28.不思議な青年
エレイン視点です。
村に来て、エレインは驚きの連続だった。まずはアーサーの治療へのやる気である。貴族というものは体面を気にするものだ。だからこそ、村長も彼と自分に一生懸命感謝の言葉を伝えようとしていた。
だが、アーサーはそんなものは興味がないとばかりにさっさと小屋へ案内しろと命じた。その姿は名誉などよりもケガ人の事を第一に考えているようにエレインには見え、おもわず笑みを浮かべてしまった。
そして、もっと驚いたのは小屋についてからである。今回の毒は感染型の毒だったのだ。基本的に毒には種類があるが感染型は例外なく強力である。他国の皇子に政治的取引もないのに頼めるようなものでは無い。
だから、エレインは気を遣って、今回は自分たちだけで対処しますと伝えようとしたのだ。
「アーサー様、どうしますか? 思ったより厄介な毒のようですが……」
「何を言っているんだ? 俺は治療をしに来たのだぞ!! 逃げるわけがないだろう」
だけど、アーサー王子は即答だった。エレインの制止をきにもとめず彼は小屋に入っていくではないか。その姿勢は素晴らしい。だが、彼はただの人間ではない。王族なのだ。
ここで下手な事があれば国際問題にもなる。
「な……アーサー皇子!? ああ、もう、勝手な事をしないでよね!!」
思わず声を荒げて素がでてしまったが心配は杞憂だった。かれは自分にも治癒魔法を使っているのか、毒をものともしないようだ。
そして、さっさと治療を始めてしまった。そこでもエレインは驚かされることになる。それはすさまじい治癒能力だった。食事をするのも辛そうな青年の顔色があっという間に良くなっていき……彼が一瞬こちらを見た気がした。
お前は何もしないのかと……?
エレインは驚いて何もしなかった自分を恥じ慌てて治癒魔法を使う。彼女の治癒魔法は広範囲を癒す強力なものだ。だけど、その力を持っても中々治癒が終わらない。
それだけ強力な毒をこの男はこの短時間で癒したというの!!
彼女はアーサーの治癒能力の高さに戦慄を隠せない。そんな事を考えている間にもアーサーは次から次へと治療を終えていく。
その姿はとても一生懸命で……くだらない対抗心や色眼鏡で彼を見ていた自分が恥ずかしくなった。
「終わったぁぁぁぁぁぁ!! 全員治ったぞ」
全員の治療が終わるとともに彼は小屋で倒れこむ。それをだらしないなんて思わない。なぜなら治癒魔法はとても精神が疲れるのだ。これだけの強力な毒を、しかも他国の領民を癒すためにあんなに一生懸命に使うなんて……
もう一つの驚きはメイドの行動だった。彼女はアーサーが治療が完了したと言ったら迷うことなく小屋に入ったのである。普通の人間ならばいくら治療したとはいえ、毒が蔓延していた空間に入るのは抵抗がある。だけど、彼女にはそれが一切なかった。
この子はアーサー皇子を心の底から信頼しているのね……
そのことに気づき、彼を少しでも疑っていたエレインは自分の矮小さに恥ずかしくなる。そして、彼がメイドに肩を借りていくのを見て……何か言わなければと思う。
「その……ありがと」
「ん、ああ、気にするな」
とっさに出たのはありきたりな言葉だった。それに対して彼は当たり前だとばかりに答える。本来ならば政治的な取引を行い多額の寄付が必要なくらいの治癒をやったのにだ……
その姿は昔憧れた『聖王』をほうふつとさせ……エレインは自分の胸がどきどきとしているのを感じたのだった。
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