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99.アグラヴェインの提案

クッキーを食べ終えたアーサーはケイを引き連れてアヴァロンへと向かう。最近はしょっちゅう出入りしているせいか、もはや顔パスである。

 しかも、なぜかみんな微笑ましい顔でみつめているのだが彼は理由がわからなかった。

 冷静に考えれば婚約者の元へ定期的に通うアーサーと彼が来るたびに上機嫌になっているモルガンを見てラブラブだなと思っているだけなのだが、彼にはわからないのである。実に鈍感である。



「あ、お待ちください。モルガン様は今来客中でして……」

「ん? ああ、そうか。じゃあ、ここで待たせてもらってもいいか?」

「よろしいのですか? お部屋にいらっしゃればお呼びに行きますが?」

「お前たちは忙しいと聞いてるぞ、時間がもったいないだろう?」

「アーサー様……」



 部下の事情を鑑みるという王族らしくない態度にモルガンの部下が感極まった声を出しているが、彼は単にモルガンに嫌味を言われたくないだけである。

 


『あらあら、たいして仕事もしていない皇子様が私の部下の貴重な時間を奪うなんてよっぽど素敵なお話をしてくれるんでしょうね?』

 


 と前世で言われたのを思いだしたのである。それにまあ、昔とは違い彼らが頑張っていることを知っているアーサーはモルガンの部下たちの負担を減らしたいという気持ちだってあるのだ。

 そうして彼らが働いているのを見ながらケイと雑談しようとした時だった。扉が開き来客が顔を出す。



「アーサー皇子……いったいなぜここに?」

「おお、アーサー様、久しいな。ちょうど呼べないか聞いていたんだ。これは今回の件は聖王の後継者などと呼ばれている貴公に手を貸せと、かの聖王が訴えているのかもしれないな」


 タイミングが悪いとでもいいたげに眉をひそめているモルガンと不気味ににやりと笑ったアグラヴェインが顔を出したのを見て嫌な予感に襲われるのだった。






 アーサーはアグラヴェインとはあまり仲良くない。いや、かつてはわがままで他人に無関心な彼が誰かと仲良かったということはないのだが、特に彼は苦手である。

 その理由は簡単だ。



「モードレットばかり贔屓するお前が俺に用とは珍しいな」

「手厳しいことを言う。可愛い甥を王にしたいと思うのは人として当たり前のことだと思うのだが……」



 そう、この男はモードレットの叔父であり、彼の派閥のリーダーなのである。革命時には姿をみなかったがおそらく暗躍していたのだろうということもあり苦手意識が強い。



「そうね。ならば厄介ごとは自分たちで片づけたらどうかしら? そうすればモードレット様が王になる確率が万が一が九千に一くらいには上がるかもしれないわよ」



 クッソ気まずい空気の中モルガンが煽ったので内心もっとやれと応援水るアーサー。自分からは言わない点が実に小物である。



「はっはっは、これは痛いことを言ってくれる。わたしとてそうしたいのだがな。前線の兵士たちが求めているのは治癒能力者なのだよ。卑劣なる砂漠の民と戦うには我が可愛い甥であるモードレットでは不足らしい」

「砂漠の民だと……? 黄金小麦と関係があるのか」 



 アグラヴェインの言葉に眉を顰めるアーサー。ちょうど彼もまた砂漠の民に関して聞こうとしていたからだ。



「ほう……すでに情報を得ていたというのか」

「それだけじゃないわ。彼はすでに砂漠の民に関しても研究をしているのよ。まるで近いうちに問題が起きることを予見していたかのようにね」



 珍しく驚きの声をあげるアグラヴェインにモルガンが追撃すると、一瞬彼は唇をゆがめる。

 アーサーてきにはなんのこっちゃという感じだがとりあえず意味深な笑みを浮かべておく。



「ならば話は早い。アーサー様。ハーヴェの奴が激怒していてな。このままではブリテンの面子がつぶれ、周辺諸国になめられるからと報復を考え兵士を集めているのだ。あの男は普段は冷静なくせに食料を失うと正気を失うからな。このままでは戦争になるぞ」

「なるほど……全面戦争になると少しまずいわね……確かに勝てるでしょうけど、砂漠で戦えばこちらの損傷も馬鹿にならない上に得るものはないわ。そこを周辺諸国に攻められたら……万が一があるわね」



 アグラヴェインの言葉にモルガンも頷く。そして、アーサーはというと……よくわからないので難しい顔をして頷いていた。


「ああ……そうだな?」

「そこで私は信頼できる騎士たちを集め使者を送り和平を結べないか交渉しようと思うんだ。だが、その騎士たちのリーダーが出した条件がアーサー様と共に行動することなのだよ」

「誰よ、その騎士……」



 モルガンが不快そうに眉を顰めるのももっともである。一回の騎士風情が王族であるアーサーを指名するなんていうことは不敬にもほどがあるのだ。

 身分に関して比較的緩い彼女すらそう思うのだ。他の貴族が聞いていればそれだけで処刑ものである。

 だが、続く言葉は諸劇的だった。



「剣鬼ランスロット……そういえば通じるだろう?」

「「なっ」」



 アーサーとモルガンが同時に驚愕の声をあげる。その騎士はブリテン最強の騎士である。

 今はとある理由で幽閉されているが、たった一人で百人もの山賊たちのアジトを壊滅させたのはブリテンでも有名だ。

 そして、アーサーからしたら、前の人生で彼の護衛をほとんど一蹴し、捕らえた人物である。

 正直関わりたくないというのが本音だ。



「悪いけど、認めるわけにはいかないわ。王位継承のために邪魔になっているアーサー皇子を無効化するためのあなたの策かもしれないし、騎士の願いで王族が同行するはずがないでしょう?」

「もちろん、お前らの騎士の動向も認める。そして、聖剣に関する情報をくれてやろう。それならどうだ?」

「本気で言っているの?」



 モルガンが大きく目を見開くがアーサーにはその聖剣がよくわからなかった。あとでマリアンヌあたりに聞いてもみようと決める。

 だが、正直怖いのは嫌いである。断ろうとしたアーサーだったが胸元で『善行ノート』が輝く。



「ちょっと失礼」



 空気を読まずにノートを見たアーサーの血の気が引くいていく。なぜならば……



『ランスロットと共に砂漠の民を説得せよ』



 そうかいてあったのだから……


今月の29日にこの作品の二巻が発売されますので、よろしくお願いします。


表紙はアーサーとガウェイン、マリアンヌとなります。

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