70.ライス
「はじめましてアーサー様、私はこのたびパーティーの料理人を任されたスローダと申します。わが地方の料理を召し上がっては頂けないでしょうか?」
「スローダ様!?」
何やらエリンが止めようとしているが褐色の料理人……スローダは気にせずアーサーに料理を差し出した。どこかの異国から渡ってきた移民なのだろう。独特の雰囲気を持っており、彼が手にしている料理もブリテンでは見たこともないものである。
パン食になれている一般的な貴族からしたら彼が差し出してきた料理はゲテモノ料理に見えるだろう。
「おお、面白そうな料理だな!! これはどうやって食べるんだ?」
「アーサー様、とっても美味しそうですね」
物珍しい料理を見てアーサーは歓喜の声をあげた。そう、アーサーは一般的な貴族ではなかった。エルサレムで鳥刺しを、ドルフで燻製肉など、それぞれの地方の料理を食べてそれがおいしかった彼はむしろ物珍しい料理=美味しいの方程式が完成していたのである。
それにだ……そもそも、彼は前の人生にて、牢獄で地獄のような食生活をおくっているのである。すこし変わった料理だからと言ってきにするような気持ちはとうに失っているのだ。
「ほう……そうですね、こちらはライスというのですが、これ自体にはそこまでの味はないのですが、おかずと一緒に食べると、お互いを引き立てて絶品な味となるのです。パン食とは違う楽しみ方ができますよ」
スローダは一瞬大きく目を見開いた後に、丁寧に料理の説明を始める。その言葉にはどこか嬉しそうで、作った料理に誇りを持っているのがうかがえる。
そして、それを聞いたアーサーはというと……
「おお、楽しそうだな!! ではさっそく頂くとしよう。俺はお肉と一緒に食べてみるぞ。ケイはどうする?」
さっさと食べたくてうずうずとしていた。さきほどからライスとおかずの香りが彼のおなかを刺激しているのである。
アーサーの言葉にケイは一瞬エリンとスローダを見つめ笑顔でアーサーに返事をする。
「はい、ではお言葉に甘えさせていただきます。私はお魚と一緒に食べてみますね」
得体のしれないものを食べるのを普通のメイドだったら止めさせるだろう。だが、ケイもまた平民の出身であり、そういうことへの抵抗がないことと、スローダから悪意を感じなかったことと、エリンを信頼していたからこそ手を付けることにしたのだ。
けっしておなかが空いていたから……というわけではない。そして、二人は仲良く同時に手を付ける。その様子をスローダは興味深そうにエリンはなぜか緊張した様子で見つめていた。
「おお、すごいな。これ!! ライスと濃いめの肉料理がすごいあうじゃないか!! ケイ、お魚の方も食べてみたい」
「うふふ、こちらも美味しいですよ。はーい、あーん。あ、あと、お野菜も食べないとだめですからね!!」
アーサーは初めて食べる料理だったが、予想よりもおいしかったこともあり、仲良くケイとわけあう。
そして、二人が美味しそうに食べるのを見て、他の客たちも料理に手を付け始める。彼らの反応が効果的だったのか、ブリテンの料理よりもライスの方がヘリが多いくらいであった。
「その……我らの料理をこんなに美味しそうに食べてくださってありがとうございます」
「ああ、本当に美味しかったぞ。これってブリテンでも簡単に栽培できるのか?」
美味しい料理を楽しんだアーサーは上機嫌になりながら善行ノートのことを思い出して聞いてみる。このライスという料理は彼がいつも食べているブリテン料理に勝るとも劣らない味だったのだ。これならば食糧危機にも備えることができるのではないかと思ったのである。
ようやく今回のパーティに来た本題を思い出したアーサーだった。そして、そんな彼にエリンが大きく目を見開いた。
「ほう……さすがですね、アーサー様。私たちの考えなんてすでにお見通しということですね」
「は?」
にやりと笑うエリンの言葉にアーサーは間の抜けた声を上げる。彼はつい美味しいものに夢中になってしまい、あわてて本題を思い出しただけなのだが……
そして上機嫌になったのはスローダもだった。興奮した様子でアーサーに問いかける。
「さすがはアーサー様、噂にたがわぬ聡明なお方ですね。もしや、私があなた様を試したのもわかってらしたのですか? 私どもの料理を美味しいと感じてくれたのは演技ではないと願いたいものですが……」
「何を言っているんだ。本当に美味しかったに決まっているだろ。そうじゃなければ全部食べたりなんかしないぞ」
こいつらなにを言っているんだ? とばかりにアーサーは間の抜けた声をあげてからになっている皿を見せる。
その反応にスローダは「おお」と大げさなリアクションをとられ、単にごちそうを食べただけのアーサーはさらに困惑するのだった。
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