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121.ロッドの実力

「ここがアーマーサソリの巣になります。それにしてもこれがブリテンの騎士の力ですか……」

「すでに結構な戦いがおきているようだな」


 猛スピードでやってきたアーサーたちを待っていたのはアーマーサソリの死骸たちだった。確かにアーマーサソリは強敵ではあるが、砂漠に詳しいカーマインの部下と、王族の護衛を任されるくらい優秀な騎士たちの前ではたいした敵ではなかったのだろう。



「誰かが戦っている音がするな……ロッド兄さんか?」

「なら急ぎましょう。あなたと親しい皇子に万が一があったら面倒なことになります」

「いや、多分大丈夫だと思うが……」



 アーサーの言葉も聞かずにミランダがクリムゾンアローを急がせる、そして、向かった先に見た光景は……



「ふん、砂漠の魔物は強力だと聞いたがたいしたことないな」

「さすがはロッド様です。すごい、すごい」



 ひときわ巨大なアーマーサソリを美しい装飾のされた甲冑身に着けた少年が一閃の元に屠り、無表情なメイド服の少女が気のない声で拍手していた。

 そして、その少年は周りで戦っている騎士たちのサポートをしつつ他のアーマーサソリも切り倒していく。



「群れのボスを倒すだけでなく、サポートまで……あの騎士……強い……」

「だろ、俺の自慢の兄さんだからな」

「え? あの方が兄なのですか……?」



 ミランダが間の抜けた声をあげるが、それを無視してアーサーがまるで街中で友人に出会ったかのようにして大きく手を振った。



「おーい、ロッドにいさーん」

「ん? アーサー? なぜここに? ええい、俺の邪魔をするな、魔物風情が‼」



 突然の声に驚くロッドだったが、即座に魔物たちを蹴散らしていく。そして、周囲のアーマーサソリを倒したロッドとその騎士は正面からアーサーとミランダ、クリムゾンアローと対峙した。



「その様子……砂漠の民に捕まった……というわけではなさそうだな」

「ああ、そうなんだよ、ロッド兄さん。俺は彼らと和解したんだ」

「あの……お二人は仲良しなんですよね?」



 笑顔で答えるアーサーとは裏腹にロッドの周囲の騎士たちは緊張した様子で武器をかまえているのを見てミランダが恐る恐るアーサーに問う。



「当たり前だろ、俺とロッド兄さんは兄妹なんだぞ」

「ロッド兄さまと言えと何度教えればわかるのだ。貴様は‼ それよりもだ……」



 ロッドの警戒心に満ちた瞳がミランダとクリムゾンアローに向けられる。



「アーサーよ、まさか、砂漠の民と共謀し、俺を亡き者にしようというわけではあるまいな」

「何を言っているんだ、俺がそんなことをするはずないだろう。それよりもだ。俺はこの戦いを止めに来たんだよ」

「戦いを止めるだと? 黄金小麦を奪った盗人どもを許せというのか?」

「もちろん、ただでとは言わない。砂漠の民に伝わる『万能の木の実』をもらったんだ。それをお詫びとしてくれるそうだ。それでハーヴェのやつは納得するだろう」

「なるほどな……だが、それだけでは甘い」



 アーサーの言葉に怒鳴り返すロッド。



「それでハーヴェは納得するだろう。だが、俺たちは納得しない。そもそもだ。食物を奪われてなあなあにしては周辺国から舐められるだろうが‼ これを期に砂漠の民たちを教育しブリテンの民にしてやるいい機会だとは思わないのか‼」

「な、あなたは我々を武力でおさえつけようというのですか‼」

「当たり前だ。優れた血を持つ王族や貴族に管理されるてこそ貴様ら愚民どもは幸せになれるのだからなぁ‼」



 自分たちを愚民と言い切るロッドに顔を引きつらすミランダだったがその殺気に思わず、気圧されているとかばうように一歩前に出る影があった。



「兄さん……それは言いすぎだろ。それに彼らは彼らなりの文化で生活しているんだ。一度でいい。城から出て外を見てくれ。王城での生活ではわからなかったけど、色々な人々が色々な生活をしているんだ。彼らと協力をすればブリテンに住む人たちはもっと幸せになれると俺は思う」



 目の前のロッドがかつての……革命がおきて、必死に駆けずり回ったときの自分と重なったアーサーは珍しく真剣に兄に訴える。そう、ずっと城に引きこもり、貴族たちと話していた前の世界ではわからないことがたくさんあった。

 あの時はなんですべてがうまく回っていたのに俺たち王族に逆らうのだろうとなぜか民衆はあんなに怒っていたのか本当にわからなかったのだ。

 自分たちが贅沢をしている裏で苦しんでいた人がたくさんいたことにも気づかずに……。



「何を生意気な‼ 俺と同じように王城で暮らし、貴族たちに囲まれていた貴様になにがわかるというのだ‼ お前は治癒だけしていればよいのだ」

「わかるさ……俺はそれじゃあだめだと誰よりもわかっている。彼らの生活を尊重せずにこのまま貴族たちがしめつけるだけじゃ革命が起きるぞ‼」



 だけど、孤児院で平民の生活を知り、ドルフでドワーフたちの職人魂を知り、砂漠の民と接して彼らの生活を知った。それはブリテンの貴族とは全然違う生き方だったけど、不幸だとは思わなかった。むしろ様々選択肢があってよいのだとアーサーはそう思い視野の狭くなっているロッドに伝えたかったのだ。

