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127.聖剣の試練 アーサー編

「ロッド様‼ 大丈夫ですか?」



 聖剣に触れたロッドから力がぬけたように倒れるのをメイド十四番が受け止める。意識を失っているようだが……。



『大丈夫だ。彼は生きているよ。残念ながら試練には合格できなかったようだけどね……』



 守護精霊の声が心なしか残念そうなのは気のせいだろうか?



「試練って言うのはなんなんだ?」

「それを言うのはフェアじゃないだろう? だけど、これを超えられなければ聖剣を抜くことはできないし、ましてや『終焉の猫』を打ち破ることはできないよ」



 守護精霊は肩をすくめるとそれ以降しゃべろうとしない。試練の内容をしりたければ聖剣に触れ受けろということなのだろう。

 だが、ロッドが落ちた今、この場にいる王族はアーサーだけであり、失敗すれば聖剣は手に入らなくなるということである。



「アーサー皇子……私はあなたを信じているわ」

「私もです。あなたならばどのような試練も乗り越えられると思います」


 二人の信頼に満ちた瞳と、今頃ブリテンで騒動に巻き込まれているであろうケイたちを思い出す。



「ああ、俺は任せておけ」



 皆のことを思い出し、チキンハートに活をいれたアーサーは聖剣に触れる。すると輝きと共に意識がとんでいき……。



『「終焉の猫」は負の感情を魔力にして喰らう……君が試練を乗り越えることを祈っているよ』



 最後の瞬間にそんな声が聞こえた気がした。



★★★


「長い夢を見ていた気がする……」



 もう何日もろくなものを食べていないからだろうか、現実逃避のように楽しい夢をみていたきがする。

 夢の中の自分には慕ってくれるメイドいて……口うるさいけど、時々可愛らしい所見せる婚約者がいて……軽薄だけど、自分のために命を捨てようとしてくる騎士がいて……そのほかにも大勢の人間が笑顔を見せてくれていた。



「俺にそんな人間がいるはずもないのにな……」



 アーサーは牢屋の中で自虐的な笑みを浮かべる。

 モードレットによる革命がおきて、彼の生活は一変した。王になったときは贅沢三昧だったが、生活はどんどん貧しくなって、かつての部下たちにつかまり今は牢屋である。



「いっつ……」



 しかも魔力を封じる鎖のせいで治癒能力も使えず、うまれてはじめての痛みに苦しんでいる。



「ああ、くそ……もっと俺がはやく気づいて入れば夢のような未来もあったのかな……」



 だけど、アーサーはモードレットや民衆を恨んではいなかった。いや、ちょっとはむかついているけれど、彼らの怒りが正当なものだともうわかっているのだ。



「俺がもっと民衆に目を向けていれば……ちゃんと自分で考えて行動していれば……」



 今更反省してももう遅いとばかりに、八つ当たり気味に叩かれた頬が痛み、空腹がアーサーを苦しめる。



「おい、面会だぞ。こいつに媚をうっても何の意味もないのによくやるぜ」

「面会だって……」



 騎士の興味のなさそうな口ぶりと比例してアーサーは驚きの声をあげる。そして、思い出す。決まったときに顔を出してくれる彼女を……。



「アーサー様、お元気ですか? 今日も差し入れをお持ちしましたよ。私のようなものの作ったものは口には会わないかもしれませんが何か食べておかないとダメになっちゃますからね」



 なつかしい声と共に一人の少女がやってくる。それは夢の中で優しくしてくれていた彼女よりも少し大人っぽくなっているが間違いなく、あの子だった。



「いつもありがとう、ケイ」

「え? アーサー様……私の名前を覚えてらしたんですか?」



 少女が……いや、ケイが驚きの表情を浮かべているのを見て、胸が暖かくなっていくのがわかる。

 あれは夢の中だったけど、自分に大切なことを教えてくれて誰よりも優しくしてくれた彼女と再び会えたことが嬉しかったのだ。



「ああ、俺はクズだったな……いつも世話をしてくれるみんなのことすらろくに知ろうとしなかったんだから……」

「仕方ないですよ、アーサー様は特別で皇子様だったんですから……」


 その言葉と敬意しかない表情に夢の中のケイとは違い距離を感じて胸が痛くなるのをアーサーは感じる。気を取り直して、せっかくだから彼女の持ってきてくれたパンを食べようと口を開ける。鉄格子の間は人がすり抜けることができないが、腕くらいは入るからいつものように食べさせてもらおうと思ったのだが……。



