから、だから保護をした方が良いと、晶に知らせた存在がる。


 信じられないかもしれないけど。と続いた言葉に、あたしは、安倍の家以外にもそう言った力を受け継ぐ人たちがいる事を思い出した。

 植物に関する能力はとても希少だけれど、いないわけではない。おそらく彼女には、そういう血が流れている。


「信じるよ。あたしは安倍だもん」


 安倍は、狐を祖とする家系だ。その力の源は脈々と受け継がれる血に宿っている。

 平成の世では伝説だとか言い伝えだとか言われているけれど、異界の扉が開かれた未来ではそれが真実であることは証明されていて。

 だから、疑うなんて選択肢は最初からない。


「それに、嘘をついているかどうかはなんて目を見ればわかる。晶は、本当の事しか言ってない」


 幼い頃から好奇の視線にさらされてきた。物の怪よりも人間の方が恐ろしいのだと、あたしは身をもって知っている。

 だからあたしに嘘は通じない。


 そう言えば、晶は明らかに肩の力を抜いた。

 きっと彼女には彼女の苦労があったのだろう。

 むやみやたらに触るのは良くないと考えて、あたしは話題を変える。


 具体的には、帰る方法についてだ。

 晶がこちら側の人間という事は、知識もあると思われる。

 きっと、閉ざされている異界の扉とか優しい土地神の情報とかも持っているに違いない。


 でも、世の中はそんなに甘くなくて、あたしの質問は晶を困らせただけだった。


「あのね、私が風花かざかを迎えにいった理由なんだけどね、たぶん年が明けるまでは帰れないと思ったからなの」


 なんでも、今の時期は異国の色が濃くて古い神々は出て来たがらないらしい。

 そんでもってその後ははらえだのなんだのと神事が立て込んでいて、協力をお願いしたいなら、少なくとも三が日以降にした方が良いのだとか。


「つまり、あたしは少なくとも後2週間、この時代で過ごさなきゃいけないって事?」


 思わず真顔になってしまった。


「うん。うちに滞在してくれて良いから」


 晶も神妙な顔で頷く。

 ひとまず、宿と旅先案内人は確保できたらしい。


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シリーズ作品「実りの神子と恋の花」本編完結しております。
すべてのベースとなるお話です。読まなくても大丈夫ですが、読んでおくとニヤニヤできます。

実りの神子と恋の花
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