後日談:フライア視点5
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一体どうしてこうなったのだろうか。
「あはは。単なる良い人なんてこの世に存在するわけないじゃないか、フライア嬢」
目の前で楽しそうに笑うのはキラキラした悪魔。ではなく、王太子殿下。
「フライア嬢のお見合い大作戦開始だよ!」
作戦名が直球過ぎてダサい……。
キラキラした王太子の横にはこちらを不憫そうに見てくるエリーの兄クリストファーさんがいる。
さて、ここまでの流れを回想しよう。
***
まず、数日前にハウスブルク伯爵家に招かれてエリーとお茶をしたのだ。
クロエは結婚式に向けて忙しいし、ブルックリンも結婚してから忙しい。ナディアは隣国なのでホイホイ帰ってこれないから私とエリーだけのお茶会だ。
卒業すると学生のように身軽にはいかないわよね。
そこで、エリーにお父様が帰ってこなくて後継者変更の手続きが進まないと愚痴ったのよね。
「侯爵様が帰ってこなかったら手続きが進まないわね」
「そうよ、王宮に乗り込んでもお父様の部署まで通してもらえないわよねぇ」
王宮に乗り込めるならとっくにしている。
「そうね。簡単に仕事場までは通してもらえないわ」
「アシェル殿下はうちのお父様の予定とかご存じないかしら。それか何とか帰ってきてもらえるよう取り次いでもらえないかしら」
「あ、今日はお兄様がいるから聞いてみるわ。アシェル殿下は視察や孤児院への訪問をよくされているから侯爵様と会う機会がないと思うのよね」
アシェル殿下ってあんまり人に興味なさそうだし……そうよね。確か、エリーのお兄さんは王太子殿下の側近だったわね。
「このお酒は!!」
エリーのお兄さんは挨拶もそこそこに、私が無造作にテーブルの上に出したお酒を見て驚愕している。
さっきエリーに「お酒好き?」みたいなノリで出してたんだよね。お父様のコレクションのお酒だ。
私達まだ年齢的に飲めないけどもうちょっとで飲めるから。お酒自体好きじゃなくても瓶コレクターもいるし、聞くだけ聞いてみようと思って。
「フライア嬢、これ一本で王太子殿下は大抵のことなら叶えてくれますよ。面倒なことになるかもしれませんが」
「賄賂?」
「買収?」
エリーと二人で顔を見合わせる。大丈夫なの、王太子が買収されて。
どうやらこれは王太子殿下が大好きなお酒らしい。ただ、高いのと非常に希少なのとでなかなか手に入らないようだ。側近やシェフ達もこのお酒が飲みたいと言われて困ってるんだとか。
お父様、よく二本も手に入れたわね。愛人囲いながらさらにお金を使ったのかしら。
そんな感じでエリーもお兄様もそこまでお酒を飲まないそうなので、王太子殿下に渡してもらうことにした。私はお父様に腹が立っているので、希少だろうが高価だろうがまぁいいか。
お酒を献上?した結果が昨日の「俺の酒が飲めないのか」「早く届を出せ」という脅しだ。無事、お父様は家に帰ってきて、疲れた様子で手続きの書類を書いていた。「やっぱり家はいいな」なんて言っているが……。王宮に泊まり込みって疲れるわよね。お母様が帰ってきても家がいいのかしら。
***
そしてお父様が帰ってきた翌々日。
私は王太子殿下に呼び出されたのだ。断れるわけがない。
私の前にはキラキラ悪魔とエリーのお兄さんと、その他五人の令息達。
「さぁ、フライア嬢。気に入った子がいたら遠慮なく連れて帰ってくれたまえ」
「ペットか」
エリーのお兄さんが私より早くツッコミを入れる。早いな、ツッコミ速度。
「やだなぁ、ペットは立派な家族の一員だよ」
「ナチュラルに酷い」
「この五人は私の側近達でね。名前は本人に聞いて。みんな計算も早く、書類仕事にも慣れていて領地経営も任せられそうな人材だよ。婚約者はいないんだ。伯爵家の次男とかが多いよ~。気に入る子がいなかったらお見合い大作戦第二弾をやるからお楽しみに! じゃあお散歩に行ってくるね」
「仕事をしろ!」
王太子殿下はエリーのお兄さんを無視して、言いたいことだけ言って出て行った。