「どうしました、アーサー様?」



 キョトンとした表情のケイに途端に恥ずかしくなってくる。

 そうだぁぁぁぁ、あくまであれは夢の中の話だったぁぁ。普通に考えたらメイドが姉を自称するとかありえないじゃないか‼

 羞恥で顔を赤くしていると、ケイがアーサーを見て恐る恐る訊ねる。



「もしかして、食べさせてほしかったんですか?」

「それはその……」

「うふふ、結構甘えん坊なところあったんですね」



 クスリと笑うと彼女は、バケットに入ったパンをちぎり、アーサーの口元へと持っていく。



「なんだか、こうしていると不思議な感じですね……口にはあわないかもしれないですが……」

「そんなことはない……美味しいよ……俺が食べたものの中で一番おいしい」



 そのパンは硬く、味もろくにしなかったけど、不思議と胸が暖かくなっていき、空腹も和らいでいく。



「泣いてらっしゃるのですか、アーサー様」

「ああ……俺は知らなかったんだ。このパンを手に入れるのに民衆がどれだけ苦労しているかも、どれだけ頑張っているのかも……」



 泣きながらパンを食べている俺の頭を優しくなでる手があった。ケイだ。彼女は夢の中のように優しい表情で見つめながら俺のなだめてくれている。

 ひとしきり泣いた後、気恥ずかしさに包まれながら礼を言う。



「ありがとう、おかげでだいぶ楽になった」

「アーサー様は寂しかったんですね……もっと早く私が分かっていれば……」



 なぜか哀しそう顔をしているケイに胸が痛くなったアーサーだが、こればかりはどうしようもない。何も知ろうとしなかった自分への罰なのだろうと思う。

 もはや捕らえられ治癒能力も封じられている自分にできる事は一つしかない。



「アーサー様何を……?」



 いきなり靴を脱いだかと思うと靴底を外し始めたアーサーにケイは驚きの声をあげるが、彼は気にせず続ける。

 美しかった靴もすっかりぼろぼろになっており、何とも言えない気持ちに襲われつつもようやく外れゴロンと大きな宝石が落ちてきた。



「これを受け取ってくれ。俺にはもう不要なものだから……家族のために使ってくれ」



 それはモルガンが何か会った時に仕込んでくれた宝石だった。もしも、逃げきれたらこれを売って第二の人生を生きろ……そう言ってくれた彼女の優しさを思い出しながらアーサーはケイに押し付ける。



