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129.エレインの戦い

「なんと禍々しい……」

「ここに『五大害獣』が……」



 牢屋の前に集められたのは精鋭の騎士たちだった。そんな彼らですら震えているのだ。目の前の牢屋はもはやダンジョンのような雰囲気すら醸し出していた。

 聖剣を探すと連絡のあったロッドやアーサーがいつ戻ってくるかわからないこともあり、先遣隊を出すことにしたのである。

 未知の相手にみなが怖気づいている時に二人の人影が一歩踏み出した。



「せっかくです。私が先陣をきらせてもらいましょう。このような禍々しいものにマリアンヌを触れさせるわけにはいきませんからね」

「もちろん、僕も行くよ。皇子としてブリテンを守る義務があるからね」



 ガウェインとモードレットに周囲の騎士たちがざわつく。自分たちと同じ騎士であるガウェインが名乗り出た上に、本来は守るべき存在であるモードレットまで行くと言っているのだ。

 自分たちだけがうじうじしているわけにはいかないだろうと……そう騎士たちが思っているのを察してモードレットはこっそりとガウェインにウインクをする。

 そう、仕込みである。皆が日和ったところに名乗り出てもらいひるんでいる空気をなくそうとしたのだ。

 そして、改めて決心した彼らを後押しするものがあった。



「皆さん、『五大害獣』の恐ろしさは私も知っています。ですが、アーサー様よりブリテンの騎士の勇敢さは聞いております。私と共に悪しき魔物を倒しては頂けないでしょうか?」

「もちろんです、聖女様‼」

「クラストンベリーの聖女様がブリテンをすくうためにやってきているんだ。俺たちもまけていられるかよ‼」

「この戦いに勝ったら、握手してください‼」



 清楚な聖女スマイルを浮かべるエレインに騎士たちの士気が一気にあがる。一部へんなのもいるが緊急時であり、気にはしていられない。



「では、行こうか、ブリテンを救うよ」

「「「おおーーー‼」」」



 そう大声をだして牢獄に入っていくのだった。



「これはひどいですね……」

「ここは死刑囚や凶悪犯のみを捕らえた牢獄なんだ。最後に避難させるつもりだったんだけど……どうなっているか」



一歩入ると同時に感じる禍々しい気配にエレインはおもわず眉をひそめる。どういった影響があるかは知らないが精神衛生上よくないのはわかる。

 この中にいるのは犯罪者とはいえ、あまり気持ちの良いものではない。   



「あ……あ……」



 しばらく進んだ時だった。ボロボロの服を着た囚人が焦点のあっていない目でふらふらと歩いてくる。エレインの目にはそれがまるで助けをもとめているように見えて……。



「聖女様、うかつ近づかない方が……」



 せめて心が安らぐように精神安定の魔法をかけようとした時だった、



「私は聖女です。犯罪者であっても差別するわけにはいきません」

「ただ、ガキを殺しただけなのに、こんなところに閉じ込めやがって許せねえ」



 目の前の囚人の瞳が一瞬から正気に戻ったかと思うと吐き捨てるような言葉と共に禍々しい漆黒の魔力が放出される。

 そして、その魔力が囚人の体から完全抜けると、牛ほどの大きさの猫となり、腕を振るったと思うと襲い掛かって来る。



「聖女様‼ 今助けに行きます」

「私だって修羅場はくぐっています。浄化‼」



 エレインの手からまばゆい光があふれでると猫の化け物としばらく拮抗し、やがて猫が掻き消えた。



「大丈夫かい、エレイン」

「これは……なかなか骨が折れわね。今のが『終焉の猫』の眷属なの? 並みのプリーストじゃ歯が立たないわよ」



 頬から汗を流しながらエレインがモードレットにだけ聞こえるようにささやく。瞬殺したように見えるかもしれないが、それは違う。浄化しようとしてすさまじい抵抗を感じたため、全力を使っただけに過ぎない。



「モードレット様、エレイン様。先ほどの囚人はすでに死んでいるようです。おそらく、魔力と共に生命力もくわれたものかと……」

「そんな……やつの眷属は人の負の感情と生命力を魔力にして生まれていたのか……どうりでへらなかったわけだ」



 モードレットが呆然とした顔でつぶやくのをエレインはまるで、戦ったことがあるみたいな物言いだなと思いつつも、あらためて恐ろしさを知る。

 『終焉の猫』の近くで負の感情に呑まれるとこうなるってことかしら……だったらまずいわね。最悪仲間が眷属になる可能性もあるってことじゃない。

 例えば仲間や大切な人が死んだら連鎖的に『終焉の猫』の眷属が増えるかもしれないのだ。



「騎士たちは警戒を解かないで‼ 仲間が死んで動揺しないように。僕らの活躍にブリテンの未来はかかっているんだ」



 同じ結論に至ったであろうモードレットが騎士たちに活をいれるがどれだけの効果があるだろうか。

 緊張の中進むと中はひどいものだった。何人もの囚人が眷属に喰われてしまったのだろう、彼らのはいっていたであろう檻はひしゃげ血の匂いがあたりに充満しており、空気がよどんでいるように感じるのは気のせいではないだろう。



