117.ランスロットとブリテンの騎士
「これはまずいな……」
遠くに見えるブリテンの騎士たちにランスロットは思わず眉を顰める。
その戦いがおきたのは本当に偶然だった。祭りだというのに見張りの当番だと投げていた砂漠の民が探索していたブリテンの騎士をアーサーの仲間だと勘違いして声をかけてしまったのである。
結果ブリテンの騎士に攻撃され逃亡した結果、砂漠の民の里のだいたいの場所がばれてしまったのである。
「あなたもブリテンの騎士なのだろう。説得できないのか?」
「難しいだろう。彼らの主はロッド様で派閥が違うんだ。一介の騎士の話なんて聞かないよ」
「あんたらブリテンは色々とめんどくさいんだな。俺たちは族長にだけ忠義を誓っているのに……」
「人が増えれば色々おきるさ。それに今はこの格好だ」
肩をすくめるランスロットは甲冑を脱いでおり、砂漠の民の民族衣装に身を包みその腰にはシミターと呼ばれる彼らの剣をさしている。
何も知らないものが見ても彼がブリテンの騎士だとは気づかないだろう。
「アーサー様の探索に来たというのならばいいが……もしも、黄金小麦の報復だとしたらまずい……」
前者ならば、アーサーを連れて行けばいい。だが、後者だった場合は良くも悪くも有名なランスロットならば問答無用で手伝えと命令されてしまうだろう。
逆らえば反逆罪として訴えられるかもしれない。
「別に戦って勝つだけならできるだろうが、それではアーサー様に迷惑がかかる上に、禍根も残る……」
それもあって、彼は今は砂漠の民の格好に偽装しているのである。
「じゃあよー、あんたらのリーダーのアーサー様に説得してもらうことはできないのか? 元々あの人は俺たちとブリテンを仲直りさせるために来てくれたんだろう。
「うむ……それが一番なのだがな……」
アーサーとロッドの仲の悪さは城でも有名である。というよりも長男であるロッドよりも治癒能力のおかげで目立っているアーサーに嫉妬してつっかかっているのが正しい。
「最悪この状況を利用してアーサー様を亡き者にするかもしれぬ」
それだけは阻止しなければならない。ランスロットにとって、アーサーはライラとの夢をかなえるための希望だった。いや、それだけではない。彼こそが自分が真に使えるべき人間かもしれないのだ。
「よし、とりあえず相手の情報を得るか」
「ん? 何をする気だ。相手は十人くらいいるんだぞ?」
シミターを抜いて散歩でもするかのように騎士の方へと向かうランスロットに砂漠の民が驚きの声をあげる。
「たかが十倍だろう? この程度私の敵ではない。それよりも適当に捕虜にしてくるからサンドウォームの準備を頼む」
「待てって、あんたはシミターを使ったことないんだろ。なれない武器で戦えるのかよ?」
もっともな心配を無視して接近するランスロットに騎士たちが気づく。
「お前は……砂漠の民か‼」
「ちょうどよかった、聞きたいことがあるんだ」
「質問をするにしては剣に手を書けるとはどういうことかな? 貴公らは礼儀を知らないものだと見える」
臨戦態勢の騎士たちをランスロットがたしなめるも騎士たちは鼻で笑う。
「はっ‼ 砂漠の民ごときが俺たちブリテンの騎士様と対等だと思うなよ」
「生意気な奴だな。素直にしゃべれるようにしてやるよ‼」
完全に見下した態度で斬りかかって来る騎士たちだったが、これは何も彼らが特別ひどいわけではない。
ここら周辺一の強国であるブリテンの騎士たちは自分たちこそが優れていると思っているのだ。ましてや、貴族主義を掲げているロッドの配下は貴族の三男などが多く、特権階級に慣れたものが多いのである。これもまたブリテンの闇の一つだった。
「嘆かわしい……少しはアーサー様を見習いたまえ」
「な?」
最初に斬りかかってきた騎士の一撃をシミターで受け流すとそのまま、柄で相手のあごに強い一撃を与え、次の斬りかかってきた騎士に蹴りをかまして距離を取る。
身軽な格好で相手をほんろうするという砂漠の民の戦い方をランスロットは完全にマスターしていた。
「ふむ……受け流しつつ相手の隙をつくか……確かに重装備ができない砂漠にはよくあう戦い方だ。だが、みねうちが難しいのと、受け止めれば壊れるほど薄い刀身はなかなか扱いずらいな」
まだ数人の騎士に囲まれているというのにランスロットは彼らには興味を持たずにシミターの感想をつぶやく。
握っただけで慣れない武器の使い方を理解しているのだが、ランスロットを砂漠の民だと勘違いしている騎士たちはそのすごさに気づいていない。
「まあいいだろう。トリスタン卿や、ガウェイン卿相手ならば難しいが貴公らくらいならば相手ではない」
「なめるなぁぁぁ‼」
挑発されたと激昂した騎士たちが訓練された動きでランスロットを囲むようにして、斬りかかる。
「なめてはいない、ただの現実だよ」
それを先ほどよりも洗礼された動きでシミターをふるうとそのまま騎士たちが倒れていく。
「ふむ、捕虜はこんなにはいらないな……すまない。彼らを安全なところに運んでくれないか? 私は尋問を終えたらアーサー様に報告しに行く」
「あ、ああ……あんたすごい強いんだな」
「力がなければ救えないものがいると知ったからね、必死に学んだだけだよ」
そう過去を思い出して苦笑し、ランスロットが去ろうとした時だった。
「待ってくれ……捕虜にするならば僕にしてくれないか?」
「お前は……」
他の騎士とは違い戦わず、砂に身を隠していたらしき騎士の声にランスロットは大きく目を見開くのだった。




