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123.五大害獣と聖剣

「ブリテンに五大害獣が現れただって? どういうことだ‼ 虫でもあるまいしいきなり湧いてくるはずがないだろ‼」

「ひっ、僕は王都からの連絡をそのまま伝えただけでして、詳細はわからないんです」



 ロッドの怒鳴り声と共に途端に騒がしくなる部屋の中で、アーサーはノートから不思議な感覚を覚え、慌てて広げてると新しい文字が書かれていた。



『聖剣を手にして『終焉の猫』を打ち破りブリテンを救え』と……。



「アーサー皇子どうしたの?」

「どういうことだ……聖剣がないと倒せないっていうことなのか?」



 深刻な顔をしてノートを開くアーサーにモルガンが声をかけるが、それどころではないとばかりにぶつぶつとつぶやくアーサー。

 そんな彼の言葉に反応したのは以外にもロッドだった。



「聖剣だと……貴様はどこまで把握しているのだ‼」

「知っているのか、ロッド兄さん‼」

「な、なんだその必死な表情は‼ どうせ貴様のことだから知っているのだろうが、このロザリオが聖剣への道しるべだとなぁ‼」

「なるほど……確かに聖剣が眠ると言われている森は常に霧があって何者もたどり着けないときいたことがあるわ」



 アーサーとモルガンの視点がロッドに集中する中、口をひらいのたハーヴェだった。



「ロッド様……聖剣の元にはアーサー様も連いてきていただきましょう。少しでも手に入れられる可能性を増やした方が得策です」

「何を言っている。俺を裏切るつもりか‼」



 激高して今にも胸元をつかまんばかりのロッドに一歩も引かずにハーヴェは見つめかえす。



「そうではありません、私はブリテンに突如現れたという五大害獣の正体に覚えがあるのです」

「だから何だというのだ‼ 『五大害獣』なんぞこいつが何体もたおしているだろう。俺だって聖剣を手に入れれば……」

「『終焉の猫』ですね。父からアヴァロンを継いだ時に名前は聞いたことがあります。ブリテンを滅ぼすものだと……」

「ああ、そうだ。かつて、この大陸の生物の半分を死に至らしめ初代『聖王』が『聖剣』を使って封印したとされる滅びを運ぶとされた害獣の中でも最も害をなすと言われた災厄の猫だ」

 


 ロッドの言葉をさえぎって深刻そうな顔をして顔を真っ青にするモルガンとハーヴェ。それを見てアーサーは混乱していた。

 だって、すでに『五大害獣』は三体も倒しているのだ。ロッドの言う通り聖剣とやらがあれば何とかなるのではないかとそう思っていたのだが、二人の表情は暗いままだ。

 それにただならぬ様子を感じたのはアーサーだけではなかった。ロッドが震えた声で問う。



「それは夜更かしする子供を寝かせるためのおとぎ話ではないのか?」

「違います。そんなものがいるとわかっていれば、民衆は日常を過ごすことができなくなりますからね。王とその側近にのみその存在は秘匿されていたのです」

「な……」



 部屋の中に沈黙が支配する。有力者であり、実際に五大害獣の存在を目にしているモルガンとハーヴェの深刻な表情にロッドもその脅威を察したのだ。

 こんな状況で何か言えるものは絶対的に自分なら倒せると考えている自信家か、空気を読めない愚か者だろう。

 そして、その場にそんな人物がいた。



「よくわからないが、とにかく『聖剣』の封印を解いて、急いでブリテンに戻り倒せばいけばいいんじゃないか?」

「貴様は初代『聖王』ですら封印しかできなかった化物を倒せると思っているのか?」

「ああ、そうだ。だって、俺は実際の『聖王』がどれくらいすごかったか見たことないからな。それに俺の治癒能力や、ブリテンの騎士たちが力をあわせれば何とかなると思う。それても、ロッド兄さんは自信がないのか?」

「なっ」



 これは別に皮肉ではない。実際にアーサーはロザリオに触れた時に聖王と出会っていた。その時に感じたのだ。今の俺と同じくらいの魔力だなと……ならば彼にできて俺にできないことではないだろうと思ったのだ。

 だから、アーサーは思ったことを素直に言っただけなのだが……むろんほかの人間はそうは思わなかった。



「はは、さすがはアーサー様。この状況下でも我々に活を入れてくださるとは……」

「不思議ね……あなたがいれば大丈夫って思えてきたわ……まさか、この状況まで予想はしてないわよね?」



 アーサーの傲慢ともいえる言葉を激励と勘違いした二人が苦笑しながらも覚悟を決める。そして、ロッドは……。



「ふん、聖王と自分が同格と勘違いしているとはなんとも生意気な奴だ。貴様になんぞついていけるものか‼」

「ロッド様‼ 今は兄弟げんかをしている場合ではありませんぞ」



 不快そうに鼻を鳴らすロッドをたしなめるハーヴェだったが、彼のことなんぞ視界にもはいらないとばかりにアーサーをロッドがにらみつける。



「貴様についてくるのではない。俺に貴様がついてくるのだ‼ 俺が聖剣を手にするところを目の前で見ているがいい」

「さっすがロッド兄さん‼」

「ふん、『終焉の猫』だかなんだか知らんが、俺の王道を邪魔させてなるものか‼」



 口は悪いが優しい? 兄に感動しているアーサー。そして、話はまとまったタイミングで咳払いをしてハーヴェが咳払いをする。



「それではロッド様とアーサー様たちは聖剣を見つけてきてください。その間に私がカーマインを説得しておきましょう。本当は王都で民衆を避難させたいのですが、約束は守られなば民衆の信を失いますからね」 

「お待ちください、ハーヴェ様。ブリテンと砂漠の民の和平は私にまかせてはいただけないでしょうか?」



 それまで黙って話を聞いていたボールスに視線が集中する。自らよりも身分が上の人間の視線に緊張したのか、一瞬びっくとするが意を決したように続ける。



「父は僕が砂漠の民と婚約したことがきっかけで、怪我を負ったことがきっかけでより砂漠の民を憎んでいます。僕は彼らを恨んでいないっていうのに……」

「ああ、その事情はカーマイン男爵から聞いているよ。砂漠の民に誘惑された息子を助けてやってほしいと言われたからね。だから君には王都にきてもらったんだ」

「ええ、怪我をした僕は目を覚ましたら王都に運ばれてあなたの部下と働くことになっていました。もちろん、感謝はしています。でも、それではだめだったんです。僕はあの時ちゃんと話すべきだったんです。だけど、父がこわいこともあり逃げてしまいました」



 ボールスが悔しそうに唇を噛んだあとに、アーサーを見つめてうなづく。



「ですが、五大害獣のような化物と戦って命を落とすかもしれないというのに、みなさんは逃げるという選択肢を選ばなかった。だったら、ぼくも逃げてはいられないって……せいぜい殴られるくらいですしね」

「そうか……ならば君にカーマイン男爵の説得は任せよう」



 なんか知らないけどとりあえず問題は解決しそうだなとほっと胸をおろしていると、モルガンがこちらを見つめているのに気づく。



「いったいなんだ?」

「なんでもないわ。ただ、あなたは色々な人を変える力があるんだなって思っただけよ」

「本当にいったいなんだ?」

「またそうやって、知らないふりをする」



 わけのわからないと首をかしげるがモルガンはなぜか満足そうにうなづくだけである。



「アーサーよ、貴様の精鋭の騎士を集めておけ、一秒でも惜しい。すぐに向かうぞ」

「ああ、任せてくれ、ロッド兄さん」



 そして、アーサーたちは聖剣が眠るという森へとむかうのだった。



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