「きた‼ 眷属だ‼ うおおおお‼」



 所々で堅いものがぶつかり合う音が響いていく。モードレットや騎士たちが眷属と剣を交えて時間を稼ぎ、プリーストたちが浄化する作戦だ。

 なぜならば剣で傷つけても何もなかったかのように再生してしまうからだ。



「あなたたちは三人一組で一体を浄化してください。騎士の治療を最優先に‼」

「「「はい‼」」」



 エレインの言葉に威勢よく答えるのはブリテンのプリーストたちである。彼女は異国のエルフだが、自分の信仰する宗教の聖女ということで崇拝にも近い感情を抱いているのだろう。



「こんなのが街に出たらどうなるか……恐ろしいですね」

「ああ、だからこそ、この場でこいつらを足止めしなきゃいけないんだよ」



 一人で眷属を浄化しているエレインをモードレットがサポートしながら、他の騎士やプリーストたちと眷属を倒していく。

 そして、ようやく目の前の眷属を全滅させる。



「彼らが眷属になった囚人たちのようだね」 

「ひどいものですね……周囲の警備をお願いします。どこにひそんでいるかわかりませんから」



 囚人たちの死体はどれも憎しみに満ちた顔をしていた。そんな状況下でエレインは一歩踏み出して、死者に祈りをささげる。



「エレイン様、何を?」

「誰にでも死後に救われる権利はありますから。天の御許に眠るものよ、その魂に安らぎがあらんことを」



 むろんエレインとてどこに眷属がひそんでいるかわからない状況はおそろしい。だが、毒の蔓延する中突っ込んだアーサーの勇姿を思い出し、自分もと勇気を振り絞ったのである。

 そして、その美しくも神秘的な光景は疲労間に襲われていた騎士やプリーストのモチベーションをあげるのに効果てきめんだった。しかも、比喩でなくよどんだ空気が浄化されていく。



「さすがは聖女様……異国の囚人にまでお祈りをささげてくださるとは……」



 思わず感動したとばかりに声をかけるガウェインにエレインが照れ臭そうにほほえむ。



「聖女などと呼ばれていますが私もそこまでできたエルフではありませんよ。だた、すこし前に私の国で毒に苦しむ村人を自分も毒に侵されるかもしれないというのに躊躇なく治癒した方のようになりたい……そう思っただけです」

「……わかります。私や私の妹もその方に救われましたからね」



 エレインのいう人間が誰だか察したガウェインも誇らしげに胸をはる。そして、二人は目と目で通じ合う。

 ここに同士が生まれた瞬間であった。



「だったら、彼が来る前にできるだけこいつらの数を減らしておかないといけませんね」

「ええ、護衛はお任せください、聖女様」

「うう……誰か……助けてくれ……」




 二人が決意を新たにしていると、隅っこの方からうめき声が聞こえてくる。もぞもぞとぼろきれのような服をきている囚人の一人が動いたのだ。

 騎士たちが警戒する中、モードレットとガウェインに守られているエレインが彼に近づく。



「大丈夫ですか? 意識ははっきりとしています? 今、治癒しますからね」



エレインの手から生み出された光が囚人を包むと徐々にその傷が癒えていき、激痛をこらえていたためこわばっていた囚人の傷が癒えていく。



「俺はたすかったのか……?」

「君は正気のようだね。何があったかおしえてくれるかい?」



 警戒心をとくために騎士たちを下がらせながらモードレットが囚人に訊ねると、彼はびくびくと震えてあたりを見回しながら口を開いた。



「俺もよくわからないんだ。なんだか変な黒い靄がそっちから出てきたと思ったら周りの連中の様子がおかしくなって……そいつを止めようとしたらいきなり殴られて気づいたら化け物が周りをうろついていたんだよ」

「この奥か……確か、この先には物置のはずだけど……」



 彼が指さした方向を見て、モードレットが怪訝な顔をするが、エレインはより深くなる邪気のようなものを感じ取っていた。



「確かにこの先から先ほどよりも強い何かを感じます……みなさん、覚悟してください」



 緊張に満ちたエレインの言葉に皆が警戒心を強める。



「みんな、準備を終えたら突入するよ、だれか、この囚人の保護を外に送って保護してあげてくれ」

 モードレットの指示のもと、騎士の治療や、ポーションなどによる魔力の回復を終えると、ガウェインが先陣をきって突き進む。



 その姿にエレインも感嘆の声を上げるが……。



「愛しきマリアンヌがいるブリテンを危機にさらすわけにはいきません‼」

「なるほど……ガウェインさんは恋人のことをとても大事に思ってらっしゃっているのですね……すごい気迫です」

「いや、確かマリアンヌはアーサー兄さんのメイドで、彼の妹だよ」

「え、こわ……」



 好感度が一瞬でさがる。一人っ子のエレインには過剰な妹への愛情は理解できなかったのだ。いや、妹がいても理解はできないが……。

 なにはともあれ突き進むと、物置は何者かに荒らされその奥には乱雑に穴が掘られており、その先は闇よりも暗い漆黒が広がっていた。



「う……なんでしょうか、これは……気分が重く……」

「魔力のないものでもここまで影響を受けるとは……みなさん、この先に魔力を集中してください。浄化します‼」



 まばゆい光と共にエレインを主としたプリーストたちが光を放ち、漆黒の闇としばらく拮抗し……打ち勝ち先へと進む。

 漆黒が浄化された先にあるのは大きな空洞だった。壁は闇に呑まれたように黒く、空気はどこか生暖かい。ぽつり、ぽつりと天井から滴る液体が、不気味な反響音を響かせている。奥へ進むほど、まるで何かが蠢くような圧がエレインの肌を這う。

 そして、その奥にそれはいた。


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え、怖ってドン引きされとるwww
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