17話 アダマンタイト
「ゲーム終了・スペードのクイーン」
一瞬の暗転。現実世界に戻ったボクはすぐさまトイレに駆け込む。
「今日も予定通りお腹が壊れたな」
ぐっすりと寝ていたが便意で起きる。今日はいつもより早く起き、まだ誰も起きていないような時間。
「ゲーム起動・スペードのクイーン」
一瞬の暗転。見えてきた景色はマイハウスの景色。
朝イチでやるのはクロロブタジエンのハンマーとポンチ作り。始めにクロロ豚エリアにいってクロロブタジエンの木から樹液を採取。その樹液を成形加工してクロロブタジエンのハンマーとポンチを製作。
「昨日移動アイテム買っておいて良かったよ。早速移動だ」
移動アイテムの白ワシの羽毛を使い、クロロ豚エリアに移動。
「しかし相変わらずここは臭いな。でも今日はクロロブタジエンの木から樹液の採取だ。臭いは気にしないでいこう」
クロロ豚のいるエリアに入ってすぐの場所にクロロブタジエンの木がある。
「一点集中スキル・オン」
「剥ぎ取り採取作業・開始」
クロロブタジエンの木に輝く点が見えてきた。
「ここを傷つけると樹液が取れるんだな」
採取用のナイフを輝く点に突き刺すと樹液が流れ落ちてきたので、採取用バケツで樹液を採取。
「よし、このくらいあれば十分だな」
「剥ぎ取り採取作業・終了」
「一点集中スキル・オフ」
クロロブタジエンの樹液、95%の最高品質。
「最高品質でクロロブタジエンの樹液を採取出来た。次はマイハウスに戻ってゴムのハンマーとポンチの製作だ……何か声が聞こえるな」
声のする方に目をやると1人の男性がいる事に気付いた。
「金のためだ、金のためだ、金のためだ」
さらによく見るとその人は魔法使いの格好をして、素手でクロロ豚のウンコに手を突っ込んでいる。
ボクと同じような事を言ってる。こういう状況だと人ってやっぱり同じ感じになるんだな。っていうかこんな朝早い時間に人がいるなんて思っても見なかったな。
でもよくよく考えるとこんな姿を人に見られたくないから、こんな時間に採取してるんだな。
あの人のプライドもあるだろう。気付かれる前に帰るとするか。
ボクは白ワシの羽毛を使い、東の王国へ移動。それからマイハウスへ移動。
マイハウスに戻ってきたボクはある事に気付いた。
あの人は青の石版の知識を手に入れた誰かに依頼されてクロロ豚銅を採取していた。きっと大手クランのどこかが依頼したのだろう。大手クランであればソロのボクと違って分担して採取作業も出来る。
ボクは今、誰よりも先にストーリーを進めているとは思っている。だけどグズグズしていたら、すぐに追い越される位置にまで来ている。
急いで作業開始だ。
「一点集中スキル・オン」
「成形作業・開始」
クロロブタジエンの樹液は魔力を通すと硬化してゴムになる。
鍛冶場にあるハンマーの型とポンチの型を作業台に持ってきて、ハンマーの型とポンチの型に樹液を流し込み、魔力を通す。クロロブタジエンのポンチはこれで完成。最後に出来上がったクロロブタジエンのハンマーの頭に無名の木を差し込んで、クロロブタジエンのハンマーも完成。
「成形作業・終了」
「一点集中スキル・オフ」
クロロブタジエンのゴムハンマーとポンチ、95%の最高品質。
「これでアダマンタイトを採取する準備は出来た」
次は火山に行ってアダマンタイトの採取だ。
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東の王国から鉱山エリアへ。鉱山エリアの北側に銀鉱山と金鉱山があり、アダマンタイトが採取できる火山は南側にある。
この火山でやる事はたくさんある。アダマンタイトの採取。永久凍土ゴーレムの青レンガの採取。アテナの骨の製作に必要な酸化カルシウムの採取。
アテナの骨の製作に必要な酸化カルシウムは溶岩真珠というモノを加工して作る。その溶岩真珠はマグマに住むマグマ貝から採取出来る。
マグマの温度は地表近くで800~1200度。そのため溶岩真珠は炭酸カルシウムじゃなくて酸化カルシウムで出来ている。
その溶岩真珠の採取には耐熱手袋が必要で、その素材は火山の入り口で採取出来る。
耐熱手袋の素材は百火カマドの枝。この百火カマドの枝は炭にすると、炭化ケイ素になり、この枝を繊維状に加工して出来上がる耐熱性のある手袋が百火カマドの手袋。
炭化ケイ素を作るのには2000度まで上げる必要があるから、1768度が融点のプラチナの温度計だと作れなかった。おそらく百火カマドの炭化も同じくらいの温度が必要だろう。
「よし、まずは百火カマドの枝を集めるか」
火山エリアの入り口付近にある百火カマドの木。
「一点集中スキル・オン」
「剥ぎ取り採取作業・開始」
百火カマドの木の枝の部分に輝く点が見える。採取用のナイフを取り出し、枝を切り落とす。
「剥ぎ取り採取作業・終了」
「一点集中スキル・オフ」
百火カマドの枝、90%の最高品質。
「この枝は矢の材料にもなるし、武器の材料にもなる。だけどこれから鉱石の採取もあると考えると採取出来るのは3つまでだな」
3つの百火カマドの枝をアイテム袋に入れて、火山の中へ。
火山の中に人がいる気配はない。人がいないのは火山の中にはアクティブでクセの強いモンスターが多数いるから。
