110.サラマンダーの涙
その先にあったのは真っ赤に燃え盛る地獄のような光景だった。ねっとりとした液体のように、岩の表面を舐めるように流れながら、まるで生き物のように形を変え、地面を侵食していく。
そう……マグマである。もちろん、アーサーはこれが何だかしらない、だが鈍感な彼ですら触れれば危険になることがわかる。
「これは……」
「『サラマンダーの涙』です。触れれば人間はおろか金属すらも即座に溶けてしまうのです。もちろん、この子も……」
ミランダがわずかに震えながらサンドウォームをかばいつつサラマンダーの涙……マグマを見つめている。
絶対的炎炎の象徴であり砂漠の民が精霊の名前を使っているくらいなのだ、その目にはただの恐怖ではない畏怖の感情がこもっていた。
「万能の木の実はサラマンダー様の加護を得て育った木からなるのです。そう、あのように」
ミランダが指さす方にちょうどマグマに囲まれているなかで土が隆起している場所があり、そこに何本もの木が生えているのが見えた。
「なるほど……マグマですか……劣悪な環境でも生きようとした強い生命力を持つ植物……『それが万能の木の実」ということなのでしょうか?」
「ん? ああ、そうだな」
ランスロットがなにやらぶつぶつと呟きながらこちらを見つめているのでよくわからないけどとりあえずうなづくアーサー。
だけど、彼は思う。確かに無茶苦茶暑いし、おちたらまずいしモルガンからもらった魔石もあるのだ。なんとかなるだろう……
そう思った時だった。
「アーサー様!! 気を付けてください。魔物がいます!!」
「は……?」
マグマが盛り上がったかと思うと、何かがでてくる。
その身は真っ赤に溶けた溶岩で覆われており、その体からは時折溶岩の滴が流れ落ち、地面を焼き尽くす。人型のそれの目やは燃え上がる炎が灯っており、その視線だけで周囲の温度を上昇させるような錯覚に襲われる。
「ほう……初めて見る魔物ですね!! 剣は通じるでしょうか?」
ランスロットが躊躇なく切りつけるが、その刃が魔物のマグマで覆われた身体に食い込んだその瞬間、耳をつんざくような「ジュッ」という音が鳴り響く。
剣の切っ先から溶けた金属のように溶岩が滴り落ち、まるで怒れる生き物のように反応を返すが、肝心の魔物は何事もなかったかのようにその傷をマグマが覆う。
「なんとミスリルの剣が溶けるとは……そのうえダメージはなく、むしろ剣の方が危険ですね」
「この魔物です……この魔物たちが万能の木の実を守っているせいで我々砂漠の民も採取することができないんです。あの大地に足をつけ『万能の木の実』を入手できたのは歴史上ただ一つのパーティーのみなのです。そう……我らが初代族長と、聖王様、名もなき剣聖と、魔術師マーリン様の…四人組なんです」
ミランダがすがるような目でアーサーを見つめるのは気のせいではない。そう、アーサーも確かに気にはなっていた。
なぜただ子供を助けただけで己の立場があやうくなるであろうに彼を呼んだのかがようやくわかった。
「なるほど……聖王様と同じ力を持つとされるアーサー様ならばこれを見て、なにか対策が思い浮かぶかもしれませんね」
「はい……アーサー様どうでしょうか?」
ランスロットもミランダの言葉に頷き二人が期待の目で見てくる。そんな状況でアーサーはにやりと愛想笑いをうかべることしかできなかった。
いや、こいつら何言ってんの? 無茶ぶりしすぎじゃない? ……と。
いよいよ本日発売です。 よろしくお願いいたします。




