104.領主カーマイン
バザーから帰り、 衛兵たちに連れられて領主の館にきたアーサーとモルガンは、応接間にてさっそくこの地をおさめるカーマイン男爵と向かい合って座っていた。
護衛であるトリスタンとランスロットもいるが騎士である彼らは発言権がないため会話を見守っていた。
「アーサー様こんな遠くまでわざわざありがとうございます」
「ああ、初めて会うな、よろしく頼む。カーマイン男爵」
皇子とはいえ不遜な態度に周囲の緊張が走る。もちろん、本来ならば皇子であるアーサーの態度には問題はない。
だが、砂漠の民の領地とブリテンの境界線をおさめるカーマイン男爵は筋肉隆々の武闘派貴族だ。
しかも、カーマイン男爵は元々は気に入らない貴族に手をあげたためにこんな危険なところに左遷されるくらいの気の荒い人間であるのだが、王城の情報をシャットダウンされていたアーサーはその話をしらないため、ほかの貴族相手と同じように接しているのである。
そんな彼にアーサーのこの態度は、彼に度胸がある……というわけではない。
彼にとっては貴族というのはこびへつらってくるものだからだ。最初は媚びを売った方がいいかと思っていたが、モルガンからも過度にへりくだるとなめられると言われていためこのような態度をとっているのである。
無知がおこした事故のようなものである。
「はは、威勢がいいですねぇ、アーサー様」
「うん、ありがとう?」
「ほう……」
皮肉を交えつつもぎろりとカーマインが睨むも、アーサーは一向に動じない。なんだかんだ五大害獣と戦ってきた彼はもはやこの手のプレッシャーに慣れてきているのだ。
そして、その態度は武闘派であるカーマインにとっては好ましいものだった。
「ふふ、いい目をしてますな。それでわざわざここまで来たっていうからには、ついに開戦でしょうか!! ハーヴェのやつもそうとういらついているらしいですしね。俺はいつでもかまいませんよ!!」
にやりと好戦的な笑みを浮かべ己の筋肉をアピールするかのように力こぶをつくるカーマイン。
そんな彼に「俺はかまうわ!!」と心の中でつっこむアーサー。
善行ノートには『ランスロットと共に砂漠の民を説得せよ』と書いてあったのだ。このまま戦争になれば、たとえ勝ったとして他国にブリテンは隙をみせることになり、王族である彼の処刑フラグが復活してしまう。
雲行きが怪しくなってきたところでモルガンが口を開く。
「カーマイン男爵。お言葉ですが、砂漠の民は強力です。こちらも戦えばただでは済まないかと……」
「そんなことは長年戦ってきた俺がわかっている。だが、我が国の貴重な『黄金小麦』が奪われたのだぞ!! このままでは面子は丸つぶれだ。それにあのハーヴェを説得できるなにかがあるのか?」
「あちらの代表と話し合う機会を作るのが先でしょう?」
「は、お前さんはなにもわかっていないなぁ。話し合ってどう賠償してもらうんだ? こんな砂漠にはろくな作物はない。子供の喧嘩じゃないんだ。ごめんなさいじゃ終わらないんだよ。ハーヴェのやつを説得するには貴重な作物でも見せなきゃ怒りはおさまらないだろうよ」
「それは……」
身分の差を気にせず怒鳴るカーマインにモルガンが気圧される。これは別に彼女が気おくれしたわけではない。
カーマインのいうこともまた正論だからだ。面子を大事にする貴族が怒るのはもっともただとわかっているからこそ、強い言葉を言えないのである。
そんな二人の口論を聞きながらアーサーは前世でも砂漠の民と戦った理由を思い出そうと必死だった。
作物……そう、食糧不足になったブリテンは何かを求めて砂漠の民と戦ったのだ。
「万能の実……」
思わずモルガンがアーサーを見た時だった。彼はぽつりとつぶやく。その一言に、カーマインが大きく目を見開いた。
「砂漠の民の秘宝をよく知っていますなぁ。どんな劣悪な環境でも実がなるという神の祝福を受けた作物です。確かにそれさえあればハーヴェも納得はすると思いますが……」
「そんな食物が本当にあるの?」
荒唐無稽な『万能の実』の存在にモルガンが疑問の声をあげるとカーマインが立ち上がり、壁に飾られていた枝を差し出す。
それは美しい色合いの枝であった。日の色の角度によって色彩がかわるとても珍しい植物だということがわかる。
「これは砂漠の民の族長を捕らえた時に、その命と交換で受け取った『万能の実』の木で作られた杖です。なんでも砂漠の中の特殊な環境で育つ神の祝福を受けた木だとか……」
「それだ、それさえあればハーヴェも納得するだろう」
どや顔をするアーサーだったがカーマインの表情は暗いままだった。
「ですが、これは砂漠の民の秘宝です。くれって言っても譲ってくれるようなものじゃないですし、砂漠は迷路のようになっていてやつらの拠点の場所だって把握できていないんです。そして、中途半端に刺激すればあいつらは牙をむいてくるでしょう。交渉する方法がないんですよ」
「なるほど……だから、アーサー皇子はあの時砂漠の民を助けたのですね」
カーマインの言葉にモルガンがうなづくと、アーサーに微笑んでくる……が、もちろん彼は何を言っているかわからない。
「カーマイン男爵、ご安心ください。アーサー皇子はすでに砂漠の民の信頼を勝ち取っていますよ」
まるで自分のことのようにどや顔でバザーでおきたことをはなすモルガン。もちろん、カーマインの出方がわからないため、これから会うことは内緒である。
「まさか、あの砂漠の民がブリテン人に心を開くとは……」
モルガンだけでなくカーマインもまた、驚きと共に尊敬の瞳でみつめてくる。それにアーサーは……
「ふ、計算通りだな」
とりあえず調子に乗ることにしたのだった。だって、違うって言ったらモルガンがきれそうなんだもんというしょーもない理由で。
★★
そして、話し合いは終わったのでアーサーたちが部屋をでて、それにトリスタンとランスロットもついていこうとした時だった、カーマインに呼び止められる。
「ランスロット……帰ってきたのだな。お前はまだ俺の息子を恨んでいるのか……?」
「もう、終わったことでしょう? 今の私はただの護衛の騎士ですよ」
申し訳なさそうな顔のカーマインにランスロットが愛想笑いをしながら答える。だけど、その瞳はどこか空虚だった。
今月の29日にこの作品の二巻が発売されますので、よろしくお願いします。
表紙はアーサーとガウェイン、マリアンヌとなります。
よろしくお願いします




