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刻の乙女と天の華  作者: 稲葉千紗
3046 >>> 2018

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時を越えて

活動報告で上げていたアレです。

 

 あたしが生まれた時、空から白い花が降ったらしい。


 この地域に降る天然の雪はもう何年も観測されていないから、ものすごい騒ぎになったそうだ。

 ニュースは大賑わい。インターネット上ではお祭り騒ぎ。

 街は野次馬根性丸出しの観光客やら、SNSでヒーローになりたいミーハーな若者やらがあふれかえって、公明な学者先生やら研究者やらが頼んでもいないのに国内外から押しかけてくる始末。

 日常を壊されて住民達が怒るのも無理はない。


 当然、雪が降った時刻に産まれたあたしの存在は表沙汰にされた。


 そういうどうでも良い事を騒ぎ立てる風潮は、今も昔も変わらないこの国の国民性ともいえるだろう。

 大の大人が徒党を組んで新生児室に押しかけて、婦長様に全員まとめて正座させられた、という大変シュールな写真があたしの部屋には飾ってある。

 おばあちゃんが面白がって撮影したらしい。ちなみにお父さんはその隣で動画を撮り、まだ床上げが済んでいなかったお母さんに面白おかしく語ったと言うのだから、うちの家族はどこかズレている思う。


 でも、そんな家族だからこそ、周囲がどんなに騒いでも、あたしを見捨てることなく守ってくれた。


「きっと神様がこの子の誕生を祝ってくださったんだよ」


 そう言って、私に『風花かざか』という名前をつけたのはおばあちゃんだ。




 安倍あべ風花かざか。それがあたしの名前。


 名字で予想はつくかもしれないけど、先祖に安倍清明がいる。

 はるか昔に生きた偉大な陰陽師で、教科書にも載っているほどの有名人だ。

 彼を題材にした小説なんかも数えきれないほどあって、その名を知らない国民はいないんじゃないかな。

 子孫はさぞ鼻が高いだろうと、意味の分からない言いがかりを付けてくる暇人だっているくらいだ。


 でも、現実はそんなに甘くはない。

 お父さんも、おばあちゃんも、あの人の血を継ぐ人はみんな、血と同時に受け継がれた力に苦労している。


 もちろん、あたしも。


 人ならざるモノの存在がおおやけに確認されてから1000年。31世紀を迎えた今の世でも生き辛いんだから、そういったものが否定されていた平成の頃なんかは本当に大変だったと思う。


 2000年という時間をもってしても薄め切れなかったこのしぶとい血がもっと濃かった時代の事なんて、恐ろしくて考えたくもない。


 そう、思っていた。

 今朝までは。





「うそでしょう?」


 首からぶら下げたれき羅針盤らしんばんの針を確認したあたしは、自分の眼を疑った。

 赤く染まっている針先は、時空をさかのぼった証だ。

 別にそれはいい。

 7つの頃からポコポコと時空の狭間に落ち続けた人生だ。今さらちょっと過去に飛んだくらいで慌てるような、かわいらしい精神構造は持ち合わせていない。

 問題は、さかのぼった事ではない。さかのぼった年数だ。


「2018年。これはちょっと……想定外だわ」


 今まではせいぜい100年くらいが関の山だったから、まさか一気に1000年も昔の時代に飛ぶとは思わなかった。

 これがレベルアップと言うものなのだろうか。望んでないけど。


「せめて2030年くらいだったらなぁ……」


 八百万の神々や妖かしが暮らす異界と現世との扉がつながったのが確かそれくらいだった。

 扉さえあれば、あとはこの身に流れる清明の血がどうにかしてくれる。


 けれど今は2018年。

 人ならざるモノ達は異界に絶賛ひきこもり中で、ふらりと現世に遊びに来る存在はだいたいが暇つぶしか、悪い事をたくらんでいるかの二択なわけで。出来る事なら関わりたくない。


「ああもう、明治維新のばかぁああああ!」


 思わず叫んだあたしは悪くない。

 近代化の波がカレらの在り方を歪め、異界へと追いやったのは有名な事だ。

 未来を知るものとしての意見を言わせてもらえば、もう少し計画的に行ってほしかった。


「……まぁ、言っても仕方がないんだけどね」


 歴史は変わらないし、あたしの現状も変わらない。

 胸に渦巻く感情を息と共に吐き出して、あたしは神社探しの旅に出る事にした。


 おそらく、この時代にだって土地神はいると思う。思いたい。

 ホント、お願いだから。



 ……どうか引きこもっていませんように!

Q:なぜ恋愛(現代)ではないのですか?

A:一応世界観的には「実りの神子と恋の花」と同じだからです。今後の展開的に現代と言い張るよりは異世界って言い張ったほうがまだいけると思いました。

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シリーズ作品「実りの神子と恋の花」本編完結しております。
すべてのベースとなるお話です。読まなくても大丈夫ですが、読んでおくとニヤニヤできます。

実りの神子と恋の花
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