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128.終末の猫

 ブリテンは混乱の渦にあった。王都から避難せよと命令が下り、貴族も平民も関係なく、移動が始まったからだ。

 無茶苦茶なことにもかかわらず皆が従ったのには理由がある。それは王家だけではなく、聖女であるエレインまでわざわざブリテンに足を運んで危険を伝えたからである。

 王位継承戦との利害がない彼女の言葉は貴族たちに今回の件で内輪もめをしている場合ではないとわからせると同時に、民衆たちの反発心を無くするのに役立っていた。



「建国祭の時は気付かなかったけど、ここにいるだけで気分が悪くなるわね……」

「仕方ないさ。あの頃はまだ『終焉の猫』は眠っていたからね」



 エレインが素をさらけ出しながらぼやくと隣にいるモードレットが肩をすくめる。短い間だがともに王都で様々な貴族を説得したり、民衆たちを扇動していくうちに多少だが距離は縮んでいた。決して友人ではなく愚痴をこぼす程度間柄だが……。


「僕は何も感じないけど、そんなにひどいのかい?」

「ええ……おそらく魔力の高いものは感じているはずよ。まるで負の感情を凝縮したような不気味な気配をね。それで、『終焉の猫』はどう攻めてくるのかしら?」

「それが僕もどこから湧いてくるかわからないんだよ」



 気分の悪そうなエレインに申し訳なさそうにモードレットが言う。

 それも無理はないのだ。一度目の人生では彼が遠征から帰ってきた時にはすでに『終焉の猫』が暴れており、警戒していた二回目では騎士たちを集め対策を練っている間に復活してしまったのだ。

「わかっているのは最初は小型の『終焉(キャス)の(パ)(リーグ)』がどこからか現れて魔力を集めたら、巨大な本体が現れるってことくらいかな」

「ふーん、中途半端に詳しいのね」



 どこか疑わしそうに見てくるエレインにモードレットは苦笑することしかできない。人生を三回目といってもしんようされないだろうし、証拠を見せろと言われてもノートの中身はじぶんにしか見えないのだ。

 だったら無駄な説明をして時間をつぶすよりもその時間で少しでも民衆を避難させたいと思う。



「あれは何かしら? 騒がしいけれど……」

「すいません、偉い人と話させてください。お願いします」



 エレインの視線を追うと平民の少年が城の方へと向かおうとして騎士に止められているようだ。

 家族とでもはぐれたのだろうか。なにはともあれ騎士たちにまかせておけばよいだろう。モードレットはそう思ったのだが……。

 隣のエレインが声を張り上げる。



「何があったのですか? 私が話を聞きますよ」

「エレインさん⁉」

「目の前の困った人を放っておいて、聖女を名乗れるものですか。アーサー様だったら手を差し伸べるはずよ」



 そんな場合ではないと咎めるが逆に睨まれてしまった。その間にもエレインは少年の方へと向かう。



「あなたは……エレイン様。ここは私たちが……」

「ここは私に任せてください。あなたがたは他の場所の警備をお願いします」

「はい‼」



 モードレットに見せている姿はどこにいったやら、慎ましくも優しさを感じさせる雰囲気に騎士たちが顔を赤らめて頷く。

 すさまじい二面性である。



「私はエレインと申します。一体どうしたのですか? 家族とはぐれたのならば探すのを手伝いますよ」

「エレイン様ですか‼ 僕はニールと言います。ブリテンに眠る『終焉の猫』について伝えたいことがあるんです‼」

「え?」

「なぜ、こんな子供が知っているんだ?」



 エレインとモードレットが驚きの声を上げるのも無理はない。民衆たちには混乱を防ぐために災害が起きるとだけしか伝えていないのだ。

 『終焉の猫』の事を知っているのは一部の貴族や騎士だけのはずなのだ。



「ニール‼ どこにいったんですの‼ ここは危険ですわよ」



 必死になって追いかけてきたのだろう、息も絶え絶えの金髪のメイドにモードレットは見覚えがあった。



「モードレット様⁉ なんでこんなところに……」

「君はたしかガウェインの妹のマリアンヌじゃないか? この子とはどういう関係なんだい?」



 マリアンヌは一瞬驚いた様子をみせるも即座にお辞儀をして本題に入る。



「その子はアーサー様の孤児院の子供でよく勉強をみていますの。それで、この騒動について調べていたらしく大切なことがわかったからどうしても偉い人に話したいと言い出したのです」

