後日談:フライア視点7
いつもお読みいただきありがとうございます。
この話でフライア視点は終わる予定でしたが、長くなってしまったので二話に分けます。
お見合い大作戦は自己紹介とちょっとした会話で終了した。
「お見合いの後でなんですが……今日は妹がアシェル殿下とお茶をしているので、フライア嬢も良ければこの後一緒にどうぞ。アシェル殿下の許可は取っています」
「まぁ、そうでしたの。でも友人と婚約者の逢瀬を邪魔するような無粋な真似はしませんわ」
エリーに会いたいし愚痴を言いたい気分ではあるが、殿下もいるならそんなことはできない。
「第二王子の婚約者としてのお披露目のドレス決めで妹も疲れているので、フライア嬢さえ良ければサプライズで会って帰ってやってください。これから忙しくなって会う時間も取りづらくなるでしょうから」
「それならお言葉に甘えますわ」
王宮で出されるお菓子はどれも一級品だ。クロエほどは食べないが、高級かつ美味しいお菓子なら私だって食べたいのであっさり了承した。
「じゃあ、アートと私でフライア嬢をアシェル殿下のところまで案内するからみんな、エリアス殿下が帰ってくるまで寝てろよ。どうせあの人、また野良猫にちょっかいかけに行ってるだけだから」
アートことスチュアート・ハウゼン伯爵令息はその場で立ち上がり、あとの四人は礼をして隣の部屋に入っていく。
「すみませんね。私とアートは昨日、家に帰ったのですが彼らは帰っていないので、今のうちに仮眠を取らせようと」
「皆様お疲れなのに私にお時間を割いていただいて申し訳ないですわ」
「美しい侯爵令嬢と知り合えるんですから嬉しい限りですよ。普通に生きていたら貴族でも住む世界が違いますからね。職場は男ばかりですし、今日はありがとうございました」
クリストファーと一緒に歩きながら、ハウゼン伯爵令息のアートことスチュアートも頷いている。スチュアートというと即座に第三王子を思い出してしまうので、彼は名前で相当損をしているのではないかと思う。
「そういえば、野良猫って何かの隠語ですの?」
「いえ、そのままの意味です。王宮の庭にたまに野良猫が入り込むんですが、エリアス殿下は猫に全く懐かれないのにちょっかいを出すんですよ。今日こそはあいつを服従させる!なんて言いながら引っかかれて帰ってきます。猫は人間性が分かるのですかね」
「ええっと、きっとその野良猫は賢いのですね。餌をやってすぐ懐くようでは困りますもの。警戒心も強いのでしょう」
「賢いなら飼うのも良いかもしれませんね。あ、マズイ。アート、道を変えるぞ」
クリストファーは何かに気付いたのか、フライアの目の前を遮るような立ち位置に移動する。
しかし、それは遅かったようだ。
「フライア! フライアだろう! 待ってくれ!」
三人揃って踵を返したところで背中に聞き覚えのある声が投げかけられる。
覚えはあるのだが、はっきりと誰なのかは思い出せない。
「無視して急ぎましょう」
クリストファーはシレっと足を速めたが、それよりも早く追ってきた人物に前に回り込まれた。あぁ、こいつの声だったのかとフライアはやっと思い出した。
「ち、面倒な」
クリストファーは舌打ちをし、事態はよく分からないがなんかマズイと分かっているアートも顔が険しい。
「フライア! まさかここで会えるなんて思ってなかったよ!」
「無礼ですわ。婚約者でもないのに私の名前を呼び捨てにするなんてストーン侯爵家では再教育の意味がなかったのではなくて?」
思ったよりも低い声が出た。思いのほか私はこの元婚約者イライジャ・ストーンに腹が立っているようだ。声をかけてきたのは元婚約者だった。
振り返ると、廊下に放られた掃除道具が見える。すっかり忘れていたが、ブレスレット騒動の罰として与えられた王宮の廊下掃除はまだ続いていたようだ。他のメンバーは見当たらないので、掃除を担当する場所がそれぞれ違うのだろう。
「いや、その、手紙の返事がないから心配で……」
「当たり前でしょう。ご自身が何をなさったのかそのお花の咲いた頭で考えたらいかが? ご自身の頭を心配なさった方がいいわよ。あなたに返事を書くインクも紙ももったいないですもの」
クリストファーが激しく同意を示すように頷いているのが視界に映る。
「では、お掃除の途中でしょうから失礼しますわ」
そう言って元婚約者の側をすり抜けようとするが進路を塞がれる。むかつく、ピンヒールで足を踏んでもいいかしら。
イライラして不穏なことを考えていると、間に人が割って入った。それは意外にもクリストファーではなかった。




