84.決戦
ここは王城から少し離れたハーヴェの管理する農地である。馬車で三時間ほど飛ばしたところにあり、あたり一面を黄金色の稲穂が植えられているのだが、まるで、何者かが真ん中に一直線に進んだかのようにして無残にも食い荒らされていた。
「アーサー様……これは私たちの問題です。わざわざいらっしゃらなくてもよかったんですよ」
「何を言っている? 五大害獣が相手ならば俺の力は役に立つはずだ。それに黄金小麦は貴重なものなのだろう?」
「そんな……敵対していた私のためにお力を……」
ハーヴェの家紋のほられた馬車からおりてきたのはアーサーとその後ろにつきそうようにしているケイである。彼はパーティーで五大害獣が現れたと聞いてハーヴェについていったのである。
それは彼が大事にしている小麦が心配だった……などではもちろんない。
「勘違いするなよ。むろん、ただではないぞ」
「はい……わかっております……いったい何を所望されているのでしょうか?」
アーサーの言葉にハーヴェの顔に緊張が走る。アーサーとの賭けはすでに五大害獣の一匹が現れたことによって、ハーヴェの負けは確定している。
アーサーがわざわざ力を貸しにやってきてくれたのは今後の交渉をうまくすすめるための策略だとハーヴェは思っていたのだ。だから次の言葉を聞いて驚愕することになる。
「そうだな……黄金小麦で作ったパンやケーキを定期的に俺の元にもってこい。それでいい」
「は……え……正気ですか?」
「当たり前だ。俺だって冗談を言っている場合ではないくらいだとわかるぞ」
そう、黄金小麦で作られたパンやケーキはとっても美味しいのである。それこそ、定期的に食べたいくらいに!! だが、王族の権力を使って貴重な黄金小麦を要求すればモルガンはネチネチと嫌味をいってくっるだろう。正直こわいしめんどくさい。
それならば相手の方から渡してくるということにしてしまえばいいのである。王族とはいえ貴族から贈り物を断るのは失礼にあたるからである。
相手が渡してくるからしかたなく受け取りますよというていにしてモルガンの叱責を避ける巧妙な作戦なのである。
どうせ、この魔物は何とかしておきたかったし一石二鳥だな。
胸元に仕込んである善行ノートに触れながらにやりと笑う。そもそも今回の課題は食料問題の解決である。ここでこの魔物を倒しておけば食糧問題も解決するし、貴族に借りを作り感謝されれば善行ポイントもたまるという完璧な作戦なのである。
しかも、ケイといっしょに美味しいカフェタイムもついてきる。まさにうっきうきである。
「騎士どもが怪我しているな。さっさと治療してやるか……約束を忘れるなよ」
「アーサー様……」
約束をごねられたら面倒だなと、何か言いたそうにしているハーヴェを無視しそのまま負傷している騎士たちの元へ向かう。
「今のはアーサー様の本心だと思います。心優しい方なんですよ」
「そのようですね……私はあの方を見誤っていたようです」
動揺しているハーヴェにケイが声をかけると、目をうるわせながらうなづいた。専属とはいえメイドにすぎないケイにも敬語で返すのには彼なりのアーサーへの敬意の表れである。
それも無理はないだろう。敵対する派閥の……しかもトップが助力をしてくれるのだ。最悪、黄金小麦の権利を主張されるか、ロッドを裏切れと言われる可能性もハーヴェは考慮していた。
それでも、五大害獣との戦いでアーサーの治癒能力は魅力的だったのである。
「これは……意地でも黄金小麦を守らねばなりませんね」
それなのに彼が要求したのは定期的な食べ物だった。黄金小麦を要求し、自分で市場に回せば富を得られるというのにだ。
なぜしなかったか、ハーヴェにはわかる。彼は真に国の食料事情を心配していたのである。本当は礼などいらなかったのだろう。だがそれではハーヴェの面子がつぶれる。そのため、負担にもならない上に自分は黄金小麦のことも軽んじてはいないということを示すために定期的にパンやケーキを持ってくることを要求したのだろう。
私は小麦のことしか考えていなかった……ですが、アーサーは国全体の食糧問題を考えているのですね。ふふ、大貴族だからこそ傲慢にならないように戒めていましたがまだまだですね。自分の矮小さに気づかされました。
騎士たちを治療しているアーサーをみつめ先ほどまでの自分の言動をくいながら、せっかくだから今度ライスを試してみようと決めるハーヴェ。
完全な見当違いだったが、アーサーの評価が上がっていくのだった。
「なにあれきもい……」
かっこつけていったもののアーサーはさっそく後悔していた。今回の魔物はバッタ型である。モルガンの指示による水際での警備が成功し、前の人生よりは数が大幅に減ったものの大量のバッタ型の魔物が小麦に群がりながら、小麦に群がるようにして食い散らかしながら黄金小麦に向かっていく姿というのは正直いってみていて気持ちのいいものではない。
何人もの兵士がバッタ相手に剣を振って倒しているがいかんせん数が多い上に、相手は小さいため効果はないようだ。しかも極めつけは……
「くらえ!!」
ひときわ大きな額に魔石のようなものがある巨大なバッタに一人の騎士が斬りかかったのだが、ぱきーんという音と共に剣がへし折れてしまった。
そして、でかバッタ……『死の軍団』「------!!」と奇妙ななきごえを発すると、先ほど斬りかかった騎士にむかって何匹かのバッタが襲い掛かって肉をついばむのだ。
うそだろ……あんなんずるじゃん……
かといって魔法でこうげきするとと額の魔石が妖しく光り、魔力を吸収するのだ。しかも、その後に「死の軍団」の体がひとまわり大きくなった気がする。
「アーサー様……ありがとうございます」
「かの五大害獣を二匹も倒したアーサー様ならば、『死の軍団』も敵じゃないですよね!!」
すっかりなえているアーサーに気づかない騎士たちが、救世主がやってきたとばかりにどよめいている。そんな中アーサーは……
こんなんどうするんだよ……
と呻いていた。そもそもアーサーは王族であり戦闘は専門ではないのだ。黄金小麦を食べたさに来たもののあんな硬い虫の倒し方なんて、わからない。一応モルガンから護身用にと、彼女の氷魔法が込められた魔石をもらったが効果があるかも疑わしい。
絶望している彼に二つの影がやってきた。
「お前は……」
「困っているようね、いつぞやの借りをかえさせてもらうわ。アーサー様」
「あなたが心配でやってきたの。ほめて!!とエレインは言っています」
「ちょっと、ヘレネー!?」
そう、エレインとおつきのヘレネーがやってきたのである。