 今回の人生で学んだことを思い出しながらアーサーは必死な表情で訴える。何ども言っているがアーサーは本当にロッドのことを大好きな兄と思っているのだ。



「革命だと……何をばかなことを……」

「ロッド様発言の許可を」



 鼻で笑うロッドとかつてなくなく真剣な瞳で二人のやりとりを見ていたメイド十四番が手をあげる。



「ふん、いいだろう。特別に許可してやる」

「ありがとうございます。ロッド様」



 砂漠だというのにメイド服のメイド十四番が美しい所作でアーサーの方を向いてお辞儀をする。そして、その時にロッドには見えないように何かを伝えるかのようにウインクした。



「派閥の違うお二人がここで話をしても水掛け論です。ならばここはロッド様が器の大きさを見せつけてあげるのはいかがでしょうか?」

「俺に引けというのか?」

「いえ、ただ、ここでアーサー様とぶつかりあうのは得策ではないですし時間の無駄です。 ロッド様が本当に求めているのは砂漠の民の血なんかではないはずです。いっそのこと砂漠の民を救うかわりにアーサー様に探させるのはいかがでしょうか?」



 にらみつけるロッドにも一歩も引かずに無表情にメイド十四番が提案すると、彼はしばらく悩んだ結果あざけるような笑みを浮かべる。



「はは、確かにそれもあるな。いいだろう。アーサーよ、砂漠の民の命が惜しいというのならばこの地に眠る『聖王の遺物』を探してこい」

「聖王の遺物だって……」

「確かに砂漠の民は聖王と交流はありましたがそれはかはるか昔の話です。そんなものを探すなんて……」



 きょとんとした顔をしたアーサーと情けない声をあげるミランダにロッドが意地の悪い笑みを浮かべる。



「もちろん、お前がもってくるまで俺は砂漠の民を狩り続けるし、和平にも応じない。こちらが一歩引いたのだ。これ以上の妥協はせん」

「聖王の遺物ってなんだ……」



 もちろんアーサーはそんなものが砂漠の民の元にあるなんてしらない。それっぽいものといえば一応ロザリオだが……。

 何気なく触れると試練の谷でのやりとりが思い出されていく。

 あの時変な空間であったのは……。



「ロッド=ペンドラゴンが約束しよう。証人はわが騎士たちだ。皇族として約束を違えることは……」

「なあ、ロッド兄さん。『聖王の遺物』ってもしかしてこれか?」



 得意げにしゃべっていたロッドだったが、アーサーが懐から出したロザリオを見て間の抜けた声をあげる。



「は? これは一体どうしたというのだ?」

「ああ、それがな、試練の谷で拾ったんだよ。その時に多分聖王らしき人間と幻覚を見たから多分間違いがないと思う」



 平然とした表情で説明するアーサーにわなわなと震えながらロッドは部下を呼びつける。



「おい、これから魔力を感じるか確認しろ」

「はっ」



 あわててロッドにもとにかけだしてきたプリーストはそのロザリオに触れると驚きの声をあげる。



「これはすさまじい魔力です……少なくとも国宝級です……まさか本当に『聖王の遺物』では?」

「貴様ぁぁぁ‼ 俺の狙いがわかっていながら、こちらが取引をもちかけるのをまっていたというのか‼」



 ロザリオを手をたたきつけんばかりの怒りをあらわにしてアーサーをにらみつけるロッドに、アーサーが何を言っているんだとばかりに答える。



「何を言っているんだ、ロッド兄さん。そんなことを俺が知っているはずがないだろう。偶然だって」

「アーサー様煽りすぎです……」



 アーサーがロザリオを手に入れたのも、ロッドがそれを持っていたのも本当に偶然なのだが、あまりのタイミングの良さにロッドはそうとは思わず彼の手のひらで踊っていたと勘違いしうなり声をあげる。



「うぐぐぐぐぐぐぐ」

「それよりもロッド兄さん。さっきの約束は……」

「わかっている‼ 皇子である俺に二言はない。だが、城に来てハーヴェを説得するのは手伝ってもらうぞ」



 半ば怒鳴りながら踵を返すロッドと、無表情で頭を下げてそれについていくメイド十四番を見送って、ようやく脱力するミランダ。



「アーサー様……あなたはどこまで計算していらっしゃるのですか?」

「何を言っているんだ? 俺はたまたま拾ったロザリオをロッド兄さんにわたしただけだぞ」

「もう……そういうことにしておきますね。アーサー様……本当にありがとうございます」

「気にするな、俺たちは仲間だと言っただろう」

 


かしこまるミランダに何をいっているんとばかりに肩をすくめるアーサー。それを見て、彼女の瞳に尊敬の念が強まったのだが、もちろん気づかない。

 だって、アーサー的には拾ったものをおしつけただけにすぎないのだから……。



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