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130.

「これは……僕は知っている。『終焉の猫』の本体だ‼」



 影のような獣が目をつぶっていた。漆黒の毛並みを持つ、異様に大きな猫。鋭く伸びた牙、しなやかな尾が揺れており、その全身をあふれんばかりの禍々しい魔力が覆っている。



「うう……」



 そして、そのまわりには先ほどの倒した眷属たちが運んできたのか何人もの囚人が焦点の合わない目でうめき声をあげながら横たわっていた。



「ああ‼ ああああああ‼」



 そして、その囚人が悲鳴を上げるとともに真っ黒な魔力があふれ出してきて『終焉の猫』の元へと吸われていく。それを止めようとしたのか、一人のプリーストが浄化の魔法を放った時だった。

 それが目を覚ました。



『……』



 深紅の目で睨まれただけだった。それだけでエレインは心臓をにぎりしめられるような錯覚におちいる。

 そして……。



『聖女とか呼ばれて調子にのっているんじゃないの?』

『そんな平民何て治療しなくていいんだ。君の力は他国の要人などを癒すために使いなさい』

『なんで私の子を助けてくれなかったの? あなたは聖女なんでしょう? この嘘つき‼』



 苦い思い出があふれ出し、エレインは自分の感情が黒く染まっていくのを感じる。だが……止められない。止めようと思えない。

 そうよ、私は頑張っていたのに、誰も認めてくれなかった。治療が間に合わなくて怒鳴られたことだってあった。だったら私は……。



『何を言っているんだ? 俺は治療をしに来たのだぞ‼ 逃げるわけがないだろう』



 毒が蔓延しているなでも躊躇なく治療を行う少年がいた。他国の民だというのに寄付金も要求せずに村人を治療し、あまつさえ、私を守るために『五大害獣』コカトリスを倒したその姿は聖王と重なって……私はその姿にあこがれたのだ。



「確かにあいつらはむかつくけど……だったら自分の正義を貫いてやるわ‼ そうでもしないと彼に並び立てないもの‼」



 一人の少年の生き方を思い出したエレインが心の中の暗い感情に打ち勝ち、周囲を見回す。



「ごめんなさい、ごめんなさい……」

「お前が……お前さえいなければぁぁぁ‼」



 誰もが皆うつろな瞳でぶつぶつとしゃべっている。エレインのと同じように過去のトラウマに襲われ負の感情を増加させられているのだろう。

 その時近くで大きな叫び声が聞こえた。



「マリアンヌは『お兄様嫌い』とかいうものかぁぁぁぁぁ‼」



 自力で正気に戻ったらしきガウェインと目が合った。正直ちょっとこわいなと思いながら話しかける。



「これが……『終焉の猫』の力なのですね……こんなのが街に出たら……」

「まずいでしょうね、精鋭である彼らですらこの有様です。精神的につらいことに慣れていない貴族や民衆がこれを受けたら……」



 冷や汗をかきながら『終焉の猫』を見つめるもエレインたちには興味がないのか、黒い魔力を喰らっている姿が目に入る。



「『終焉の猫』は目覚めてしまった……こいつをここにだすわけにはいかないんだ」



 モードレットも正気に戻っていたのか、息も絶え絶えになりながらも答える。三人の考えが重なる。



「エレインさん、浄化を頼みます。僕とガウェインで守り抜く‼」

「お任せください、この身に変えてでもあなたの事は守って見せます‼」

「わかりました。聖女の力をお見せしましょう。私がここでこいつを倒してもいいのでしょう?」



 アーサーやロッドがいつくるかはわからない。だがこのまま避難の済んでいないブリテンにこいつが放たれれば惨劇がおきることは想像にたやすかった。



『……‼』



 『終焉の猫』が浄化の力に反応してこちらに襲い掛かって来る。その巨体にモードレットはあっさりと吹き飛ばされ、ガウェインは……。



「マリアンヌのいるブリテンは私が守る‼」



 想い人(実の妹)を思い出し身体能力を三倍にさせ、『終焉の猫』の一撃を受け止めたのである。



『……‼』



 まだ、完全に復活していなかったから、『終焉の猫』は悔しそうに再度に攻撃を加えるがガウェインはそれをなんとか受け止める。

 そして、エレインの浄化の力で徐々に……徐々にだが、その体が小さくなっていく。



「負けるわけにはいかないのよ。私はあの人の隣に並ぶんだから‼」



 エレインが血走った目でさらなる魔力を解き放つ。その鼻からは魔力放出の過負荷によって、鼻からつーっと血が流れるがそんなことで集中力は途切れはしない。



『……‼』



 『終焉の猫』が驚きの声をあげた「いける‼」と思った時だった。



「ぐえぇぇ」



 隣でくるしんでいたプリーストに腹を蹴とばされ、エレインは無様に転がった。そして、それは彼女が行っていた浄化もとまってしまうことを意味する。



「エレイン様⁉ うごぉ‼」



 そして、完全に自由になった『終焉の猫』の前ではさしものガウェインも壁にすらならなかった。



『……‼』


 にやりと……『終焉の猫)』が嗜虐的な笑みを浮かべると、その周囲には負の感情に支配された騎士やブリーストたちがまるでエレインたちから守る様に立ちはだかる。



「もう少しだったのに……私は……」



 エレインの感情が絶望に染まった時だった、彼女たちがやってきた方から情けないけれど、とても頼りになる声が聞こえてくる。



「うおおおおおおお⁉ なんか剣が勝手にぃぃぃぃ」



 聖剣を携えて、『終焉の猫』とエレインの前にやってきたのは一人の少年と、その少年に抱き着いてるメイド服の胸の大きい少女だった。



「え、なにこれ? どうなっているの?」

「びっくりしました、アーサー様、大丈夫ですか?」



 慌てた様子で周囲を見回す少年と、その少年を心配しているメイドの少女。そして、それに少し遅れて銀髪の少女と、赤髪の騎士がやってくる。

『……‼』



 そして、『終焉の猫』が少年の……アーサーの剣を見て恐れるようにして後ろず去ったのを見た。


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聖女とシスコンが居なかったら間に合わなかったやつだ……
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