31.エレインの決意
宴会も一区切りしたタイミングで、エレインは別室で村長と話していた。今から話す内容は村人たちには聞かせられないからだ。
「意識を取り戻した騎士達が見たのは鳥の頭とドラゴンの身体に、蛇の尾を持つ魔物で間違いはないのですね」
「はい、騎士様達だけではなく、村人もそう証言しております」
村長の言葉にエレインはすーっと酔いが醒めていくのを感じた。想像しうる最悪の予想が当たってしまったからだ。
「エレイン様、魔物の正体は……」
「ええ……おそらく、五大害獣の一匹『毒沼の支配者コカトリス』の可能性が高いですね」
「五大害獣……しかも、『コカトリス』ですと!!」
村長が驚きの声を上げるのも無理はない。五大害獣……それはたった一匹で街一つ滅ぼすだけの力を持つ魔物に与えられる称号だ。
こんな村の戦力では戦いにもならないだろう。
「確か……この村には、昔、コカトリスが現れたことがありますね。」
「はい、その記録はあります。ですが、確かに倒したはずです。当時の騎士様が死体を持ってきて討伐を証明してくださいましたから。だから、コカトリスが再び現れるなんてありえないんです」
村長は嘘であってくれとばかりに首を横に振る。彼もまた祖父から当時の恐ろしさを教わっているのだ。若い人間の中では、その話を茶化して、食べたら美味しかったなどというやつもいるが、冗談ではない。コカトリスのせいで村が滅びかけたのである。
「そうですね……私もその記録は見ました。確かに討伐はされたのでしょう。ですが、魔物の成長速度は様々です。卵が残っていたのかもしれません」
村長の希望的観測を打ち消すようにエレインは首を横に振る。そして、心配そうな顔をしている村長を励ますように微笑んだ。
「ご安心を……明日の朝早くにでも、コカトリスかどうか私が確かめに行ってきます。もしも、本当にコカトリスだった場合は、すぐに教会に救援を呼んで退治します」
「おお……ありがとうございます、エレイン様!!」
涙を流して感謝を述べる村長に微笑みながらエレインの心の中は複雑だった。昔コカトリスを倒した時は精鋭の騎士達とプリーストの部隊で挑んだにもかかわらず半分が帰らぬ人となった。大した被害が出ていない状況で教会が動くだろうか……
それに、コカトリスか確認しにいく彼女の命だって、安全なわけではない。万が一コカトリスの毒に侵されればエレインとて無事では済まないのだ。それでも、頑張ろうと思えたのは一つだ。
アーサー皇子が自分の身をていして人を救ったっていうのに、私だけ安全な所でのうのうとしていられるものですか!!
異国の少年に感化されたのだ。他国の民の為に自分の安全を顧みぬ姿は彼女にとって絵本で読んだ『聖王』と重なって見えた。あんな人がいるのに自分だけくさっていてはいけないと、そう思ったのである。
「エレイン様、アーサー様にも救援を頼みますか? お二人なら確実でしょう」
「そうですね……」
村長の言葉にエレインは思考する。アーサーの自分の身を顧みない高潔さから話を聞いたらついてきてくれるだろうとは思う。
だけど、そこまで他国の皇子である彼に頼ってしまっていいのだろうか? これはあくまでエルサレムの問題なのだ。
「いえ、私だけで大丈夫です。あと、今回の件は教会で対処いたしますので、他言無用で願います」
「はっ、わかりました!!」
村長と最後にいくつか確認して、彼女は自分が借りている部屋へと戻る途中でアーサーの部屋の前を横切った。
アーサー皇子……私もあなたのように頑張ってみるわ。
彼の事を思い出して、胸が熱くなるのを感じる。宴会ではメイドと仲良さそうにしているのを見てモヤモヤして、雑な絡み方をしてしまったが、嫌われてはいないだろうか?
だけど……彼がエルフの調味料を好んで食べてくれて嬉しかった。他の人間には勧めた時は拒否されてしまったが、彼だけは美味しそうにたくさん食べてくれたのだ。
もしも、私が無事帰ってこれて……手作りでお弁当とかつくったりしたら、一生作ってくれなんて言われちゃったりするのかしら……
そんな妄想をしながら、エレインは明日に備えて眠りにつくのだった。
エレインさんの気持ちはかけらもアーサーに伝わっていない……
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