「へぇー、アーサー様の……」

「ああ、アーサー兄さんが特別に城に出入りをゆるしていたという少年か、かなり頭が回るって聞いたことがあるよ」



 マリアンヌの関係者ならば事情をしっていてもおかしくはないとモードレットは警戒心を解く。ガウェインはが妹に甘いのは知っていたし、事前に話すということは相談されていた。



「なら、教えてくれますか? あなたが調べたことを……」

「みなさん、聞いてくれてありがとうございます。マリアンヌ様から『終焉(キャス)の(パ)(リーグ)』について教えていただきて、自分にできることはないかって王城の書庫にお邪魔させてもらっていたんです。そして、いくつか文献を見つけました」



 エレインの言葉に頷いたベディが緊張しながらも説明を続ける。



「そこに書いてあったのは『終焉の猫』は負の感情を好むということ……そして、眷属がこのブリテンの最も負の感情が強い所から現れ、最後に本体が暴れるということです」

「書庫の本は相当な量だけどよく資料を見つけたね」

「それは……本を読むのが好きだったのでアーサー様に許可を頂いてからはしょっちゅう入り浸っていましたから……」



 気恥ずかしそうにニールが言うが実際は楽なものではない。モードレットも二回目の人生の時に部下に『終焉の猫』について調べさせたが、資料が少なく、断片的だったのだ。おそらく彼なりに精査したのだろう。



「なるほど……だから、前はスラム街のあちこちから現れたのか……」



 前回を思い出してぼそりと呟くモードレット。これは予想以上に厄介なことになるぞ頭をかかえたくなる。



「なるほど……ブリテンでもっとも負の感情があつまるところはどこだと思いますか? 大体の場所がわかれば私なら『終焉の猫』の存在を察知できると思います」

「それならおそらく。牢屋だと思います。あそこは犯罪者がたくさんいますもの」

 


エレインの疑問にマリアンヌが答える。それは確かに正論だ。だが、貧富の差が激しいブリテンでは平民たちが住む場所の方がつよかったのだ。おそらくだが国に対して不満を持っているものがたくさんいたのだろう。



「いや……もっとも不満を持っているのは平民たちが住む街だ。激しい貧富の差や、貴族の特権階級に民衆は大きな負の感情を抱いていて、それは牢屋のそれをはるかにうわまわっているんだよ」

「本当にそうなのですか? あのアーサー様がいらっしゃるこの国でそのようなことが?」



 悔しそうな表情を発するモードレットにエレインが驚きの声をあげる。今のアーサーのような人間ばかりだったらそうはならなかっただろう……だけど、現実は違うのだと、あきらめの表情で平民であるニールを見るが……。



「お言葉ですがモードレット様、それはないと思いますよ。確かに少し前までは不満もありましたが、最近はだいぶ減っていると思います。孤児院の食事の質も良くなってますし、しょっちゅうアーサー様が顔をだすから治安もよくなってますから」

「なんだって……」



 モードレットが信じられないとばかりにマリアンヌを見つめると彼女も困った顔をして答える。



「そうですわね……アーサー様が孤児院に寄付したり定期的に訪問していることから、派閥の貴族たちもそれにならったんですの。その結果、貧富の差はさすがに縮まりませんが、民衆の不満はかなり減っていますわ」

「さすがはアーサー様ね、まだ、皇子なのに国を変えてしまうなんて」



 満面の笑みを浮かべたのはエレインだ。彼女はまるで自分の事のようにアーサーの功績を喜ぶと、からかうような笑みを浮かべてモードレットに話しかける。



「あなたのお兄さんはずっと優秀みたいですよ。まあ、私はわかっていましたが……」

「ああ、そうみたいだね……」

「では、私とモードレット様で様子を見てきます。ニールさん、マリアンヌさんありがとうございます」



 複雑そうな顔のモードレットをよそに聖女スマイルを浮かべたエレインは牢屋の方へと向かっていく。そして、急ぎ牢屋にたどり着くとそこで待っていたのは魔力を持たないモードレットですらわかるほどの圧倒的なまでの負の感情だった。



「どうやら、当たりみたいね……私の知っている『五大害獣』とは別格じゃないの……」

「ああ、これは間違いない……この奥に『終焉(キャス)の(パ)(リーグ)』がいる‼」



 囚人らしきものの悲鳴と禍々しい気配に二人は思わず冷や汗をかくのだった。



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