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102.市場での出会い

「おや、市場に向かわれるのですね、それならば私に案内させては頂けないでしょうか?」


 ランスロットの言葉にアーサーはどうこたえようか悩む。こいつはアグラヴェインの部下である。味方とは限らないのだ。そのうえ……


 こいつ、モルガンしか見ていないな!!


 別にモルガンに惚れようとどうでもいい、だが、護衛のはずの騎士にないがしろにされて受け流せるほど、アーサーは大人ではない。

 そう、彼の器はとってもちいさいのだ。



「他の派閥の人間が護衛だと……面白い冗談だな」

「アーサー皇子……」



 一歩踏み出してランスロットを睨むアーサーにモルガンが赤面する。そう、その光景はまさに俺の女に手を出すなとばかりに見えたのだ。

 そして、そんなラブコメっぽい状況を見逃すはずのないものがいた。



「ランスロット卿。ようやくお二人は素直になれたのです。あまり邪魔をしないでいただきたいですね」

「ほう……私の邪魔をするというのか?」



 飄々とした表情のトリスタンが割り込むとまわりの騎士たちがざわめくのがわかった。

 ランスロットだけでなくトリスタンもまた騎士の中では優れた弓の使い手と有名人なのである。そもそもが実力主義のモルガンにその腕を買われているのだ。ただの騎士のはずではなかった。



「モルガン様の配下でもトップクラスの強さのトリスタンと最強の騎士ランスロットがにらみあっているだと……」

「まさかここで争いがはじまるのか?」


 もちろんそんなことを知る由もなかったアーサーは周囲の反応に驚いていた。



 え、トリスタンってそんなに強かったの? ただの恋愛脳じゃなかったのか……そういや、コカトリスとの戦いでの弓さばきはすごかったな。

 


 そんなことを思いながら二人が不敵な目でにらみ合っているのを眺めていたアーサーだったが、ランスロットの視線が見定めるような目でこちらに向いていることに気づき思わずびくりとしてしまう。

 

 前世の……革命のときに追われた時の記憶が頭をよぎってしまったのだ。思わずふらつくとモルガンが怪訝な顔をしながらも彼とランスロットの間に割り込んだ。まるでアーサーをかばうかのように……



「まあいいでしょう。わたしとて喧嘩をしたいわけではありません。二人で護衛するとしようではないですか」



 そんなアーサーの反応を見て一瞬冷たい目をするとランスロットは仕切り直しとばかりにモルガンにたいしてさわやかな笑みを浮かべた。



「モルガン様のことは私が必ずやお守りいたしますのでご安心を。そちらの皇子様よりも確実にね」

「悪いけど、私の手はもう埋まっているの。不要よ」

「うお? ちからつよ!!」

「おやおや、これはランスロット卿の存在が良いように働きそうですね」



 ランスロットの差し出す手を無視し、アーサーの手を握るとそのまま市場の方へと向かうモルガンだった。




 砂漠の市場はバザーというらしく、カラフルな布で覆われたテントや屋台が並び、日差しを遮るための大きな布が張られているのがわかる。鮮やかな赤、青、オレンジなどの色彩が溢れ、最近他の街に出歩くようになったアーサーの目にも物珍しく映った。

 そして、並ぶテントの中には、絨毯やカーペットが敷かれており、商人たちは座りながら取引を行っているのが見える。


「へぇー、面白いな。色々な香りがする……なんだこれは?」

「おそらくスパイスね。砂漠では珍しい香辛料が売買されているの。ただスリやぼったくりも多いから気を付けないと痛い目を見るわ」

「ぶっそうだな……」

「ここはブリテンでも貴族街でもないもの。まあ、孤児院を行き来しているあなたならば百も承知でしょうけど」



 普段の買い物では考えられない治安の悪さに戦慄しているアーサーにモルガンが微笑む。

 彼女的には信頼の証なのだが嫌味を言われたと勘違いしたアーサーは話題を変える。



「あれは……乾燥した果物か……」

「ええ、。乾燥食品は、砂漠の過酷な環境でも長持ちするから、主食として取引されるのよ。まあ、あなたのことだから知っているでしょうけど」



 アーサーが何気なく口にした疑問にウィキペディアのように答えるモルガン。多少悔しく思いつつもアーサーが知らない知識をポンポンと披露する彼女に感心する。

 そして、ブリテンでは見ない衣類や、様々な食料品や動物などにアーサーが目を輝かして夢中になっていた時だった。

 一人の影が彼に向って近寄って来る。



「……」

「なっ!?」



 トリスタンがアーサーに近づく少女の妨害しようとしたタイミングでランスロットが無言で彼の腕を掴んだのだ。

 にらみつけるトリスタンと意味深に首を振るランスロット。

 そして、その結果……



「うおお?」

「ごめんなさい、急いでいて……」



 十歳くらいの褐色の少女がアーサーとぶつかって、頭を下げてそのまま走っていく。全く前を見ろよと憤慨しているアーサーだったが、再び商品をみようとするがモ眉をひそめたモルガンが話しかけてくる。