その中でも永久凍土ゴーレムのクセの強さは群を抜いている。永久凍土ゴーレムにはコアがあり、コアを破壊すれば倒せるのだが、物理攻撃が効きにくいので、魔法攻撃で倒す。
たが火山に住む永久凍土ゴーレムには火魔法も氷魔法も効きにくい。効果があるのは火と氷の2つの属性を持つ魔法。
その2つの属性を持つ武器。それは海エリアで採取出来る冷凍メタン灰土を使った武器、燃える氷の杖。この武器は使えば壊れる武器で消耗品のような武器。
永久凍土ゴーレムはボスモンスターで強敵。最高品質の燃える氷の杖じゃないと倒すのが難しいモンスター。
雑魚モンスターの凍土ゴーレムというのもいるのだが、雑魚の方は旨みも少ないモンスター。
だからオープンベータ版の時には火山の中にはほとんど人がいなかった。ましてや今は正式リリースされて、まだ間もない。
誰もいるわけわけない。そんな先入観を持って火山の最奥のアダマンタイトが採取出来るポイントの近くに到着。
「よし、採取開始だ」
クロロブタジエンのゴムハンマーとポンチを手に取って採取を始める。
カンッ、カンッ、カンッ
「よし、採取は問題なく出来るな」
普通のハンマーとポンチではこの時点でクズ品質になる。
「ここで切削加工作業もして多くのアダマンタイトを持ち帰るとするか」
順番待ちをしている人がいるなら、その場で切削加工もして多くの鉱石を持ち帰るのはマナー違反。だけどここには誰もいない。
「一点集中スキル・オン」
「切削加工作業・開始」
カンッ、カンッ、カンッ
「よし、30個のアダマンタイトをゲットだぜ」
「切削加工作業・終了」
「一点集中スキル・オフ」
ガシッ
スキルをオフにした瞬間、掴まれるボクの手。
えっ、何?怖いんだけど。
「ここで待ってたら現れると思っていたわ」
誰だろうと思って見ると、超綺麗な人。この人は亀梨マリナさんだ。
亀梨マリナさんはトップクラスのクラン、アマゾネスポワールのリーダー。そしてバーチャルリアルアイドル、バリドルで1番人気のトップアイドルでもある。
「ゴールドプラチナが採取出来たんだから、次はアダマンタイトだと思ってあなたが来るのを待ってたのよ」
えっ、ボクを待ってた?ってそんな事あるわけないよね。ゴールドプラチナを採取したのはボクじゃなくてアイナさんだ。
「売れていないバリドルがゴールドプラチナを採取して一気に有名になるなんて、そんな都合のいい話が現実に起こるわけない」
ここは仮想世界ですよって言ったら怒るだろうな……
「だから裏に誰かいると思ってここで待ってたのよ」
「それでボクに何か用でしょうか?」
いつもならテンパるボクがテンパらないのは、マリナさんがあまりにも綺麗な人でボクには現実感がないから。ここは仮想世界だよってツッコミは入れておこう。
「私のクラン専属で生産職をしてもらえないかしら?」
アマゾネスポワールは女性しかいないクラン。大手クランであれば専属の生産職が多数いるのが普通。女性が少ない生産職だからアマゾネスポワールでは困る事も多いのだろう。
「専属でですか……」
女性しかいないクランの専属になれば、ボクにも彼女は出来るかもしれない。だけどボクはもっと先を見据えて行動する。
「その話ですけど、専属でのお話はお受けする事は出来ません」
「どうして!?あなたがいなければ困るのよ!!!」
頼られるのは嬉しいが、切羽詰まった感じだと逆に怖い。
「私のクランではクロロ豚銅を採取するのは無理なのよ……」
マリナさんが泣きそうになっている。女性しかいないクランでクロロ豚のウンコに手を突っ込む人はいないだろうね。っていうかマリナさんもこの情報を知っているのか。
「ボクにもやりたい事があるので専属は無理です。ですが、ボクの願いを叶えてくれるなら、優先的に生産依頼を請け負う事は可能です」
「クランメンバーと付き合いたいとかそういう願いであればお断りよ」
それはたしかにちょっとだけ思っていたが、ここまで言われたのなら彼女の件は諦めよう。
「ち、違います。ボクの願いはトップオブトップ、ブラックドラゴンのクランを紹介してもらいたい事です」
スペードのマークを選ぶ大手クラン、ブラックドラゴン。リーダーは黒崎リュウイチ。
この先の事を考えるとスペードのマークの人の協力が不可欠。アマゾネスポワールにもスペードのマークの人はいるが、ブラックドラゴンの層の厚さには敵わない。
「リュウイチを紹介して欲しいか……わかったわ。でも交渉が上手くいくかはあなた次第よ。それだけは理解して欲しい」
トップオブトップのクランのリーダーと会う。もちろんブラックドラゴンだってアテナの骨の製作には動いているはずだ。
今ボクが1番ストーリーを進めているのだとしたら、先行者利益を最大限生かす時だ。
「わかりました。よろしくお願いします」
「じゃあ日程が決まったら教えるわ。フレンド登録するからスマホ出して」
「えっ、あっ、はい」
2人目のフレンドがトップアイドルの亀梨マリナさん。アイドル2人がフレンド。今までボッチだったボクからしたら到底考えられない事。
スマホを取り出し、マリナさんとフレンド登録。
「それじゃあ失礼するよ」
すぐにいなくなるマリナさん。そんなに早く帰らなくてもいいのに。
「ってボクも急いで作業を進めないと」
ボクは火山を出ると、急いでマイハウスへ戻った。




