85話
世界樹の根元にある入り口から中に入ると、中は太陽の塔のようなダンジョン構成。階層ごとに準備を整える待機場所があり、ダンジョンを進み世界樹を登っていくという感じ。
太陽の塔と違うのはモンスターを倒さなくても先に進めるという点。現時点のボク達の装備では倒せないモンスターが多いから、悪魔サタンを真っ先に探しに行く。
悪魔サタンは鬼の姿をした混沌蟲ではなくて、羊の姿をしたモンスター。北の大地にいた黄金の羊が邪悪化して時間の国にやってきたという設定。
「それでは行きましょう」
注意しながら世界樹のダンジョンを進むと悪魔サタンのいるエリアまでアクティブモンスターに出会う事なく無事に到着。
「な、なんか簡単にここまで来れましたが、普通はこんな簡単にここまで来れるものなのでしょうか?」
「えーと、それは………」
ボクは情報屋から世界樹のダンジョンの情報を仕入れていたため、注意しないといけないモンスターは避けるようにしてダンジョンを進んできた。
「それだけハヤトさんの段取りがいいって事よ。変な事気にしてないで戦闘準備するよ」
「わ、わかりました」
「わかったわ」
悪魔サタンとの戦闘開始。黒く光る闇属性の稲妻を纏う悪魔サタンだが、物質入魂のスキルを使って作った聖属性のセフィロトの樹の杖の前では強さ半減。3人の強さと連携力もあり、あっという間に戦闘終了。
「段取りが良いとこんなにもあっさりと進んで行くものなのね。リュウイチ様の段取りの良さを見てるみたい」
「そうだね」
リュウイチ様の段取りの良さという言葉を聞いてボクは思わず表情を歪ませる。
「み、みなさんは黒崎リュウイチさんの事をご存知なんですか?」
「ハヤトさん、何言ってるんですか?このゲームをやってる人でトップオブトップのリュウイチ様を知らない人なんかいませんよー」
「そ、そうですよね」
ボクがみんなに本当に聞きたかったのはリュウイチさんと絡んだ事があるのかどうかという事。一般の人はリュウイチさんが段取りの良さがものすごい人だという事は知らない。でもこれ以上追求するとボクがリュウイチさんと絡んだ事があるという事がバレてしまう。
「悪魔サタンを倒した事だし、次に行くわよ」
次に倒すモンスターはリュシオルというホタルのモンスター。このモンスターから取れる素材を使えば、悪魔ベルゼブブを簡単に倒す事が出来る。その他にもこのモンスターから取れる素材で強力な武器を作る事も出来る。
その強力な武器に必要なのが蛍雪光灯という素材。この素材を使えば、淡い雪のようにすぐに消えてしまうような光の炎を纏わせる事が出来る。この素材を使えば、炎と氷の2属性の武器を持つマリナさんの武器をさらに強化する事が出来る……ってボクはいつまでマリナさんの事を引きずってるんだろ。もうボクには関係ない事だ。今は目の前の事に集中しよう。
「ハヤトさん、どうかしましたか?」
「あっ、いえ、なんでもないです。次に行きましょう」
リュシオルがいるエリアは悪魔サタンのいたエリアより少し前のエリア。
「あれがリュシオルというホタルのモンスターです」
「さっきみたいにパパッと終わらせるわよ」
「スズメさん、ここはちゃんと守り主体で戦わないとダメです。油断は禁物です」
「あー、わかってるよ」
「スズメ、ちゃんとハヤトさんの言う事を聞かないとダメですよ」
「あー、わかった、わかった」
羊の姿をした悪魔サタンとは違いリュシオルは混沌蟲と言われる鬼の姿をしたモンスター。
人間サイズの大きさだが昆虫の特性をそのまま持っているので外骨格がとにかく硬い。今まで攻め主体で戦ってきた3人はやはり苦戦を強いられる。
「そろそろ援護射撃に入りますね」
ボクが銃を構え始めるとスズメさんがボクの射線に入るように邪魔をしてきた。
「いや、ちょっと待ってくれ」
「スズメ、ちゃんとハヤトさんの言う事を…」
「いや、そうじゃない。もうちょっとで何か掴めそうなんだ」
「そういう事であればボクはまだ手出ししません」
「みんなちょっとだけアタシに付き合ってくれ」
「もー、スズメはいつもそうだよね。ハヤトさん、すみません」
「ボクは大丈夫ですよ」
スズメさんは属性弓を使いながら回避タンカーの役割を果たしている。が、今のスズメさんの動き方は弓使いとしても回避タンカーとしても中途半端な動きをしてしまっている。
…………
「スズメ、私達もそろそろ限界だよ」
「わかってる、わかってるよ。でも……」