「アーサー、財布は大丈夫かしら?」

「あれ、ない!! さっきのはまさか、スリか!!」



 己の財布がないことに気づき声をあげて追いかけるアーサー。



「俺のお小遣いをかえせーー!! それにしてもなんであんな子供が……」



 もちろん、彼の手持ちの金は大した額ではないし、王都に戻ればくさるほどある。だが、あれは無駄遣いをしないようにとケイと一緒に話し合って買い食い用にと話し合った大切なお金のである。

 彼はちゃんと言いつけを守ってケイに褒めてもらいたいのである。



「くっ、ここじゃあ、さすがに魔法は使えないわね」



 モルガンが悔しそうにしている間にも少女は人込みをかきわけて、スルスルと先にいってしまう。

 彼女がバザーを抜けて横道に入った時だった。そのまま人のいないところに逃げられてしまいそうなところを矢が彼女の服に突き刺さり、そのまま家屋に縫い付ける。



「ふ、私の腕前を忘れていただいては困りますね」

「おお、よくやったトリスタン!! 今度クッキーと美味しい紅茶をおごってやろう」




 得意げに矢を射抜いたトリスタンにアーサーが笑顔を浮かべる。人がたくさんいるなかでこれを成し遂げるのは人間離れした集中力が必要であり貴族によってはそんな彼を危険視するものも少なくはないのだが、世間知らずのアーサーはそんなことももちろん知らないため、自然体である。



「よいですね、せっかくです。恋バナでもしようではないですか」



 そんな様子がトリスタンはとても嬉しいのである。 そして少女をトリスタンが捕らえ、アーサーの元に突き出すも、彼女は意地でも財布を返すまいと胸に抱える。



「うう……離して!!」

「人のものをとったらいけないってお母さんに習わなかったのか?」

「お母さんなんていないもん!! 恵まれてる貴族のあなたにはわからないでしょ」

「いや、俺もいないが……?」

「え? その……ごめんなさい」


 アーサーの返しに思わず謝る少女。その時「くーーーー」という可愛らしい音が響き少女は顔を赤らめる。



「おなかが空いているのか?」

「ええ、そうよ。だって仕方ないでしょう。ご飯を買うお金もないんですもの」



 前世の空腹時代を思い出したアーサーは少女を見つめる。その手足は細く、頬はこけており、満足に食事もとれていないのがわかる。



「そうか……それはつらいよな。これをやるから財布は返せ」

「……いいの?」

「やるといったんだ。俺に二言はない」



 持っていた干した果物を差し出すアーサーとそれを見て眉をひそめるモルガン。その二人を気にせず少女はすごい勢いで口にする。



「アーサー皇子……中途半端な善意は何も浮かばないわよ」

「ほう……噂だと有無を言わさずに処罰を命じると思いましたが……」

「少女ならば見境なく親切にする……流石ですね、アーサー様」

「あー、ほら、あれだ。民が飢えているのは彼女たちのせいではない。領地を運営しているものの責任だろう? つまりは俺たちにも責はあるんだよ」



 咎める視線に、意外そうな声、下さらない軽口と三者三様の反応にアーサーが苦しい言い訳をするなか少女が口を開く。



「あなたはブリテンの貴族なんだよね? なんで私みたいな砂漠の民にも優しくするの? 私はあなたの領民ではないでしょう?」



 え、砂漠の民だったの? 衝撃の事実にアーサーは間の抜けた声をあげそうになったが、先ほどの言い訳が崩壊したのを理解しモルガンの視線がこわくとっさにごまかすように笑みをうかべる。



「それはだな……」



 そんな時だった。砂煙がまき散らかされたかと思うと地中から何者かがおそってくるのだった。

今月の29日にこの作品の二巻が発売されますので、よろしくお願いします。


表紙はアーサーとガウェイン、マリアンヌとなります。


よろしくお願いします

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