122.王都を襲う魔物
「今、戻ったぞ」
「お、ハーヴェ久しぶりだな。あれ、なんでモルガンたちもいるんだ?」
ミランダには外に待ってもらいロッドと共にハーヴェたちが借りているに戻ったアーサーが扉をあけると、そこではハーヴェとモルガンが何かを話し合っていたようだ。
「まさか本当にロッド様を説得するとは……」
「アーサー皇子……さすがね……私の方も『万能の木の実』を使って話はつけておいたわ。これで戦いは避けられるわよ」
「あ、ああ……」
なぜか驚いているハーヴェと得意げな表情でこちらを見つめてくるモルガンにアーサーは状況がよくわからずうなづくアーサー。
その様子に不快そうな顔でロッドがロザリオを取り出す。
「ふん、すべては貴様の計画通りということは不愉快だが……。これさえあればこんなところに用はない」
「まさか、それが『聖王の遺物』とやらなのですか? 一体何のためにそれを……」
「貴様らに伝える必要はあると思うか?」
モルガンの疑問に答える気はないとばかりににらみつけると、ロッドはカバンにしまいハーヴェに命令する。
「黄金小麦への賠償として『万能の木の実』と『聖王の遺物』は確かにもらった。あとはすでに騎士たちを派遣しているカーマインを説得するかだ。何か良い案はないか? 最悪報奨金で納得してくれもらうか……」
「そうですな……カーマイン男爵は息子の目の輝きを奪った砂漠の民と戦うきっかけをずっと探していました。お金では解決しないかもしれません。最悪命令が届かなかったと言って騎士を一気に砂漠に派遣する可能性もあるかと……」
「やつの復讐心を利用したがこうなると厄介だな」
カーマインは息子が砂漠の民とのもめごとで利き目を失い、騎士としての未来が閉ざされたことをずっと恨んでいた。
数年前の戦い以降、国からの命令で砂漠の民とは戦うなと命じられていたためフラストレーションはかなりたまっているだろう。
「え、ロッド兄さんも手伝ってくれるのか?」
アーサーが驚きの声をあげるとロッドは不快そうににらみつけてくる。
「俺を馬鹿にしているのか? 貴様が『聖王の遺物』をよこしたら砂漠の民への攻撃をやめると約束しただろうが‼ 皇子たるもの約束を違える真似はせん‼」
「ふふ、やっぱりロッド兄さんはかっこいいな」
「俺のことはロッド兄さまと呼べと言っているだろうが」
いつものやり取りをするロッドにアーサーが嬉しそうに笑う。それを見たモルガンが不思議なものを見るような表情でつぶやく。
「なんだかんだアーサー皇子とロッド皇子って仲良しなのよね……」
そして、どうカーマインを説得するかに話題が変化した時だった。扉が乱暴にノックされ入ってきたのはボールスだった。
「大変です、ハーヴェ様‼ 今魔法で伝令が飛んできて、王都に『五大害獣』が現れたとのことです」
「な?」
声をあげたのは誰だっただろうか。皆が皆その言葉に驚きの表情を隠せないのであった。
★★★
ここはブリテンのモードレットの部屋である。質素な机の上でノート広げてうめき声をあげている影があった。
「ああ、やっぱり……黄金小麦で大きな魔力を使ったから復活が一回目や二回目よりはやいじゃないか……救援がまにあうといいけど」
モードレットである。彼はノートを見つめて大きなため息をつく。
「入るぞ」
ノックもなく、やってきたのはアグラヴェインである。派閥の長である彼がこの部屋にやってくるのは珍しいことではないのだが、その表情からついにきたかとモードレットは少し憂鬱になる。
「このままではブリテンはダメになる。革命をおこすぞ。お前がその旗頭になるのだ」
「この状況でもあなたは変わらないか……」
「なに?」
衝撃的な提案のはずなのにむしろあきれてすらいる様子にモードレットにアグラヴェインが眉を顰める。
それに対して彼はつまらないそうに口を開く。
「あなたがそう言ったのは三回目だよ」
「どういうことだ? そんなはずは……」
「一回目は断り、結果アーサー兄さんが王になったけど、『五大害獣』に滅ぼされて終わった。二回目は革命をおこして、アーサー兄さんとロッド兄さんを処刑して、魔法を禁止したけど、結局『五大害獣』は復活してしまった。だから僕は自力でのブリテンの救済はあきらめたんだ。アーサー兄さんに託してこれからだっていうのに……」
「何をわけのわからないことを言っている。気が触れたかモードレット‼」
異常者を見るような目でアグラヴェインが後ずさると、モードレットが鐘を鳴らす。すると扉が乱暴に開けられて金髪の騎士が現れる。
「ガウェインよ、アグラヴェインは革命をおこし、ブリテンを混乱に陥れようとした。とらえよ」
「は、わかりました」
「なぜ、こいつが‼ お前を王にするために私がどれだけ苦労したと思って……ぐあ」
