113.和平の使者
砂漠だというのに周囲に氷の柱が降り注ぎ、夜の砂漠の温度をより下げていた。
「あなたたちはブリテンに正式に喧嘩を売ったということでいいのですね」
目の前の少女は完全にキレていた。目の前の砂漠の民たちをまるで魔物でも見るように感情のない瞳でにらみつけている。
「確かに俺たちはブリテンとは敵対関係にある。だが、皇子の命を狙ってなんかいない。余計なことをする妹をいさめようとしただけなんだ」
モルガンの魔法とトリスタンの矢に狙われている砂漠の民の族長は殺気にさらされながらも答える。
砂漠の民のアドバンテージは魔物や独自の道具を使った奇襲である。目の前に敵がいる状況ではそれはあまり活かされない。その上にトリスタンの弓の技術はすさまじくわずかな動きにも反応する上に、モルガンの魔法は完全に里を狙っていた。これだけ強力な魔法が直撃すれば被害も相当なものになるだろう。
「ならば、なぜあなたの妹はアーサー皇子をこの里に招き入れようとしたのですか?」
「それは……俺たちの食糧危機をなんとかするために聖王の後継者の力を借りようとしたんだと思う……。俺たちが大切にしている万能の木の実は聖王と初代様が力をあわせててにいれたものだから……」
「なるほど……昔はブリテンも砂漠の民の関係は良好だったというのは聞いたことがあります」
難しい顔をしながらモルガンが頷く。だが、それは何百年も過去の話である。何かがきっかけとなりブリテンと砂漠の民は完全な敵対関係になってしまった。
今もハーヴェは和平などは考えずに黄金小麦の仇を取ろうとしているし、武闘派の貴族はこれを機に武勲をあげようと準備をしているはずだ。周辺諸国が弱ったブリテンを逃すはずもないのにだ……
だが、モルガン自身もそれを選択肢にいれてしまっている自分を理解していた。それほどまでにもう砂漠の民とブリテンの人間の関係は悪いのだ。もしも、これで彼らとの関係性をよくできるとしたらそれはまさに奇跡だろう。
「だが、この流砂の下は試練の間だ。ミランダはもしかしたら万能の木の実を手に入れようとしているのかもしれない。たとえ自分の命を犠牲にしても……」
「……あなた方はそんなに危険な状況なのですか」
「ああ……もう、子供にもろくに食い物を与えてやれてない……」
族長の言葉と偉い身分の彼自身もほほがこけていることから相当危うい状況なのだろう。
このままではまずいなとモルガンは考える。砂漠の民が崩壊すれば彼らの一部は賊となるだろう。
砂漠での戦いに熟練した彼らが手引きをして荷馬車を他国との貿易の妨害となり、ブリテンの国力が低下する可能性もある。
最悪……この場で倒せるだけ倒してしまうか?
トリスタンとモルガンならば相手を目の前にしている上に村を人質にしている今ならば不可能ではないだろう。
だけど……アーサー皇子はそんなやり方をみとめてくれるかしら? 彼はいつだって、困っている人を助けて味方にしていたのだ。グラストンベリーでは聖女様を、ドルフではドワーフを、パーティーではハーヴェを……
「ねえ、アーサー皇子……あなたならどうするというの……」
「ふふ、あのモルガン様がこのような顔をするとは……まさしく、恋ですね」
「うるさい…… 私は今真剣に考えているのよ」
つぶやきに耳ざとくききつけ、にやりとするトリスタンを睨みつけるた、その時だった。
「うおおおおお!!」
「はは、馬車よりも過激ですね」
地面が盛り上がったかと思うとサンドウォームが現れたのである。しかも、その上にはアーサーと、ランスロット、ミランダがのっていて……
「お兄様、聞いてください。アーサー様のおかげで『万能の木の実』が手に入ったのです!!」
「なんだと……」
族長が驚きの声を上げるの見てモルガンは笑顔になる。ああ、この人はこうやってまた人を救うのだなと
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