133.孤児院の人達
「大丈夫ですよ。皆さんゆっくりと準備をしてくださいね」
王都から避難せよという命令が出て、孤児院は子供が多いということで準備に手間取り遅れてしまっていた。そのことを知ったケイはマリアンヌと共にここでお手伝いをしていたのだ。
「なあ、ケイさん。俺たちまた帰ってこれるよな?」
そう、不安そうに聞いてくるのはイースだ。普段は勝気な少年だが、この緊急事態にはさすがにまいっているようだ。
「大丈夫ですよ。今、お城の偉い人たちが頑張ってくださってますし、アーサー様だってすぐにかえってこられます。あの人は五大害獣だって倒しちゃうくらいすごい人なんですから災害何て敵じゃないですよ」
「そうだよな。アーサー様は普段は情けなさそうだけどすごい人だもんな」
「うふふ、そうなんですよ。私の自慢の弟ですからね」
にこりと笑いながらナチュラルに姉ぶるケイだが、もはやニールも慣れたものでスルーである。
だが、ケイは子供たちに伝えてはいないことがある。彼女はマリアンヌから災害の正体を聞いているのだ。このブリテンに『五大害獣』が現れるだろうということを……。だから、余計心配になって孤児院にきたのである。
アーサー様が大切にしている孤児院の子供たちなんです。姉である私が守らなくてどうするんですか。
もちろん、姉でもなんでもないのだが決心は本物だった。
「あとはマリアンヌさんとベディが戻ってきた出発しましょう」
「「はーい」」
子供たちの声にもうひと踏ん張りだと気合をいれるケイ。だが、アーサーと過ごすうちに彼女は忘れていたのだ。この世界は良い人間ばかりではないのだと。権力をかさに着る貴族もいれば、暴力に訴え、物を盗もうとする悪人もいるのだと……。
ガンッ‼ という音がして扉が乱暴に開けられる。
「ん? くそ、まだ人がいやがったのか‼」
「何者ですか‼」
急に入ってきた二人組の男から子供たちを守るように立ちふさがるケイ。マリアンヌは出て行ったベディを追いかけ神父は今、教会にいっている。唯一の大人である自分がこどもたちを守るのだと震えながらも男たちを睨みつける。
「だが、騎士はいないようだな。ここはアーサーの孤児院で間違いないよな?」
「アーサーから色々ともらってるんだろ。金目のものをくれたらかえってやるよ」
「そんなものはありません‼ こんな状況で火事場泥棒のようなことを……」
城の騎士たちが民衆の誘導や、『五大害獣』の討伐に手一杯の時をねらってきたのだろう。みんなが頑張っているというに……その卑劣さにケイは嫌悪感を隠せない。
「なんだ、その顔は? 生意気だなぁ。その体を可愛がって口の利き方をおしえてやるよ」
「はは、ほどほどにしておけよ。兄弟。騎士がいつくるかわからないんだからなぁ」
ナイフを片手に男の一人が下卑た笑みを浮かべる。
「やめろ‼ ケイさんに手を出すな‼」
醜い欲に満ちた視線にケイが思わずあとずさりした時だった。後ろにいたイースが飛び出してきたのだ。
「はっはっは、随分と威勢がいいなぁ。先にガキからかわいがってやろうかぁ‼」
「イース‼ アーサー様……わたしたちをお守りください」
男が拳を振り上げた時だった。扉の方からすさまじい勢いでせまってくる人影があった。
「おい、モルガンとまれぇぇぇぇ」
「ごめんなさい……その……あなたと近くて集中力が……」
そんな声と共に現れた人影の一つは無事止まったが、背中につかまっていた方はそのまま吹き飛びナイフを持った男にぶつかって、ようやく動きを止めた。
「アーサー様……?」
「ケイ……よかった話があるんだ……うおおおお‼」
まさに今名前を呼んだ少年が目の前にいることにかんきわまったケイは思わずその豊かな胸でだきしめてしまう。
「アーサー様……お姉ちゃんの祈りが効いたんですね……」
「いったい何のことだ……? だけど、ケイが安心したのならよかった」
自分の胸に顔をうずめながら優しい笑みを浮かべるアーサーを見ていると愛おしさと共に、先ほどまでの恐怖が消えていくのを感じる。
そして、がっちりした体になりましたね……。
少年から青年へと変化している彼に思わずドキッとしたところで耳元で咳払いされた。
「こほん……こいつは凍らせておいたわ。騎士を呼べば捕らえてくれるはずよ……で、いつまでくっついているのかしら?」
「も、申し訳ありません、モルガン様」
「ああ……久々のケイのぬくもりが……」
モルガンの絶対零度の視線にさっと距離をとるケイ。お姉ちゃんとは言え婚約者の前で抱きしめるのは失礼だとわかってるからである。
いや、姉ではないのだが……。
「アーサー皇子時間はないのよ。さっさと本題に入りなさい」
「ああ、わかってるって。ケイ、この騒動の黒幕と戦いに行くんだが、お前の力が必要なんだ。ついてきてくれないか」
「私の力……ですか?」
予想外の提案にキョトンとするケイ。ケイはただのメイドである。戦う力もなければ魔法もない。それなのに、先ほどの男たちよりも強力なものがいる場所についてこいというのだ普通なら恐怖のあまり断るだろう。
「あなたね……もっとちゃんと説明を……」
あまりに端折りすぎな言葉にモルガンがあきれた声をあげる。だが、ケイは即答する。
「はい、もちろんです。だって、私はアーサー様のお姉ちゃんですから。そのかわりちゃんと守ってくださいね」
「ああ、もちろんだ。頼むぞ、ケイ」
アーサーの笑みを見ると不思議と安心できる。先ほどよりも恐ろしい相手の所に行く問うのに彼女の心には恐怖の気持ちはかけらもなかった。
だって、アーサーがいるのだから……。
「じゃあ、みんな。神父さんがくるまで待っているんですよ」
「「はーい」」
「イースみんなをたのみました」
「ああ、ケイさんもがんばってね」
子供たちが返事に満足そうにうなづき最年長のイースに託す。
「じゃあ、行くぞ。モルガンなんで機嫌悪そうなんだ」
「何でもないわよ」
「はぁはぁ……やっと追いつきました……もういくんですか?」
不機嫌そうなモルガンと息も絶え絶えな赤毛の騎士をよそに子供たちに別れを告げ、『五大害獣』の元へと向かうのだった




