89話
十分に睡眠をとった今日のボクは寝起きも良く、身体のキレも上々。これだけ調子が良ければ鈍臭いボクでもみんなの邪魔にならないはず。
そう思いながら集合場所の馬エリアに向かうと3人共ひどく疲れている様子。
「おはようございます」
「……あっ、おはようございます」
「もしかしてみなさん寝てない感じですか?」
「はい……ハヤトさんと別れた後にみんなで昇級してたんですが……」
ボクがゆっくり休んでくださいと言ったとしても、みんなが昇級するために動く事はわかっていた。だからボクは昨日別れる前に明日はハードになると言った。こう言っておけば次の日に支障が出るほど頑張らないと思ったから。
「すみません。星天の天馬の麒麟はまだ誰も戦った事のない死獣だったので、ハヤトさんの足を引っ張ってはいけないと思って頑張っていたら気付いたら朝でした………」
死獣・星天の天馬の最上位クラスの麒麟の姿は簡単に確認出来るが、リュウイチさんですら戦った事のない相手。そんな未知の死獣と戦うとボクがメッセージを送ったばっかりにみんなにプレッシャーをかけてしまったみたい。
「ボクのために頑張ってくれたんですから、もう謝らないで下さい。大変な相手かもしれませんが頑張りましょう」
言葉では良い事を言ってもみんなの状態を見れば、未知のモンスター相手にまともな立ち回りなんて出来るわけがなかった。
何度も何度も戦いを挑むが、あと少しのところでやられてしまう。冷静になって分析するとボクが援護射撃をした瞬間に弓タンカーをやってるスズメさんの動きが悪くなってしまう事に気付いてしまった。
だからといって援護射撃なしで麒麟は倒せる相手ではない。一体どうしたら………
「苦戦してるみたいだな。私が助けてあげようか?」
後ろの方から聞こえてきた突然の声。その声にみんな驚いて、あっという間に麒麟にやられてしまい戦闘終了。
「今のままじゃ何度やっても結果は同じ事だよ。私が弓の使い方を教えてやるよ」
そこにいたのは遠距離クランのトップのリーダー、亀白ナルミ。
「ナルミさんがどうしてここに?」
「誰も戦った事のない麒麟と戦うヤツがいたら一瞬で情報が入ってくるに決まってるだろ。それにいきなりこんな大胆な行動するって事はリュウイチ絡みなんだろ?」
「……えぇ、はい」
「だったら私も絡ませてもらうよ。麒麟を倒す事が出来たら、スズメの持っているアイテムの情報を教えろ。それでいいだろ?」
「えっ、イヤ、でも……」
ナルミさんがお金に汚い事を考えたら、それ以上の事を要求されてもおかしくない今のこの状況。この後の段取りを考えたら迷ってるヒマないんだけど、どうしよう……
「もしかして麒麟を倒した後に追加で何かあるかもとか考えてるのか?リュウイチ絡みの案件でそんな事はさすがにしねぇよ。むしろ今のこの状況は私にとってはリュウイチに貸しを作れるかもしれない状況なんだよ」
「えっ、それってどういう事ですか?」
「こう言ってわからないって事はアンタはまだリュウイチの本当の恐ろしさをわかってないって事だよ。とりあえず今は私がスズメと同じように弓タンカーをやるから、スズメはしっかりと私の立ち回りを見ておきな」
「わかりました」
というかナルミさんはスズメさんの事知ってるみたいだな。いつもなら「わかった」っていう口の利き方しかしないスズメさんも弓使いのトップでもあるナルミさんにはさすがに何も言えないようだね。
「ウサギとツバメもよろしくな」
「はい。よろしくお願いします」
「は、はい。よ、よろしくお願いします」
最強の弓使いのナルミさんの動きは凄まじく1人でも麒麟を倒せてしまうかのようでもあるが、ちゃんとスズメさんの役割でもある弓タンカーの動きもしっかりとこなしながら麒麟と戦い続けること数十分。
「スズメ、リーダーのハヤトは鈍臭いように見えるが麒麟の動きを的確に分析してるんだ。お前に足りないのは人を信じるという事なんだよ」
そう言いながらナルミさんはトドメの一撃の矢を放つと麒麟の動きは止まり戦闘終了。
「お前達の力は見せてもらった。お前達にはこのカードをやろう」
[ウラニアの鏡を手に入れました]
「このカードをどこかの場所にある鏡にかざすと星影の黒猫は姿を見せるだろう。それではさらばだ」
そう言い残し麒麟は何処かに消え去ってしまった。
「どこかの鏡ってどこなんだろう」
「鏡って言ったら鏡の国にある鏡なんじゃないの?」
「そういえば鏡の国に鏡ってあったっけ?」
「そう言われればあそこに鏡ってあったっけ?」
新しく入手したアイテムをどこの鏡で使うのか気になってるみたいだが、ボクには大体検討がついている。
「みなさん一旦このアイテムの事は置いておきましよう。ナルミさん、今日は本当に助かりました」
「今回の事は私に利益があるからやった事だ。リュウイチにさらに貸しを作るためにスズメをこれから鍛えたいが借りてもいいかい?君はこれから先の段取りに集中したいだろうから借りても問題ないだろ?」
「え?あ、はい。大丈夫です」
なんか気持ちが悪いくらいナルミさんがボクの事を気遣ってくれる。一体これはなんなんだろう。
「じゃあお前ら、今度は3人で麒麟を倒してみろ」
「ちょっ、それは…」
「口答えする元気があるんだから、このくらい出来るだろ?早く倒さないと寝る時間がなくなるぞ」
「はっ、はい」
「お前も何ボサッとしてるんだ。早く次の段取りに取り掛からないとリュウイチに勝つ事なんて出来ないぞ」
「はっ、はい」
ボクは移動アイテムを使いマイハウスへと戻った。




