119.モルガンによるアーサーの狙い?
しばらく、ミランダと共にロッドを探しに行ったアーサーの後姿を見つめていたモルガンだったが、小さくため息をつくといつもの無表情に戻る。
「さあ、私たちの方でも砂漠の民の避難を手伝いましょう。カーマイン男爵も砂漠の歩き方はわかっていても、砂漠の民の拠点まではわからないはずよ」
「ふふ、モルガン様はアーサー様ならばこのピンチを乗り越えられると信じているのですね」
少しからかうように問いかけるトリスタンだが、そんな彼に何をいまさらとばかりにつめたく返事をする。
「当たり前でしょう。彼ができるといったのよ、信じて行動するのが婚約者の務めでしょう」
「ですが、少し複雑そうなのはあんなにミランダに密着してずるいなぁ……っていうことでしょうか。あの方は人との距離が近いですからね、苦労しそうですね」
「余計なことを言っていないで、さっさと働きなさい」
図星だったのか、モルガンの瞳が冷たさを増す。そう、砂漠での移動でモルガンが役にたてることはない。
そうわかっていても彼がミランダを頼ったこととに少し嫉妬しているのである。だが、彼女はその自分の感情の変化を悪いとは思っていなかった。
「本当に人たらしなんだから……」
誰かに恋をするなんて思ってもいなかった。ブリテンのために父から継いだアヴァロンを指揮するだけの人生だと思っていたがアーサーとの出会いによって彼女は変わっていった。
やっていることは同じはずだが誰かのために動くというのは新鮮な上に予想通りにいかないことも多く楽しかった。
「今はまだ何を考えているかすべて話してくれないけど、いつかちゃんとあなたの考えをわかるようにがんばってみせるわ」
今もアーサーが策略を練っているのだと勘違いしているモルガンは少し誇らしげにつぶやく。まさに恋は盲目である。
そして、トリスタンと共に砂漠の民の避難を手伝っていると、急ぎ足でこちらにむかってくる二つの影があった。
「モルガン様‼ アーサー様はどちらにいらっしゃいますか?」
「ランスロット? 一体どうしたの。そんなに慌てて……」
よほど急いできたのか汗だくのランスロットがこちらに走ってきたのである。息を切らしていないのはさすがと言えよう。
だが、やたらと女性の前でかっこつける彼のその姿にトリスタンは違和感を覚えた。
「まさか、もうこの里の場所がばれたというのですか‼」
「違う……それよりもアーサー様はどこにいるのだ?」
珍しく動揺しているランスロットのあとから息も絶え絶えの青年がやってくる。
「はぁはぁ……待ってくれランスロット……早すぎるよ」
「遅いぞ、ボールス‼」
「僕は体を動かすのは苦手なんだよ……」
「それで何があったのかしら?」
ボールスという騎士が息を整えるのも待たずにただならぬ気配を察知したモルガンがランスロットに問う。
「ロッド様がわざわざこちらに来た理由がわかったのです」
「それは……砂漠の民への報復じゃないの?」
いまさら何を……と言わんばかりのモルガンだったが、ランスロットは首を横に振る。
「それが違うのです。他人が傷つくのを嫌がるアーサー様ならば自ら死地だろうが突き進むでしょう。ですが、ロッド様は目的を果たすまでとまりません。むしろアーサー様を利用しようとするでしょう。なので止めに来たのです」
「アーサー皇子はもうロッド皇子と話し合いにいってしまったわ。ロッド皇子の目的ってなんなのよ」
なんとか呼吸を整えたボールスがようやく口を開く。
「ロッド様はこの地に聖剣の眠る泉へのカギとなる『聖王の遺物』をさがしに来たのです。黄金小麦の件はハーヴェ様を説得し兵を動かすためのきっかけに過ぎないんです」
「聖剣って、ブリテンの危機を救う際に聖王がつかったという『エクスカリバー』のことよね……なんで砂漠に……」
そこまで言いかけてモルガンは一つの答えに至った。
「なるほど、わかったわ・アーサー皇子はそこまで考えていたのね‼」
「なにがわかったのですか、モルガン様?」
「今回の建国祭では、アーサー皇子は自分の事よりもブリテンの食糧問題を重視したため王位継承争いでロッド皇子にそこまでのアドバンテージをとれなかったわ。だから、彼は次の策を練っていたのよ」
トリスタンの疑問にモルガンが珍しくどや顔をうかべる。
「だから、聖王の聖剣に目をつけたんでしょうね。聖王と砂漠の民は親交が深かったことを知っていた彼は砂漠の民について調べて何かの情報を掴んでいたんじゃないかしら。だから、アグラヴェインの誘いに乗ったのよ」
「なるほど……確かにそう考えればあきらかに罠とも思える今回の話にのったのも納得できますね。黄金小麦で食料の危機を救った話は有名です。砂漠の民が接触してくることも予想していたのかもしれませんね。まあ、あの方の事ですから、砂漠の民を救いたいというのも本音でしょうが……」
何度もアーサーおこした奇跡ともいえる所業を間近で見てきた二人は納得したようにうなづく、何をいっているんだとばかりにランスロットが声をあげる。
「お待ちください。そんなことが可能なのですか? まるで未来予知でもしているかのようではありませんか?」
「未来予知……私たちにはそう見えるかもしれないけど、あの人にはそれが当たり前なんでしょうね。ねえ、ランスロット、試練の谷でアーサー皇子が何かてにしていたりしなかったかしら」
「それは……美しいロザリオを見つめしばらくぼーっとしてましたが……まさかそれが『聖王の遺物』なのですか?」
「やっぱりね、もう少しくらいはなしてほしいものね」
畏怖の表情を浮かべるランスロットと、ボールスにモルガンが自分の事のように誇らしげな表情を浮かべる。
「おそらくアーサー皇子のことだから、ロッド皇子の事も想定内でしょう。なら、私たちは別方面でサポートしましょう。万能の木の実をもってハーヴェを説得するの。あなたたちカーマイン男爵の元へいくわよ」
「はっ‼ やはりモルガン様はアーサー様の役に立てると思った時が一番幸せそうですね」
「うるさいわね。婚約者なんだからあたりまえでしょう」
そういうとモルガンとトリスタンは荷物をとりにテントへと戻っていく。残されたランスロットとボールスはしばらく唖然としていたが、先にボールスが口を開く。
「だったら、僕がモルガン様たちをハーヴェ様たちの元に案内しよう。そっちの方がスムーズに進むはずだ」
「本気で言っているのか? 貴公はロッド皇子の派閥なのだろう。私たちと一緒に行動するのはまずいんじゃないか?」
一見ボールスの立場を気にしていくれているような物言いだが、ランスロットの瞳は氷のように冷たくボールスもそれをわかっているとばかりに気まずそうに答える。
「今更信用してくれとは言わないよ。不審な点があったら斬ってくれてかまわない。ライラが助けてくれた命だけど、君には僕を断罪する権利がある」
「ライラの事を覚えていたのだな……」
「当たり前じゃないか……僕が父に無理に頼んで、ロッド様の派閥に加えてもらったのは、砂漠の民とブリテンの仲をよくする方法を探すためだったんだから……」
そうつぶやくボールスの表情は良く見えない。もちろん、ランスロットは彼の言葉を信じたわけではない。ただ、ライラを失ってからろくに会話をしたことはなかったということを思い出すだけだった。