抵抗するアグラヴェインをガウェインが気絶させる。
「彼の別荘に革命の証拠が出てくるはずだ。騎士たちを派遣してくれ」
「は、わかりました。ですが、なぜあなたはいきなりアーサー様を王にすると決めたのですか?」
「うん? そうだね、せっかく協力してくれたんだ。説明するのが筋だよね」
そう、アーサーの派閥であるガウェインにアグラヴェインが革命をおこそうとしていると訴えたのモードレットからである。後継人であるアグラヴェインを捕らえればモードレット派はほぼ壊滅するにもかかわらずだ。
「アーサー兄さんが……人の心がわかるようになったからかな」
「はあ……人の心ですか……」
釈然としない顔をして出ていくガウェインに内心申し訳ないと思いながら、モルガンと楽しそうに踊っているアーサーを……平民とめんどくさそうに勉強しているアーサーを思い出して笑う。
元々兄さんは僕なんかよりも優秀なんだよ。とモードレットは思う。
彼の不幸は治癒能力が高すぎたことだろう。それゆえに権力を持つだけの俗物に利用されることになり甘やかされて様々な人間と接する機会を奪われてしまった。
今回の人生で何度か接触しようにも彼に『善行ノート』をわけあたえたからだろう前の人生の記憶があるため警戒されてちかづくこともできなかった。
「まあ過ぎたことはいいさ。ロッド兄さんに聖剣の情報も与えたし、彼女がくれば時間を稼ぐくらいはできるかな?」
誰もいない部屋でモードレットがノートに予想通りの文字が出て安堵していると規則正しいノックの音が聞こえてきた。
「どうぞ」
「……私はアーサー様に呼ばれてやってきたのですが、これはどういうことでしょうか?」
開いた扉の前に立っていたのは金髪の美しいエルフだった。彼女の名はエレイン。クラストンベリーの聖女である。
「建国祭ぶりですね、エレイン様。お元気そうで何よりです」
「私はなぜアーサーの名前で呼び出したのと聞いているのよ、第三皇子‼」
警戒心たっぷりににらみながら仕込んであったメイスを慣れた手つきで構える彼女に三回の人生での清楚なイメージが崩れるのを感じながらモードレットは慌てて敵ではないと両手をあげてアピールする。
「まずはだましたことは謝ります。ですが、このブリテンにとんでもない危機が訪れており、それを超えるにはあなたのお力が必要なのです。そのため兄の名をかたって呼び出させていただきました」
「ブリテンの危機ですって……? いえ、危機ですか?」
慌てて口調を戻すエレインに苦笑しながら思う。
正直アーサーの筆跡をまねて手紙を送ったとはいえ予想よりもはるかに早い到着に驚きながらモードレットは説明を続ける。
「はい、この地に眠る魔物のことをエレイン様はご存じでしょうか?」
「ええ、かの聖王が『五大害獣』を倒したこの地にブリテンを建てたと聞いたことがりますが……」
「さすがはエルフですね。我らブリテンの民ですら歴史に詳しいものしか知らないというのに……」
「くだらないお世辞は不要です。その『五大害獣』と私を呼び出したことがどう関係を……この魔力……まさか……」
何かを察知してしまったのか、驚きの声をあげるエレインにモードレットがうなづく。
「聖王ですら、この地に封印することしかできなかった五大害獣の中でも最悪の獣と呼ばれ忌み嫌われた『終焉の猫』が復活するのです」
「そんなのが現れたら大国であるブリテンとは言えども……」
「ええ、あっさりと滅ぶでしょうね。かつての聖王のような人間が聖剣を手にして立ち向かわなければ……」
そう、一度目の人生ではアーサーが傀儡の王になったブリテンはあっさりと滅ぼされた。
そして、二度目の人生でモードレットが革命をしたあとは彼は聖剣を抜くことができずはできたがその力を発揮させることができずに滅んだ。
「アーサー様はどこにいるの? あの人がいれば……」
「今頃、聖剣を探しているはずです」
モードレットは胸の中にあるノートに確かに書かれた文字を思い出して、エレインに頭を下げる。
「兄が戻ってくるまで僕はブリテンの民を避難させようと思います。ですが、第三皇子の言葉では民衆も貴族も従わないでしょう。だから、あなたの名声とお力を借りたいのです」
「……わかりました。民衆に被害が及ぶのを放ってはおけません。それにアーサー様も悲しむでしょうし……」
「もちろん、ただではと言いません。僕の持てる数少ない権力を駆使してあなたをアーサー兄さんと結ばれるように手を尽くしますよ」
「な……別に私はあの方のことなんて……」
そんな場合ではないとはいえ先ほどまでの人を寄せ付けない感じはどこにいったやら顔を赤らめるエレインに可愛いなと思うモードレットだった。