「そんな……私はこんなものが欲しくてあなたに会いに来たわけではありません‼」

「いいから。俺の最期の願いなんだ。幸せになってくれ」



 最期という言葉に悲しげな顔をするケイを見て、ああ、彼女に渡すことができて本当によかったと安堵するアーサー。

 だが、騒ぎ過ぎたのだろう。余計な乱入者がやってきてしまう。



「おい、その宝石は何だ‼ 私物の持ち込みは禁止だと言っただろう、没収させてもらう」



 見張りの騎士が下卑た笑みを浮かべながら宝石をケイの手から奪ったのを見てアーサーがどなる。



「違う……これは彼女のものだ。綺麗だからみせてもらったんだよ」

「こんな平民が宝石を持っているはずがないだろう」

「そんな……」

「いい顔だなぁ。覚えていないだろうが、お前の気まぐれで俺は降格されたんだ。いい気味だぜ」



 騎士は冷たい目で吐き捨てるとアーサーがすがるように掴んでいる檻を思いっきり蹴飛ばした。



「だいたいよぉ。せっかく革命軍に入ったのにずっとこんなところずっとお前の顔を見せられてイライラしてたんだ。これくらいもらっても……」

「ダメです‼ これはアーサー様のものです。あなたが奪っていいはずがないでしょう‼」



 騎士が馬鹿にした表情でアーサーに怒鳴り返している時だった、ケイがその手から宝石を奪うとして……。



「邪魔だ‼」

「きゃぁ‼」

「ケイ‼」



 騎士に乱暴に振りほどかれて地面にたたきつけられるケイを見てアーサーの心の暗いものが現れる。

 そして、いつの間にか、その手には不思議な光を放つ剣が握られているのに気づく。



「なんだ、これは? まあいい、これさえあれば……」



 夢の中とはいえ色々な修羅場をくぐっていたアーサーは自分がどうすればいいかをわかっていた。

 まずは魔力を封印している鎖を斬ると、全身に傷が一瞬にして癒えていく。そして、ぎろりと騎士とケイを見つめる。



「その剣はどこから……待て、落ち着け」

「……」



 ビビっている騎士の言葉には反応せずに牢屋の檻を斬る。鉄でできているそれはまるで紙のようにあっさりと斬れた。



「ひぃぃぃぃ‼」

「アーサー様、ダメです。あなたの手は人を癒すための者であって殺すための者では……」

「わかっているよ、ケイ」



 そして、腰を抜かしてあとずさりしている騎士を無視して、アーサーはケイの前に立つとその怪我を治癒する。



「アーサー様、私のようなものを治癒するなんて……」

「もったいなくなんかないさ、俺の力はブリテンの民を救うためにあるのだから」



 ケイがなんというかわかっていたアーサーは優しく微笑みかけると、今度は騎士に顔をむける。



「調子にのってましたぁぁぁ。命だけは……」



 先ほどまでの威勢はどこに言ったらやら、情けなく命乞いをする騎士にアーサーは頭を下げる。



「悪かった……俺が無能な王だったばかりに、お前にも迷惑をかけたようだな」 

「なっ、あのアーサーが謝った?」



 騎士が驚きの声を上げるのを聞いて夢の中と同じ反応だなと苦笑しながらケイの方を振り向く。



「だが、ケイを傷つけたことは許さん、ちゃんと謝って……」

「アーサー様。本当にそれだけでいいんですか? この男にひどいことをされていたんでしょう? 今ならばその剣で殺すことも可能ですよ」



 耳元でささやかれてアーサーはぞくっと寒気がするのを感じた。そして、騎士の顔がぼやけてきて……。



「お前は誰だ? ケイがそんなことを言うはずがないだろう」



 剣を突きつけるとケイだったものの姿が徐々に変化していき、フードを被った人影になっていく。



「お前は……守護精霊か‼ じゃあ、これは?」

『すごいなぁ……この状況で憎しみを捨てられるのか? 君だって、処刑されるときは周りを恨んでいたんじゃないのかい? そいつは君にスープに唾を吐き、パンを床になげすてていたのを忘れたのかい?』



 どこか軽薄な声で言う言葉は全てが真実だった。前の人生で処刑されるアーサーはいじめにも近い扱いを受けていた。



「ああ、そうだな。だが、今ならわかる。こいつにも俺を恨むだけの何かがあったのだろう。そして、俺はそういった憎しみや恨みがなくなる世界でいきたいんだよ」

『……』



 そう言って剣を床に置くアーサーを黙って見つめいてた守護精霊だったが、やがて、彼が剣を再び握るつもりはないと知るとフードを脱いで懐かしそうに笑った。



『はは、君は本当にあいつに似ているなぁ。いいよ。試験は合格だ。『終焉(キャス)の(パ)(リーグ)』は人の負の感情を喰らって魔力にする。だから、憎しみに負ける人間はやつには勝てない。臭いことを言うのなら愛と勇気や、希望などの暖かい感情で打ち勝つんだ』

「だから、こんな試練をやったのか?」

『あとはそうだね。君たちが……あいつの子孫がどうなやつか見たかったってのもあるよ』

「あいつとは誰だ?」



 アーサーの問いに守護精霊は答えない。だが、ほほ笑む彼を見てなぜか懐かしい気持ちに襲われる。

 どこかで見たことがある。直接会ったわけではない。絵かなにかでみたような……。



『君たちに遺物を託して良かった。あのノートは道を示すだけに過ぎないからねぇ。じゃあ、ブリテンを頼んだよ』

「おい、ちょっと待て‼ お前は『善行ノート』の事を知っているのか?」



 世界が徐々にひび割れていく。

 そして、目を覚ましたアーサーの視界に入ったのは、真剣な顔で自分の手を握り何かに祈っているモルガンだった。



「うう……俺は……」

「アーサー皇子⁉ 起きたのね。体に異変はない?」

「ああ、大丈夫だ。それに俺は何かあっても勝手に治るからな」



 声をあげるとモルガンが安堵の吐息を漏らす。そして、周囲を見回す彼女と同じく安堵しているトリスタンと、ロッドを抱きしめているメイド十四番が視界に入った。



「守護精霊はどうしたんだ?」

「あなたが剣を握ったと同時に『ブリテンをよろしくね』って言い残して消えちゃったわ。それよりもあなたは聖剣に選ばれたのね」



 モルガンの言葉にはじめて自分の手に聖剣が握られていることに気づく。あれが試練だったのだろう。



「そうみたいだ……それより、ロッド兄さんを治療しないと」



 手にある聖剣を握ったアーサーはロッドの元へ行くとそのまま治癒能力を使うが、違和感を覚える。



「アーサー様、ロッド様の身に何か……」

「いや、これは寝ているだけだ。そのうち目を覚ますと思うぞ」

「そうですか……本当によかった」



 ほっと安堵するメイド十四番の姿がなぜかケイと重なって見え、ブリテンの事が心配になる。



「メイドさんロッド兄さんを頼む。俺たちはブリテンに急ぐぞ」

「聖剣も手に入れたし、あとは戦うだけね」

「王都には優れた騎士もたくさんいます。みんなきっと無事でしょう」



 聖剣を手にアーサーたちはブリテンを目指すのだった。




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