後日談:フライア視点2
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「向こうで付き合っているご令嬢のお家が婿入りじゃないと駄目みたいで。他国に嫁がせるのはどうしても嫌なんですって。ロナウドも悩んでたみたいだけど、お相手はあちらの国の公爵家のお嬢さんだし、とっても良縁なのよ。それにあの研究オタクのロナウドのこと好きになってくれるご令嬢は希少だし……それに丁度良くあなたの婚約も解消したからまぁいいかしらと思って」
まぁいいかしらって、そんな。後継ぎのすげ替えですよ? スペア、将来は兄の補佐くらいはできる様にとお勉強は叩き込まれてはいるんだけど。
「ロナウドもストーン侯爵家のあの息子は嫌だったみたいでね。あなたが旦那様を脅して婚約解消させたと伝えたらえらく喜んでたわよ。旦那様にはあなたを後継ぎにするように手続きさせてるから、婿は好きに優秀なのをどこからでも拾ってきなさい」
お母様、そんなホイホイ優秀な婿は落ちてませんよぅ。落ちてたら苦労しないし。
「ストーン侯爵家の阿呆は何度かうちに来たのよ。面倒だったわ。旦那様自慢のお酒コレクションを割ってやろうと思って探してたのに、あの阿呆に時間を取られて。偶然、私が旦那様とのお話中に来たことがあって、その後から来なくなったから丁度良かったわ」
お父様とのお話し中というのはあれですね、お父様が正座した状態でのお話合いですね。お父様が都合の悪いことを沈黙したら、お母様が手近な美術品やらを壊すというあの手法ですよね。
お母様って最初は感情的に怒って、その後は理路整然と相手を追い詰めていくのが怖いのよね。
「そうそう。あなたが侯爵家を継ぐと嗅ぎ付けた他家が次男やら三男やらとの縁談を持ってきたけど、全部断っておいたわ。旦那様にもあなたが帰ってくると遣いを出しておいたから、数日中に戻ってくるでしょう。私はお父様の看病をしに実家に帰るから」
「え……お爺様はそんなにお加減が悪いのですか?」
母方の豪快な祖父を思い出す。お母さまは伯爵家出身だ。お爺様がそんなに体が悪いなんて知らなかった。
「心配しなくてもただのぎっくり腰よ。私も羽を伸ばしたいし丁度いいわ」
「はぁ……」
これだけ屋敷の物を破壊……いや減らしておいて羽を伸ばすという表現はいかがなものか。一番悪いのは愛人がいたお父様だけどね。
「私がお父様のお酒コレクションの場所を知っているので、お爺様へのお土産にしますか?」
お父様のお酒コレクションは執務室の本棚の奥の隠し部屋にある。お母様には内緒にしていたようだけど、私は愛人関連の調査の時にしっかり見つけてしまった。割るよりもお爺様へのお土産にした方が絶対良いだろう。私も1本、やけ酒で飲んでやる。2本くらいエリーに送っとこうかしら。
あら? そもそも、ぎっくり腰の時って飲酒していいのかしら。まぁ回復したら飲んでも大丈夫よね。
「まぁ! それはいいわね。みんな、運ぶのを手伝ってちょうだい!」
侍女頭のエテルを筆頭に女性使用人達は喜々としてお母様の号令に従っている。
お酒コレクションはたくさんあったので、棚の1段分がお母様の一声でお爺様への手土産となり、上機嫌で実家に戻って行った。
エテルを始め、女性使用人たちは「私も奥様に付いて伯爵家に行きたかった……」と呟いていたが、お母様はほんとに何をしたのやら……。あの細身の剣もどれだけ活躍したのか知るのが怖いわ。




