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124.聖剣の眠る地

 アーサーの馬車にのっているのはモルガンとトリスタンの三人だった。聖剣は極秘情報な上に大半の騎士はブリテンへと戻り民衆の避難に駆り出されるからだ。



「ランスロットのやつが王都に行くとは予想外だったな」

「ご安心をアーサー様。あなたのことはこのトリスタンがお守りします」

「仕方ないでしょう。モードレットの派閥である彼を通じて頼んでアグラヴェインとも一時的な休戦を結ぶ必要があるの。それておも私たちだけでは心細いかしら、アーサー皇子?」



 この危機が王位継承争いに大きな影響を与えるとわかっているモルガンは少し憂鬱そうにアーサーに話しをふるが……。



「いや、お前らがいれば大抵のことは怖くないだろう。なにより安心できるからな」

「「なっ」」



 当たり前のように言うアーサーに、二人は強い信頼を感じ思わず顔を赤くする。前の人生のことを思い出してランスロットにビビっていたため緊張していただけなのだが、もちろん二人に通じてはいない。

 そして、ちょっと馬車の中の雰囲気が変な感じなっている中、目的地へとたどり着く。



「ここが聖剣の眠る森か……すごい霧だな」

「これはただの霧じゃないわ。すごい魔力を感じるわ」

「お二人とも入ったら私から離れないでください」



 木々を覆うようにして生まれている霧と不気味な気配に三人が緊張していると、先に馬車から降りていたロッドが声をかけてくる。



「ふん、おじけづいたというのならば、王都に戻ってもいいんだぞ」

「ロッド様……お言葉ですが、護衛はどうされたのですか? 剣に自信があるようですが、さすがに過信しすぎではないでしょうか?」



 モルガンが苦言するのも無理はないだろう。彼の周りにいるのはメイド十四番と呼ばれているメイドだけで騎士たちの姿がなかったからだ。



「ロッド兄さん……友達いないのか……」

「アーサー様……真実は時として人を傷つけるのですよ」

「違うわ、ぼけぇ‼ そもそも友達ではなく部下だろうが‼ 自分よりも弱いものを護衛として連れて意味がないだけだ」



 アーサーとメイド十四番の言葉に激高するロッド。それを見てメイド十四番がにやりと笑ったのはここだけの話である。



「それでロッド兄さん、そのロザリオを使ってどうやってこの霧を晴らすんだ?」

「ふふふ、見ているがいい。これが『聖王の遺物』の力だ‼」



 不敵なわらいを浮かべたロッドが掲げたロザリオがすさましい輝きを放ったかと思うと、霧がすさまじい勢いで吸い込まれていく。

 ちょっと幻想的な景色にちょっと感動していたアーサーだったがとなりのモルガンが驚きの表情をうかべる。



「なんて魔力なの……これは聖王とマーリンが協力して作ったロザリオの形をした魔道具だったのね……」

「あこれが伝説の魔術師マーリンの力ですか、スケールが違いますね……」

「ほう、すごいな」



 自らも魔法を使うモルガンと戦場で何度も魔法を見ているトリスタンが畏怖の感情を浮かべている中、子供のような反応をするアーサー。



「それでは行くぞ。わかっているとは思うが、俺が先頭を歩くし、聖剣を抜くのも俺だからな‼」

「ロッド様……よっぽど聖剣を手に入れるのが楽しみなのですね。お可愛い……」



 まるでジャイ●ンのようなことを言いながら突き進むロッドにメイド十四番が無表情について行く。



「じゃあ、俺たちも行くか」

「まったくロッド皇子も面倒な提案をするわね」

「仕方ありませんよ。ロッド様はアーサー様を警戒してますからね。まあ、気持ちわかりますが……」



 ロッドたちの後姿が見えるぎりぎりになってからアーサーたちも森へと入る。横取りを警戒しているのだろう。これが聖剣の眠る森へとアーサーたちも連れて行く条件だった。



「まったくロッド兄さんは気にしすぎなんだよなぁ……」

「あなたが気にしなさすぎなだけな気もするけど……」



 ぼやくアーサーにモルガンが呆れたとばかりに返事をする。それに何か軽口でも返そうとした時だった。

 彼の視線が一転にとまる。



「これは……なんて美しい……」



 森の入り口をくぐった瞬間、ひんやりとした清らかな空気が三人を迎える。風にそよぐ木々の葉はささやき合うように揺れ、どこか遠くで澄んだ小川のせせらぎが聞こえた。

 足元を見れば、苔むした地面の中に光る露がこぼれ落ち。

そして何よりも目を引くのは蝶に似た透き通る翅を持つ精霊たちが、ふわりと宙を舞いながら、こちらを歓迎するかのように見つめてくる光景だった。彼らは囁き合いながら、時折きらめく粒子を散らし、まるで森そのものが呼吸しているかのような幻想的な光景を作り出している。

 この場所に踏み入った者は、決して無関心ではいられない。鈍感で感受性が死んでいるアーサーですら心の奥に眠る畏敬の念が目覚め、ただ立ち尽くし、この奇跡のような世界を全身で感じることしかできなかった。



「すごいわね……ブリテンにこんなところがあったなんて……」



 横にいるモルガンが美しい光景に感嘆の吐息をもらした後に、なぜかアーサーを見つめる。



「そんな場合じゃないのはわかっているけれど、こんな時じゃなくてデートで行きたかったわね」

「……‼」



 美しい光景のためか乙女なセリフを吐いたモルガンの言葉に、トリスタンが満面の笑みをうかべながらガッツポーズをしているに気づかずにアーサーも感嘆の吐息を漏らしながら答える。



「ああ、そうだな……全てが解決したら大切な人とまた行きたいな。ケイにもみせてやりたいし……」

「そう……あなたはあのメイドと仲が良いものね……二人でいってきたらいいじゃないの」



 専属メイドの名前を出されて唇を尖らすモルガン。背後のトリスタンは頭を抱えている。だが、アーサーはそれに気づかないで言葉を続ける。



「何を言っているんだ。大切な人といったろ。お前も誘うに決まっているじゃないか」

「え……」

「なんで驚いてるんだよ。そりゃあさ、最初の方は口うるさいなぁって思ったこともある。だけど、色々と俺や国のことを思ってのことだってのはわかってるよ」

「アーサー皇子……」

「だから、これからも俺を支えてくれ。頼りないかもしれないけど、婚約者として……皇子として頑張るからさ」



 顔を真っ赤にして感謝の言葉を伝えるアーサー。自分でもわからないが、なぜか今言っておきたいとそう思ったのだ。

 それに対してモルガンはというと……。



「ごめんなさい……今、私の顔を見ないで。多分ひどい顔をしているから……」

「何を言って……こわ‼ その表情はどんな感情なんだよ」

「だから見ないでって言ったでしょう」



 表情筋の死んでいるモルガンのにやけ面はなんともいえないものでありつい本音を吐くと思いいきりにらまれるアーサー。


「ふふ、いいですよ。私はもっとこういうのが見たかったんです」

「うるさい、そんなことよりもあなたは魔物に警戒しなさい」

「ふふ、モルガン様も冗談がお上手ですね。ここには魔物はおろか動物の気配もありません。おそらくあの霧が精霊以外を寄せ付けない力を持っていたのでしょう」



 八つ当たり気味のモルガンを煽るトリスタン。もしも、この光景を見たものがいたら驚くことだろう。

 アーサーはともかくモルガンはブリテンが危機に陥っている時にこんなラブコメのようなことを言いはしないし、アーサーはともかく騎士であるトリスタンがこんなふうに直接的に主であるモルガンをいじることはないだろうから……。


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