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ep63 折れた翼

 赤き炎を纏ったタイタニクスは、隕石に押し潰されながらもなお抗い続けていた。

 機体は軋み、空気は焦げ、誰もが限界だと悟った――その時だった。


 ――ゴウゥゥゥンッ……!!


 轟音とともに、船体が一気にうねる。

 タイタニクスが、急上昇を始めたのだ。


「すごい……っ、隕石を押し返した……!?」


 次の瞬間、タイタニクスを包んでいた赤い炎が――蒼炎へと変貌した。


 蒼く、冷たく、しかしその中には強靭な意志が宿っていた。

 同時に、機体全体を覆っていた魔法障壁が、後方から徐々に解除されていく。


 光が収束し、船体の正面――隕石との接触点に集中していく。

 まるで一点突破を狙うような、分厚く鋭い魔力の盾が形を成した。


 そして――二つの主砲に、巨大なエネルギーが集まっていく。


 ウウウウウゥゥゥン……!


 高まる音。放たれる気迫。


 その瞬間、スカイは確信した。

 この船は、突破口を――希望を、自らの手で切り拓こうとしている!


「振り落とされないように全力で何かに捕まれええええッ!!」


 スカイの叫びが響き渡った。

 甲板にいた乗客も冒険者たちも、手すりや支柱にしがみつき、必死に身体を支える。


 そして――


 ズギュンンンンン!!!!


 主砲から、凄まじいエネルギー砲が放たれた。


 だが、それは一瞬の閃光ではなかった。放たれた光は、継続的に放射され続けていた。


「なんだこの火力は……!」

「見ろ! 隕石に穴がッ!」


 凄まじい衝撃と振動の中、タイタニクスは魔法障壁を前面に集中させ、隕石を真正面から突き進む。

 砲撃の波動が、超巨大な隕石に穴を穿ち、削り、崩し続ける。


 ドガガガガガガァァァァ……!!


 耳を劈く轟音。

 崩壊していく隕石の内部。

 乗客と冒険者、すべての願いをその船体に乗せて、暗き闇の中を突き進んでいく。


 ――しかし、その代償はあまりに大きかった。


 隕石の内壁は分厚く、堅く、焼けるように熱かった。

 タイタニクスの翼が、次々と砕け、裂け、片翼は根本から大きく折れた。船体の装甲が剥がれ、甲板の縁がえぐれ、魔道機構が火花を散らす。


 それでも尚、タイタニクスは突き進んだ。


「……ッ!」


 スカイの目が、船体の損傷を映し出していた。

 限界が近い――このままでは、タイタニクスが崩れ落ちてしまう。


 だが、彼自身も魔力はほとんど残っていない。

 《ファイナル・レコード・アンリーシュド》を二度も放った今――ただ立っているだけでも、身体が軋むように重い。


 それでも、スカイはゆっくりと弓琴を持ち上げた。


「……もう一度だけ。お願い……僕に力を貸して」


 か細く、しかし確かな音が甲板に響く。


 ♪――……、…………


 それは優しく、温かく、寄り添うような旋律だった。

 まるで、倒れかけた友を支え、共に歩き出すように。


 タイタニクスの全身に、蒼く淡い光が灯る。

 折れたはずの翼が、炎となって再び羽ばたき始める。

 割れかけた外壁がわずかに補強され、崩れかけた魔導部が軋みながらも回復していく。


「……あたたかい……」


 ロゼが呟いた。


 スカイのそれは何かを強化するバフというより、"祈り"に近かった。


 スカイの音が、命を繋ぎ、空へと導く。

 音の翼が、タイタニクスを――仲間を、もう一歩先へと運んでいく。


「もう一息だ。僕が支える、一緒に頑張ろう……タイタニクス」


 ――ギィィィィィィィンッ!!


 そして、一筋の光が見えた。


 ズガオォォォン!!!


 タイタニクスは、ついに巨大な隕石を貫通し、反対側の空へと飛び出した。


 長く、暗く、重苦しいトンネルの果て。


 燦々と降り注ぐ眩しい光が、船体を包む。


 それは、隕石に覆われていた空の先――

 隠されていたはずの太陽の光だった。


「……太陽……」

「……助かっ……!」


 誰かが呟き、誰かが泣いた。


「やったああああああ!!」

「生きてる!! 本当に生きてるぞ!!」

「信じられない……夢じゃないよな!?」

「ありがとう……ありがとうタイタニクス……!」


 人々が互いに抱き合い、泣き笑い、涙を流して喜びあった。

 倒れ込んで天を仰ぐ者。肩を震わせながら手を合わせる者。誰もが、命があることに、ただただ感謝していた。


「うわああああん!! もうダメかと思ったぁぁぁ!!」

「家族に会える……っ、帰れる……!」

「生還だぁぁぁっ!!」


 冒険者たちもまた、剣を掲げて叫ぶ。


 乗客と冒険者、すべての者が歓喜に沸き返った。


 太陽の光の中、飛空艇は誇らしげに――空を翔けていた。


 ボロボロになった翼。


 傷だらけの船体。


 魔法障壁もすべて失われていた。


 それでもなお、タイタニクスは墜ちなかった。


 空に、その意思を刻みながら。


 人と船が願いを重ね、絶望を貫いた、不死鳥の飛翔だった。

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