116.新たなる戦
時間はアーサーたちが捕らえられた日に戻る。
「ふはははは、砂漠の民め、このロッド様の『黄金小麦』に手を出したことを後悔させてやろう」
豪華な馬車に乗りカーマインの元へと向かっているロッドは馬車の中で己の勝利を確信していた。建国祭ではそこまでの差はつかなかったが、長年ブリテンを苦しめていた砂漠の民を従属することができれば彼の王位継承争いで有利になるのは間違いないだろう。
「食べ物の恨みは怖いというが……まさかお前がここまで本気になるとは思わなかったぞ」
「何をおっしゃいますか、ロッド様。『黄金小麦』は我らが美食を求め作った最高の食材です。それを奪われたとなれば笑ってはいられません」
いつもは笑顔を絶やさないハーヴェだが、今の彼の瞳は強い怒りに染まっていた。
「それよりも、ロッド様。わかってらっしゃるとは思いますが、アーサー様はちゃんと保護するのですよ」
「ああ、わかっている。まったく、功を焦って少人数の騎士で砂漠の民を倒そうとして行方不明になるとは実に愚かだな」
元々戦う準備はしていたロッドたちの耳にアーサーが国境沿いの都市の領主であるカーマインの元を訪れたことは耳に入っていた。
そして、とある筋から連絡があったのである。彼らは砂漠の民に捕らえられたのだと……。そして、もう一つの情報があった。
「それに砂漠の奥地にあるという『聖剣』へのカギが眠っているのだろう? それさえ見つかれば俺の王への道はゆるぎないものとなる」
それはかつて『聖王』が手にしていたという象徴ともいえる剣だった。その剣に選ばれたとなれば父もロッドの評価を上げるに違いないと考えたのだ。
「ふふ、アーサーめ。俺に助けられたうえに王位を奪われ悔しさのあまり泣く姿が想像つくぞ」
楽しそうに笑うロッドをハーヴェが複雑な表情で見ているのに彼は気付かない。ため息をついたハーヴェは控えさせていた部下に声をかける。
「ボールス、我々は砂漠での戦いにあまり慣れてはいません。あなたの父であるカーマイン男爵にも頼らせていただきます。期待していますよ」
「は、お任せくださいハーヴェ様‼」
気弱そうな左目に眼帯をつけた青年……ボールスは上ずった声で答える。そして、馬車はようやく、カーマインの城へとたどり着くのだった。
★★★
騒動を聞きつけたアーサーは早速モルガンと合流する。トリスタンとランスロットは砂漠の民と共に現状の把握すべく砂漠へとむかっている。
「ブリテンが攻めてきただと⁉ まさか、ハーヴェか⁉」
「まずいわね……建国祭で、差をつけられるロッド皇子が焦っていたのは知っていたけど、想定よりも早すぎるわ。このままだと、あいつらは私たちごと亡き者にしようとするかもしれないわ」
貴族主義であり、過激なところもあるロッドならやりかねないと、眉をひそめるモルガンだったが、アーサーは何を言っているだとばかりにモルガンをたしなめる。
「いや、ロッド兄さんと俺は仲良しだぞ。そんなことにはならないって」
「そうなの……? とはいえ、砂漠の民との戦いになったらまずいわ。貴族主義である彼らは異国の民に容赦しない。砂漠が血で染まってしまうわ」
もちろん、ブリテンも無傷では済まないだろう。そうすれば国力の低下は免れない。
「それはいやだな……」
モルガンの言葉にアーサーも険しい顔をする。なぜならば『善行ノート』がまだ光っていないのだ。ランスロット共に和解したといえば和解したが、新しい危機に見舞われている。それにだ……このまま戦いになればたくさんの人が痛い思いをするだろう。クッキーをあげて喜んでくれた少女や、好きな人と踊って楽しそうにしていたり、年に一度のご馳走だと騒ぐ砂漠の民を見てアーサーはブリテンの人間たちと何も変わらないということを知った。そんな彼らが傷つくのは……『善行ノート』の件を差し置いても気持ちの良いものではなかった。
テントの入り口が開かれるとトリスタンがやってきた。
「ただいま、戻りました」
「おかえりなさい、それで状況はどうですか?」
急いできたのだろう息を荒くなっているトリスタンにねぎらいの言葉をかけるモルガン。だが、トリスタンの表情は芳しくはない。
「そうですね……遠目にみましたがかなりの数の騎士たちにこの里を探索させているようです。見つかるのも時間の問題でしょう。それまでに我々もどうするか決めなければいけませんね」
「そう……もう少し早く解決してカーマイン男爵に話を通せればよかったのだけれど、このタイミングでは罠だと警戒されてしまうわね。それで、あなたはどうすればいいと思うかしら?」
「え、どうするって?」
いきなり話をふられて間の抜けた声をあげるアーサーにモルガンが少しすねたように唇を尖らせる。
「もう、わかっているくせに……今のうちにここから非難して、カーマインを通してロッド様たちを説得するか、ここに残って戦場でロッド様たちを直接説得するかよ。ロッド様ならまず間違いなく前線に出てくるもの」
「つまりは安全ですが時間のかかる方法か、危険ですがすぐに話し合える方法のどちらを選ぶかということですね」
モルガンの言葉を補足したトリスタンがなぜか楽しそうにほほ笑んだ。彼らの言葉の意味を知ったアーサーは即答する。
「そんなのは直接話すに決まっているだろう。時間が立てばたつほど人は死ぬんだからな」
「まったくあなたのことだからそういうと思ったわ。トリスタン……」
「わかっていますよ、モルガン様。いまごろランスロット卿が相手の本陣の場所を探っているはずです。砂漠の民の力を借りて接近しましょう」
苦笑しながらもこれからについて話し合う二人にアーサーは驚きの声をあげる。
「待て。俺は怪我をしても治るからいいが、ブリテンの騎士たちに攻撃をうけるかもしれないんだぞ。これは俺の我儘だ。だから、お前らは……」
「付き合うわよ、だって、私はあなたの婚約者ですもの」
「私はあなたたちの騎士ですからね、かわりといってはあれです、この話をぜひとも私に歌わせてください。お二人の物語を紡がせていただければそれで結構ですよ」
ついていくのが当然という二人の態度にアーサーは胸が熱くなるのを感じた。自分の我儘だというのにかれらは自分を信じて認めてくれているんだとわかったからだ。
「お前ら……ありがとう」
前の世界ではわからなかった気持ちにかつてモードレットに「あなたは人の心がわからない」といわれたことを思い出す。
ああ、本当に俺は馬鹿だった。皆が皆色々と考えて人々を信じ支えあっているのだ。
「いくぞ。ブリテンと砂漠の民の戦争をとめるんだ」
かつてないくらい力強いアーサーの言葉に二人は嬉しそうにうなづくのだった。
お待たせいたしました。更新を再開いたします
新連載の投稿をはじめました。
聖剣を奪われ、偽勇者と追放された俺だけど――それでも世界を救う英雄を目指さなきゃいけない!
主人公ではなかった少年が主人公を目指す物語です。こちらもよろしくお願いいたします。
https://book1.adouzi.eu.org/n0399km/1/