長時間の戦闘で集中力も限界を迎え始め、みんなの動きが悪くなり始めていた。
「スズメさん、ボクの援護が必要ですか?どうしますか?」
「もうちょっと、あともうちょっとなんだ!」
「でもみんなももう限界です。ですのでアドバイスだけします。もう一歩踏み込んでゼロ距離で戦って下さい」
「でもそれじゃあ……あっ、いや、そういう事か。わかった。そういう事だったのか」
スズメさんはボクのアドバイスの意味をすぐに理解したんだろう。
弓使いは大きく分けて、3つの使い手がいる。火力重視型と属性重視型と状態異常重視型。
火力重視型は威力補正の関係で近~中距離で戦い、属性弓は中距離で属性強化をして戦い、状態異常重視型は中~長距離で戦う。
スズメさんは属性弓で回避タンカーとして役割をするために近距離で立ち回りをしていた。
属性弓での回避タンカーというのは誰もやった事のない役職。だからモンスターとの適正な距離感というのは誰も知らない。
「いけー!パワーショット・千本桜」
スズメさんが行ったのは1000本で1セットの矢を全て放つ弓の超強力攻撃。属性弓で属性強化もしているため、その威力は一撃必殺の最強の攻撃。
その最強の攻撃はリュシオルの硬い外骨格を貫き、一撃で絶命。
「お見事です。属性弓の人は普通は千本桜のパワーショットは使いませんからね」
「……あぁ、そうだな」
「やったね、スズメ」
「お、おめでとうスズメ」
「ようやく一皮剥けた気がするよ。この立ち回りは自分だけにしか出来ないオンリーワンの立ち回り。ハヤトさんのおかげだ。本当にありがとう」
「いえいえ、っていうかボクはこれから採取作業があるので、みなさん少しゆっくりして下さい」
「じゃあお言葉に甘えて、ゆっくりさせてもらいますね。さすがに疲れました」
みんながゆっくりと休憩し始めたのでボクはリュシオルから素材採取を開始。
混沌蟲は鬼の姿に昆虫のパーツが付いているという感じなので採取する場所がわかりやすい。採取用のナイフを硬い外骨格の隙間に入れるとスイスイと進む解体作業。
「お待たせしました。これからボクはこの素材使って生産作業してきますので、少し早いですが今日はこの辺にしておきましょう」
「じゃあ私達はどうする?」
「んー、どうしよっか?」
「あのー、みなさんって羊の死獣・陽炎の夢羊から力を認められて昇級ってしてますか?」
「あっ!私達それまだやってなかったね」
「そうだね」
「じゃあ私達は陽炎の夢羊のところに行ってきますね。今日はお疲れ様でした」
「お疲れ様でした。明日もよろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします。よし、それじゃあ行こっか」
「うん」
3人と別れたボクはマイハウスへ移動。本日最後の作業に取り掛かる。
まずは段取り確認から。ボクがこれから作るのはバルスソードという武器。この武器があれば悪魔ベルゼブブを簡単に倒せる。
この武器を作るために必要なのが、リュシオルの素材を混沌蟲加工したフローライトという素材とタングステンという素材。
以前フェンリルのいるエリアで採取した狼鉱石はすでに鋳造済み。ちなみにタングステンの融点は3422度。
タングステンをアイテム変化でタングリスニに変化させる。これもすでに変化済み。ちなみにタングリスニは北欧神話のトールが乗るヤギの名前。
このタングリスニの素材とフローライトとアイテム合成すればバルスソードの出来上がり。
「よし、段取り確認はオッケーだ。」
「一点集中スキル・オン」
「混沌蟲加工・成形作業・開始」
リュシオルの尻尾部分から採取した素材を作業台の上へ乗せ、魔力を通すと柔らかくなっていき、石の形へと姿を変えていく。
「混沌蟲加工・成形作業・終了」
フローライト、99%の最高品質。
「アイテム合成・成形作業・開始」
フローライトとタングリスニを作業台の上へ置き、2つの材料をコネコネしてよく混ぜ合わせて、剣の型に流し込む。
「アイテム合成・成形作業・終了」
「一点集中スキル・オフ」
バルスソード、100%の神品質。
「よし、あとはこのバルスソードに錬金付与して、次に鏡の国の情報を精査して、今日は終わりかな」
…………
「錬金効果を厳選してたらちょっと遅くなったな。でもこの厳選は後々の事を考えれば必要になるはずだ。よし、明日の段取りもバッチリだし、そろそろ寝るとするか」
ボクは超フカフカのベッドに横になり、眠りについた。




